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英雄に育てられた少女は、どうやら世界を救うようです!  作者: 喜山 涼
第3章 「やがて夜空を照らす者達へ」
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3章ー3話  「お礼」


「まぁ、こんなとこで話すのもなんだ。とりあえずこの路地から出ようか」


「それは賛成なんですけど、あれはどうするんですか?」


 少女の提案にアイリスは同意しながらも視線を路地の中で未だに一切の動きを封じられている男たちへ向ける。

 すると女性は「ああ、大丈夫大丈夫」と呟き、そのまま歩き出してしまう。

 アイリスも慌ててその後を追う。


 女性は迷うことなく進み、すぐに二人は大通りへと辿り着いた。

 そして、


「んー。おっ、いたいた。おい、あんた!」


 キョロキョロと辺りを見回し、歩道の端に立つキチッとした制服を身に着け、腰に剣を差した男へ声をかける。

 男はその呼びかけを聞くと、小走りで二人の元へ近づいてきた。


「はい、何かご用でしょうか?」


「この路地の先にこの子を脅迫してた男六人ぐらいを拘束してあるんだ。相当慣れた手つきだったから洗えば余罪が出てくるだろうし、とりあえずひっ捕らえて牢にぶち込んどいてくれない」


 少女が路地の先を顎で指しながら、衛兵と思しき男へと指示を飛ばす。

 しかし、男は訝しげな眼で少女を見る。その服装や態度、手に持っている紙袋から少女を怪しんでいる様だ。


「…失礼ですが、あなたは?」


 男の問いに少女はハァーっと一つ溜め息をつく、そしてアイリスへと視線を投げかけた。


「ねぇ、悪いんだけどあたしのポッケの中にカードみたいのあるから取り出してくれない。両手塞がってるからさ」


「あ、はい」


 アイリスは少し困惑しながらも、言うとおりに少女のメイド服のポケットに手を入れる。

 何故か少しいけないことをしている気分になる、幸いにもすぐにカードのような何かは見つかった。

 少女が顎で男に見せるようにジェスチャーを送るので、アイリスがそのカードの表面を男へと見せる。

 先程まで疑いの目線を向けていた男だったが、そのカードに書かれた内容に目を丸くする。


「お、王家直属護衛部隊…!?」


「その肩書は固っ苦しくてあんまり好きじゃねーんだけど…。まぁ、そう言うことだからさっきの件よろしく頼むな」


「は、はい。了解しました!」


 少女の肩書きを知った衛兵は先程までと態度を一変させ、敬礼をすると通信用の魔道具を取出し、仲間へと連絡を取り始めた。

 それを確認し、少女はアイリスへと再び向き直る。


「これであっちの要件は片付いた。で、話を戻すけどあんたの目的地はどこなわけさ?」


「ああっと、ですね。これの上の住所です」


 アイリスが少女の眼前に住所の書かれた紙を掲げる。

 少女はその住所を確認して、「ほうほう」と頷いた。どうやら、分かるらしい。


「この住所ならここからそう遠くないぞ。歩いて三十分くらいで着きそうだ」


「ホントですか!」


「ああ。……でもちょっと待てよ」


 予想外に近場だったこともあり、嬉しさで声が大きくなるアイリスだったが、少女はふと何かを思案するように自分の頭を指で触る。

 

「どうかしましたか?」


「いや、別に大した理由じゃないんだが…何かこの住所に見覚えがあんだよなー」


 記憶を呼び出そうとしているのか、頭に触れた指でコンコンと規則的に自分の頭をつつく。

 アイリスも特にできることはないためそのままその様子を見守る。

 そして三十秒後、


「ダメだ、思い出せん! まあ着けば分かる話だ、とりあえず行ってみっか」


 と少女は快活に笑って頭を振り、アイリスを先導するように歩き出した。



 少女とアイリスが並んで歩く。

 どうやら最初にアイリスが人に酔った通りは相当な大通りだったらしく、少し離れた今の通りは若干人通りは少なくなっており、二人並んでも十分に歩くことができた。

 

「…あの、それ片方お持ちしましょうか?」


 二人で歩き出して少々の時間が経過した頃、アイリスが隣を歩く少女へとそう提案をする。

 正直初めて見たときから何だか危なっかしいと感じていたし、今も左右に揺れながら歩いている。

 案内してもらう手前、それくらいは手伝いたかった。

 その提案に少女は、少し意外そうな顔をした後にアイリスの顔をジッと見つめ、


「ん、じゃあお願いしようかな。ちょっと重いけど大丈夫か?」


 と了承した。

 アイリスが「はい」と返事をして受け取る。確かに予想していたよりもズシンとした重みが両手に伸し掛かるが、日々剣を振っていたアイリスにとっては大した重さではなかった。

