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英雄に育てられた少女は、どうやら世界を救うようです!  作者: 喜山 涼
第3章 「やがて夜空を照らす者達へ」
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3章ー閑話  「王国を守護する剣」

 

 『近衛騎士団』

 

 王国を守る三大戦力の中で最も武力を有しているのが彼らだ。

 騎士たちの中でも秀でた一握りの者だけが入隊を許可される500年前から続く由緒正しき組織であり、王国を守護する剣。

 そんな彼らは今日も人々の憧れや尊敬の念を一身に受け、その期待に応えるよう強者で在り続ける。

 

―――ただし、騎士の全員がそうだと言えばその答えは否である。

  

 

 王都の中央一番通り。 

 そこは王都で最も人通りの多く、最も多くの店が軒を連ねる道である。

 しかし、今はそこは少し奇怪な状態となっていた。

 

 店は開いている。人々も溢れている。しかし、その全てが歩道に寄っており何故か彼らの動きを抑制するかのように等間隔で衛兵が立っていた。

 人々の目当ては店の商品などではない。

 では人々は一体何を待っているのか。その答えはすぐに前方からやってくる。


 初めに一人がその集団を発見し、声を上げて他の人々にそれの場所を伝えるために指をさす。そして、次々にその姿を発見した人が声を上げ、いつしかそれは喝采となり通りを埋め尽くす。

 そして、その割れんばかりの歓声に応えるように一つの集団が通りへと姿を現した。


 その集団の先頭を歩くのは白い髪を短く整えている壮年の男。

 腰には装飾の施された剣を差し、白と青を基調とした隊服の上からでもその肉体は日々の鍛錬により鍛え抜かれていることがわかる。

 その男は左右から降り注がれる歓声に柔和に笑い、手を振りながら応える。その自然な仕草は慣れを感じさせた。


 そしてその男の後ろを同じく隊服に身を包み、腰に剣を差した騎士たちが二列になり付き従う様に歩いていた。

 

 その中の一人、壮年の男のちょうど右後ろの位置の青年が不意に呟いた。


「――ったく、見世物じゃねーぞ」


 憎々しげなその呟きは歓声に打ち消され、青年の周囲にだけ届く。それがまた青年の気持ちを苛立たせる。

 

 青みがかった黒髪を邪魔にならない程度の長さに揃えた美しい容姿の青年だった。

 毛先が少し跳ねているのは髪質だろう。青年の淡い蒼色の瞳は鋭く輝いており、そして細く薄い眉が一層その鋭さを助長させていた。

 スラリとした体を胸元に”Ⅰ”の刺繍の入った隊服に包み、腰にはシンプルな装飾だけが施された剣を下げている。


「こんな真昼間からどいつもこいつも……! こんなことしてる暇があんなら鍛錬でもしてろってんだ」


「…はぁー、全くキミは相変わらずだね。こんなに多くの麗しい女性に迎えられているというんだ、少しは応えてあげるのが騎士の務めなんじゃないかい?」


 イライラを隠そうとしない”Ⅰ”の青年に横合いからそんな声がかかる。

 

 その男は青年よりは少し年上だろうか。

 明るい栗色の長髪をした美丈夫だ。胸元に”Ⅱ”の刺繍の入った隊服に腰には剣と、基本の格好は青年と変わらないが、その男の隊服や剣は多くの装飾で鮮やかに飾られており、男の身分の高さが垣間見えている。

 

「けっ、くだらねぇ…!」


 しかし、そんな男の指摘を青年はそう言って吐き捨てる。

 その反応に、男はやれやれと首を振ると、


「――まったく、我ら誇り高き『近衛騎士団』の隊長の一人がこんな気品や優雅さのかけらもない平民剣士とは…。一騎士として団の未来が不安でならないね」


「何度も言ってるが、俺とお前じゃ価値基準が違いすぎて話にならねぇよ。気品も優雅さも騎士には必要ねぇ。必要なのは――ただ圧倒的な剣技だけだ」


「その理屈ではただの人斬りでさえも騎士となりうる。剣技が必要なのは当然。そこに加えて騎士としての立ち振る舞いが必要だと言っている」


 こんな問答は二人にとっては日常茶飯事だった。生まれる前から決まっていたかのような性格の不一致がもたらす相性の悪さ。

 お互いに引く気は全く無いようで、二人の瞳がぶつかりバチバチと火花を散らす。しかしその間へ、


「はい、ストーップ!」


 と後ろから高い声がかかり、同時に二人の肩へと手が触れる。


「リリもマーさんもどうどう、どうどう。落ち着きなさいな」


 気さくさが溢れる親しみやすい声音だ。

 日頃から聞き慣れているその女の声に二人の男はゆっくりと後ろを振り返る。

 

