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英雄に育てられた少女は、どうやら世界を救うようです!  作者: 喜山 涼
第3章 「やがて夜空を照らす者達へ」
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3章ー5話  「父の話」


「はいこれ、王都で流行りのフルーツケーキ。今、若い女の子に大人気」


「はぁ…」


「はいこれ、それに合う紅茶。王室御用達のブランド茶葉を使ってるし、いれたのも一流の使用人だから相当美味しいよ」


「えーっと…」


 時は少し過ぎ、アイリスは先程は豪勢な一室の恐らくとんでもなく高価な革製のソファーに腰を下ろしている。

 今まで体感したことのないゴージャス空間に若干顔が引きつり、居心地はあまり良くない。

 そんなアイリスの目の前にお盆に乗せたケーキと紅茶を置いて、男は同じようにアイリスとは対面のソファーに腰を下ろす。


 改めて見てみると男は二十代後半程、容姿はさほど特筆すべき点は無いがやはりその身に着けている装飾品の輝きが目を引く。

 身に着けている装飾品だけでとんでもない額になることだろう。


 現在、アイリスと男がいるのはフーケルン商社五階の応接間。

 一言お礼を言って帰ろうとしたアイリスだったのだが、アイリスの正体を知った男はパッと目の色を変えて凄まじく丁寧な態度でここへと案内のだ。

 そして、今の状況に至る。


 「さぁ、食べて食べて!」と手で進める男。

 そこには一切の悪意は感じられない。

 本当に善意からもてなしてくれているのだろう。まるで、親戚のおじさんのような態度だ。

 「いただきます」と断りを入れ、フォークでフルーツケーキを刺し、口へと運ぶ。

 ふんわりとしたケーキの食感とさっぱりしたフルーツの甘さが口に広がり、


「美味しい…」


 と思わず口から感想が漏れた。

 男はそれを見てニッコリと笑う。

 そして、


「じゃあ、改めてはじめましてだね。僕はカネマネ・フーケルン。一応、今はフーケルン商社の副社長をしているんだ」


「こちらこそ、ご丁寧にどうも。アイリス・リーヴァインです。えーっと、一応は冒険者です」


 男――カネマネの自己紹介にアイリスもフォークを皿に置いて、丁寧に答える。

 しかし、それを見てカネマネは少し驚いた様な顔をつくる。


「…どうかされました?」


「ん、ああ、ごめんごめん。――ここだけの話、あの人の子どもだからもっとガサツで荒々しい子が来るものと思っていたからさ、ちょっと意外でね」


 「ははは」と頭をかいて笑うカネマネ。

 アイリスも父の普段を想像し「あー」と納得の息を漏らす。確かにガサツで荒々しい。


「カネマネさんはどこで父と知り合ったんですか?」


 ふとアイリスの頭にそんな疑問が湧く。

 いまいち目の前の男と父との共通項のようなものが見れなかった。

 その質問に対し、


「うーんとね、実はキミのお父さんに昔、命を助けられたんだ」


 と切り出した。

 そして、「聞きながら、食べて大丈夫だよ」と前置きして話し出す。


「あれは今から十五年ほど前、当時の僕は本当に世間知らずだったんだ。そして、そんな僕が憧れたのが戦場を駆ける戦士たち。彼らの姿を実際にこの眼で見たくてね、親に内緒で勝手に護衛を雇って一人で戦場を見に行ったんだ」


 昔の思い出を辿るようにカネマネの瞳が天井を見つめる。

 

「でもね、そう簡単にはいかなかった。僕は戦場の綺麗な部分しか見えていなかったんだ。着いた瞬間に、その戦場でえらく強い敵国の剣士に襲われてね、護衛は逃げ出して、孤立無援。死が眼前まで迫ったところで――彼に助けられたんだ」


「それが」


「うん、キミのお父さんだ。あの頃はまだ彼は『魔剣星』の座を拝命してはいなかったけど、それでもその強さは圧倒的だった。本当に格好良かったな」


 まるで物語の中の英雄を語るようなカネマネ。

 そんなふうに自分の父のことを話されるのが少し照れくさくもあり、誇らしかった。

 

「なるほど、それで父と仲良くなったんですね」


「あっ、うーん…それは」


「?」 


 アイリスの言葉にカネマネは歯切れの悪い返答を返す。

 そして、少しバツが悪そうに笑う。


「そこで素直に引き返せれば利口だったんだけど…。当時の僕はね…ほら、世間知らずだから。グリシラさんに無理やり自分を鍛えてくれって頼みこんだんだよ」


「へぇー」


 カネマネの返答にアイリスが意外そうな顔をする。


「最初はにべも無く断られたんだけど…。まあ、あれだね、当時彼は傭兵団に所属してたから外堀を埋めるかんじで彼らの生活費の支援契約を取り付けて、なんとか一日稽古をつけてもらうことになったんだ」


「おお、金に物を言わせたわけですね~」


「まあ、そういうことだね」


 アイリスの直球の相槌にカネマネは苦笑する。


「で、その結果。へとへとになるまで剣の稽古をして、終了時に『剣才が全くない!』と一喝されちゃったわけさ」


「…えーっと、なんか父がすみません」


「いやいや、僕もそれで自分が戦いに向いてなかったことは十分に理解できたしね。それに――」


 噛みしめるように言葉を溜めて、


「『お前には剣才が全くない。だが、俺の勘だが商才はあるんじゃねーのか? うちの馬鹿団員を丸め込む早さは大したもんだったぞ』って言われたんだ。まあ、恥ずかしい話だけど誰かに素直に褒められたの初めてでさ、嬉しかった。その言葉で今の僕があるんだと思う」


 そこまで言って、全てを話し終えたかのように「おしまい」とおどけてみせる。

 他人から父の話を聞く機会はほとんど無かったので、アイリスにはその話が少し新鮮だった。

 そして、


「その後も父との交流はあるんですよね。よければもう少し聞かせてくれませんか?」


 と言うアイリスの提案に、


「うん、構わないよ」


 とカネマネは少し驚いてから、フフッと笑って頷いた。

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