 平然と受け取るアイリスを見て少女が感心した様に「ほうほう」と頷いていた。


 アイリスが受け取った袋を上からチラリと眺めるとそこには大量の果実が入っていた。中には見たこともないような果実も多数ある。


「へぇー、色々とありますね。何に使うんですか?」


「ああ、これか。今日はちょっとパーティみたいなのがあってな。そこであたしがケーキとか色々と作ろうと思ってんだ。ほら、こっちは小麦粉とかの粉だ」


 少女がチラリと自分の紙袋の中身を少し見せる。そちらには布袋が何個か入っている。おそらくその中に材料があるのだろう。

 しかし、アイリスの関心は別の所に向かっていた。


「え!? 今日パーティなんですか、それなのにあたしの道案内に付き合わせちゃって大丈夫なんですか?」


「あー、心配しないでもいい。パーティって言っても身内だけの小さなやつだから。それにしてもあんた、真面目で良い子だな」


 少女の笑いながらの返答にアイリスが「よかった」と息を吐く。

 自分のために時間を割いてくれているのに、その上迷惑をかけているようではさすがに心苦しすぎるので一安心する。

 そんなアイリスの様子を少女は興味深そうに見つめていた。



「この辺りだと思うんだけどなー。――あっ! そうか、やっぱり見覚えがあったわけだ!」


 少女と共に歩くこと三十分少々。

 数分前から目的地周辺に入ったらしく周囲の住所を詳細に確認しながら進んでいた少女の足がある一件の店の前で止まる。

 アイリスも少女の声と共に止まり、その店をみて目を白黒させる。


 とにかく巨大だった。

 そこいらの飲食店や商店、武器屋などとは比べ物にならないほどの店が巨大な敷地の中に立っている。その入り口からはいかにも裕福そうな紳士や貴婦人が出入りしており、凄まじくゴージャスな雰囲気が醸し出されていた。

 父から聞いた話でお金持ちであることは十分に理解していたが、実際に眼にしてみると想像よりも十倍お金を持っていそうだ。


「フーケルン商社―サリスタン王国における宝石やネックレスといった装飾品のシェアの九割担っている超大企業だ。ここはその本店ってわけ。……つーか別に答えなくてもいいんだが、ここには何の用なんだ?」


 その驚き様を見て少女がアイリスに向けて目の前の店の解説をする。

 そして、少し心配するような声音でそう問いかける。


「えっと、話すとややこしいんですけど。簡潔に言うとあたしの親父がこの店の人から一軒家を昔に譲り受けたようで、あたしもそこの五年ほど住んでいたんで一言お礼でも行っておこうかなと思いまして…」


 そう、アイリスがここを訪れようと思った理由は単純明快。五年間グリシラと過ごした思い出の家を譲ってくれたという人に一言お礼を伝えたかったのだ。

 特にそういったことをしろとグリシラから言われたわけではないが、律儀なアイリスは王都に行ったらそのために一度訪れようと心に決めていた。


 そして、その返答に少女は「へぇー、なるほどね」と意外そうな顔で相槌を打つ。

 アイリス自身もかなり奇怪なことを言っているという自覚はあったが、事実なので仕方がない。

 

 何はともあれ無事に目的地には着いた。

 アイリスは少女の方へ向き直って、


「案内してくれてありがとうございました。ホントに感謝してます」


「お礼なんていいよ。あたしも時間つぶしにもなったし、そこそこ楽しめたからさ」


 少女が手をヒラリと振って笑う。

 しかし、何故か次の瞬間少女はその顔をアイリスへと近づけた。

 いきなりの行動にアイリスの思考を驚きが支配する。より近くで見ると少女の顔は綺麗に整っており、きめ細かな肌をしている。

 そして、


「――やっぱり、ちょっと似てるな」


 と少女は呟き、すぐにその顔を離す。

 その意味深な呟きにアイリスが首を傾げる。


「似てる? 誰にですか?」


「あー、いやこっちの話。気にしないで。それはそうと、ここであったのも何かの縁だし、あんたの名前教えてよ」


 アイリスの疑問を少女は苦笑して流す。

 別に隠したりするわけではなく、純粋に関係ないと思ったのだろう。

 アイリスもそれを理解して、少女に名乗りを上げる。


「はい、あたしはアイリス・リーヴァインっていいます。一応さっき王都に着きました」


 何の気なしに名を名乗ったアイリス。

 しかし、少女の反応は予想外なものだった。

 

 少女の表情は驚き一色に染まっていた。

 これまで見てきた少女のどの表情よりもわかりやすい。


「え? あんたがアイリス?」


 ポカンとした表情のまま、固まる少女。

 そのリアクションにアイリスが不可解に首を傾げていると、


「ハハ、ハハハハハッ! なるほど、これは凄い偶然だな、確かに一致するし。それにしても、フフッ。そうか、あんたがね」


 少女が一人笑い出す。

 一人「うん、うん」と納得した様に呟きながら話すが、アイリスにとっては的を得ない言葉だった。

 正直に言って少女が何を言っているのかわからない。しかし、その言葉の内容からして少女は自分を知っている様だった。


「…あの、あたしを知ってるんですか?」


「あー、ごめんごめん。諸事情でそれは今は言えないんだわ。だけど、名前を聞けて良かった。会ったら一言言いたいことがあったからさ」


 そこで言葉を切り、少女はアイリスの眼を見つめる。

 そして、


「――ありがとね」


 そう、とても優しい笑顔で囁いた。

 その言葉には強い感謝の念が籠っていたことはアイリスにもわかった。しかし、そのお礼の意味するところは全く分からない。

 

「…え? っと、あっ、ちょっと!」


 本格的に困惑の感情が強くなるアイリスだったが、そのアイリスから少女は紙袋をヒョイっと取り上げる。

 そして、

 

「まあ、あとで色々とわかるよ。それまでのお楽しみ。あたしは、リネット・アーリウス。今度会ったときは何か奢らせなよ」


 最後まで意味深なことを呟きながら少女――リネットは踵を返し、人ごみの中へと消えていった

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