 そこにいたのは二人と同じく”Ⅲ”の刺繍がついた隊服姿の女騎士。朗らかな笑みを携え、その首筋辺りで無造作に整えられた髪はまるで灰をそのままかぶったような色彩をしている。

 身長は160センチにも満たない。一瞥しただけではとても騎士とは思えない可憐で少し幼い顔立ちをしているがその腰には二振りの細剣が差してあった。


「うっせ、つーかリリって呼ぶな」

「マーさんはやめたまえと言っているだろう」


 二人の声が重なり、それがまたお互いの勘に障ったのかにらみ合いが再開する。

 そんな二人の様子を半笑いで眺める女騎士。目の前の光景は彼女にとって、いや近衛騎士団にとっては日常と言っていいほど見慣れた光景だった。


「そもそもキミもこの男には騎士として、騎士団隊長としての自覚が足りないと、そう思うだろ?」


 と不意に”Ⅱ”の男が女騎士へと視線を向ける。

 その疑問に女騎士は少しの間「う~ん」と顎に手を当てて考えるような素振りを見せるとニッコリ笑い、


「まぁー難しいことはよくわからないんだけど……もしリリが隊長として不適格なら、そんなリリの隊長就任試験で試験相手を買って出ておきながら、平民とか何とか言って見下した末にボコボコにやられたどっかの二番隊隊長が悪いと思うの」


「…………………」


 男の表情が固まる。

 沈黙。長い沈黙。

 そして、


「そういえばいたな、そんな男も。だが、やつは死んだ」


「おい、お前いつ死んだんだよ」


「おお~、予想外の切り返し。驚きなの」


 憮然とした態度で答える男に青年と女騎士がジト目を向ける。

 しかし、男はその視線を受け流し、フッと小さく笑うと真剣な瞳を青年に向けた。


「比喩に決まっているだろう。何はともあれ、あの時の過去の私は死に、それにより我が剣はまた一つ強くなった。――今の私の剣はキミの『神域』に届くぞ」


 囁くような、しかし確かに熱の籠った言葉。

 その男の言葉に青年は笑みを浮かべる。


「面白れぇ。帰ったら直接試してみるか?」


「ああ、のぞむところだ。私がキミより上だということを身を持って味あわせてみせよう」


 そんな二人の様子を女騎士はその様子を楽しそうに見ていた。

 そして、ワクワクという擬音が聴こえてきそうな程に高揚した顔で、


「おおー、それは名案なの! 最近は身内で剣を重ねるのはご無沙汰だったし、せっかくなら本部に戻ってからジミーとゴリさんも誘って隊長総当たりバトルでもしてみるの!」


 と二人に向かって、やる気に満ちた拳を掲げた。

 二人もその提案はまんざらでもないようで、フムフムと頷く。


 しかし、三人は忘れていた。

 今は、ガッツリ凱旋期間中。未だにここに集まった国民は彼らに声援の喝采を送り続けている。

 そして、そんな声援に応えるのも彼らの仕事の内なのだ。


「おまえらなぁ……!」


 その声にギョッとする三人。

 前方にはニコニコしながらも、額に青筋を浮かべた男の顔があった。

 

 『近衛騎士団』は団長を筆頭とし、その下に副団長。そして、その下に五つの隊を束ねる各隊長、隊長補佐、そして各隊の団員という組織図となっている。

 三人はいずれも隊長。だが、目の前にいる男は三人にとって数えるほどしかいない直属の上司の内の一人だった。


「どうでもいいけど、本部に戻ってから話せ…!!」


 睨みを利かせ、ドスの利いた近くにだけ聞こえるような声で叱りつける。

 男――騎士団長の言葉に「へいへい」「申し訳ありません」「ごめんなの」と三者三様に恭順の返事を返す。

 その様子を見て騎士団長はやれやれと首を振り、再び柔和な笑みをつくり民衆へと手を振って応え始める。三人もすでに私語を止め、”Ⅱ”の美丈夫と”Ⅲ”の女騎士は彼と同じように民衆へ笑顔を向け、”Ⅰ”の青年は静かに目を伏せ、不機嫌そうに歩を進める。


「…ったく、どいつもこいつも我が強すぎるぜ」


 騎士団長は、そんな彼らにも聞こえないように口の中でだけそう呟いた。

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