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1章ー8話  「新たな才能」


拝啓 セシュリア・コナー殿


 なんだか俺の娘が魔法覚えたがってるみたいなんで、同封した地図の場所までちょっくら教えに来てくれ。

 じゃ、待ってるから!


                              グリシラ・リーヴァインより



「こんな要点のみが書かれた手紙がちょっと前に僕の家まで届いたわけだ~」


 意識が覚醒しソファーから起き上がりってテーブルに着いたセシュリアが、台所で魚の鱗を取っているアイリスに向かってローブから出した手紙を見せる。

 テーブルに突っ伏せながらのその口調はどこか気だるげで初対面のアイリスは感情が読み取れないでいた。


「それは……遠路はるばるお疲れ様です。すぐご飯作りますんで待っててくださいね。――あーもう多い! ちょっと親父、鱗取るの手伝って」


 そう言ってセシュリアと同じくテーブルについているグリシラに助けを求める。それに応じグリシラがテーブルから立ち上がりキッチンへ移動する。

 ちなみにこうして急いで夕食の支度をしているのも、セシュリアが自己紹介した後すぐに「お腹すいた~」と言い出したのが原因であった。


「君が子育てしてること自体驚きだけど、親子で料理とはね~。なかなか新鮮な光景だな~」


 キッチンに並ぶ二人の様子を見てセシュリアが全く驚いていないような平坦な口調で感想を漏らす。本当にお腹が減っているようで腹の虫がなっている。


「ハハッ、今日さらに絆が深まったとこだ! おまえは子どもを育てたいとか思わないのか?」


「思ったこともないな~、僕が極力労力を使いたくないのは君も知ってるだろ~。あ、座ってたらまた眠くなってきた~」


 鱗を取りながらのグリシラの質問にセシュリアがテーブルに突っ伏せたまま顔だけ横に向け答える。そして、段々と目を閉じていったかと思うとまた寝息をたて始めてしまう。


「……この人ホントに凄い人なの、歳もあたしとたいして変わらなくない?」


 セシュリアがまた寝だしたのを見て、アイリスが鱗を取り終えた魚を切りながら尋ねる。


「まー人間性には若干の問題アリだな、それは五勇星全員に言えるが。でも実力は保障するぜ、初代『魔法星』の再来と言われてる天才だ。あと年齢は見た目通りじゃないぜ」


「え、どういう意味?」


「魔法使いには、迷彩系や時間系の魔法で見た目を変えれるやつが何人かいるのさ。あと魔法使い以外にも見た目と年齢に違いのある人間はいるぜ。まあ、おまえの知らない色んな奴がまだ世界にはいっぱいいるってことだ」


 そう言ってグリシラは焼きあがった魚を更に乗せテーブルに運んでいく。そして、アイリスはまだ自分には未知のことに思いを馳せて興味深々と言った様子で「へー」と唸りながら鍋をかき混ぜていた。



「お~、ご飯のにおいがする~」


「相変わらず食い物に関しては鼻が鋭いな」


 テーブルの上に料理が並んだことで、セシュリアが目を覚ます。その視線はもはや料理以外に向いていない。

 そんな様子を見てアイリスが緊張した顔を作り、


「えっと、そこまでおいしくないかと思いますけどよかったらどうぞ」


「僕は食べ物への味覚はおいしいと凄くおいしいしかないから大丈夫~。じゃあ、いただきます~」


 そう言うとセシュリアはフォークで魚の切り身をとり、口をこれでもかというほど大きく開けて食した。 

 その後も「うんうん」とおいしそうに噛みながら次々と胃の中に料理を運んでいく。よほど食べるのが好きなのだろう。


 ちなみにセシュリアが来たことで今の席はアイリスとグリシラが隣同士に並び、その体面にセシュリアが座っていた。

 そのセシュリアの食べっぷりにアイリスが呆気にとられていると、


「おい、アイリス。セシュリアは大食いだし早食いだからボケーッとしてると自分の食う分がなくなっちまうぞー」


 横のグリシラが同じく焼き魚を食べながら指摘して来たため、アイリスもそれに倣って焼き魚を頬張った。



「食べた食べた~、凄くおいしかったよ~。ご馳走様でした~。」


 セシュリアが満足したような笑顔で手を合わせる。結局一人でテーブルの料理の半分を食べつくしていた。対面のグリシラとアイリスも食べ終えていた。


「ったく、偶然魚釣りに行って晩飯の材料が大量にあってよかったぜ」


「セシュリアさん、本当によく食べるんですね」


「ハハッ、基本的には僕は食欲と睡眠欲が大半を占めてるからね~。さてと~」


 そんな食後の会話をしているとセシュリアが立ち上がる。そしてその目線は一階の空き部屋に向いており、


「じゃあ僕はお腹いっぱいになったから寝るよ~、おやすみ~」


「待たんかい、うちは旅館か!」


 おねむモードに突入しようとしたセシュリアのローブのフード部分をグリシラが掴んだ。

 セシュリアは眠そうに眼をこすり振り向く。


「なんだよ~。は!? もしや今夜は寝かせないとか言ってエロティックなことする気か~」


「しねーよ! 娘の前でそういうこと言うんじゃありません!」


「冗談だ~、魔法関係のことだろ~。でも今日はもう夜だし一個だけやればいいよね~」


 そういうとセシュリアはアイリスの前まで歩いていく。そして突然のことで何をしていいかわからない様子のアイリスに目を合わせる。


「んーと、アイリスちゃんだったよね~。バンザーイしてみて~」


「こ、こうですか……フニャ!?」


 アイリスが両手を上げたところでセシュリアがアイリスの体にに抱き着いた。突然の出来事にアイリスは変な声を上げ驚きを露わにし、


「え、ちょっと、セシュリアさん!? ちょ、親父、これどうなってんの!?」


「あー、これはたしか魔力量を正確に測るときのやり方だな。……まあ女同士だし大丈夫だろ」


「なんつー無責任な!?」


 アイリスがそう言ったところでセシュリアが体から離れた。その顔はほんの少しであるが驚きに染まっていると、そこそこの付き合いであるグリシラは感じ取ることができた。


「いや~驚いた~。ここ最近で一番驚いたかもしれないな~」


 グリシラの予感が当たっていたことをその発言が裏付ける。


「魔力っていうのは潜在的なものなんだよね~。つまり、生まれながらにして決まってるんだ~」


 そう言ってセシュリアは、先程までとは違い興味深いものを見るようなをアイリスに向ける。


「君の魔力量さ~、サリスタン王国の直系の王族や私の直弟子クラスだよ~」


*****―――


 その後「じゃあまた明日~」とセシュリアは寝てしまったため、いつも通りに風呂に入り、リビングでグリシラと話したりして過ごしていたら寝る時間になったためアイリスは自室に来ていた。


『アイリス、おまえ凄いな、天才児か! 剣才に加えて魔法の才能もあるとは!』


 セシュリアに魔力量について告げられた時のはしゃぐ父のリアクションを思い出し、思わず嬉しくて口元がにやけてしまう。

 思えばこの一か月何をするにも知らないことだらけで、とても新鮮で楽しかった。そして明日からまた新しい魔法についての稽古が始まる。

 一か月前ではこんなことは想像もできなかった。


 ――いつか何倍にもして恩返ししなくちゃね。


 そんな思いを胸に秘めながらアイリス・リーヴァインは日付の変わる頃にいつも通り眠りについた。

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