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英雄に育てられた少女は、どうやら世界を救うようです!  作者: 喜山 涼
第3章 「やがて夜空を照らす者達へ」
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3章ー2話  「紅蓮の少女」


「しっかし、治安が悪いったらねーぜ。衛兵どもはちゃんと仕事してやがんのか」


 一人、誰に聞かせるわけでもなく呟きながら少女はアイリスと男たちの所へと近づいてくる。

 何かが大量に入った両手の紙袋のせいか、その体が時折左右に揺れている。

 突然の乱入者にその場の全員が言葉を失う中、紅蓮の少女はアイリスの前にまるで守るようにその身を投げ出した。


 近くで見るとより鮮明にその少女の容姿がアイリスには見て取れた。

 やはり一番印象に残るのはその紅蓮の頭髪。その長めの髪をオレンジ色のリボンで後ろで結んでいる。

 横を通り過ぎる際に見えた瞳は髪と対比するかのような青い輝きを放っていた。

 背丈はアイリスと同じくらい。年齢はアイリスより少し上くらい。

 何故かロングスカートのメイド服を身にまとっており、そのスタイルの良さもあってかすらっとした着こなしだ。


「えーっと、あのー」


「ああ、あんたはそこでじっとしてなさい。後で言いたいことあるから」


 アイリスが少女に声をかけるが、少女は後ろ手にヒラリと手を振ってその言葉を流す。

 どうやらこの少女は自分を守るため乱入してきたようなので、アイリスとしては少し気まずい気持ちになる。

 しかし、少女はそんなアイリスの様子に目もくれず、


「おい、てめぇら。女の子をこんな裏路地に連れ込んで複数で囲むとか、恥ずかしくねーのか、ボケがっ! 今すぐ回れ右して帰れ、さもねーと牢屋にぶち込むぞ!」


 男たちに向かって怒鳴りを上げる。

 その迫力に一瞬怯む男たちだったが、今の状況を再認識して再びその顔には余裕が戻る。

 助けの声も届かない路地。そして自分たちが六人に対して目の前にいるのは少女が二人だ。その状況で自分たちが恐れることは無いと思ったのだろう。


 アイリスを路地へと連れ込んだ男が一歩前に出て、


「やけに威勢のいい女だな。なんだ、おまえがその子の代わりにでもなってくれんのか?」


「チッ、ゴミが…、てめぇらの耳はなんだ? 飾りか? さっさと帰れっつっただろ、聞こえねーのかダボが!」


「なっ…!?」


 一切怯む様子のない少女の言動に男が言葉を失う。後ろで聞いていたアイリスも「口悪いな、この人…」と若干困惑していた。

 そして、男たちのそうだ表情は段々と驚きから怒りへと変わっていく。

 

「おいおい、ちょっと調子に乗りすぎだろ、クソアマ。決定だ、てめぇはこの場で地獄を見せてやるよ。泣いて謝っても許してもらえると思うなよ!」


 男が先程までの態度を一変して口汚く吠える。

 後ろに控えた男たちはそれに呼応するように、武器を取り出す。一人一人が粘着質な瞳で少女を睨んでいる。


 対して少女はハァーっと呆れた様に息を吐き、男たちを見返す。

 その瞳はまるでゴミを見るような無機質な色を放っていた。

 

「――おい、最後の慈悲だ。今から泣いて許しを請うなら、ちょっとばかし優しくしてやるぜ」


 一歩前に踏み出し男が言葉をかける。

 後ろの男たちが「ハハッ、ちょっとだけかよ」「そうだよ、謝った方がいいぜ」と笑いながら茶々をいれる。

 しかし、


「泣いて謝ってもゆるさねぇんじゃねーのかよ。顔も力も性格もしょーもないくせに頭まで悪くちゃ流石に笑えねぇぞ、馬鹿が!」


 その一言が引き金となった。

 先頭の男が顔を赤く染めて、拳を固く握り少女へと殴りかかる。

 しかし、当の少女は余裕の表情なままだ。

 何となく気付いていたが、その少女の立ち振る舞いを見てアイリスは、手を添えていた腰の木剣から手を放す。


 ――明らかに力量の隔たりが見て取れたから。


「てめぇはその男に今から嬲られんだよっ!!」


「――わりーな、あたしには先約がいるんだわ」


 男の怒号と顔面へと共に放たれた拳を、少女は体を少し傾けるだけの動作でひらりと避ける。

 避けらてた男が体勢を崩したが、後ろから残りの男たちが武器や拳を振りかぶり追撃を加えようとしていた。

 しかし、それを見た少女は紙袋を抱きかかえたまま、右手の人差し指を前方に向け、


「――捕縛完了」


 と短く呟いた。


 一瞬、何を言っているかわからなかったような男たちの表情。だが、変化はすぐに訪れた。


「な、なんだこりゃ!? 体が動かねぇ!」

「お、俺もだ! どうなってやがる!?」


 後方の男たちが自らの状況を理解して焦ったような声を上げる。

 少女に拳で殴りかかろうとした男に到っては、前方に倒れ込む一歩手前の姿勢のまま空中で身動きが取れなくなっていた。


「な、何しやがった!」


 男たちの疑問の声が路地に響くが、その回答を知っているであろう少女はもう何の興味もないといった様子で男たちから目を離し、アイリスへと振り返る。

 アイリスもそれに対し、助けてくれた少女へと真摯に向き合う。


「えっと、ひとまず助けてくれたんですよね…? ありがとうございます」


「うん」


 アイリスがお礼を言うと、少女は先程までと別人のように爽やかな笑顔で笑う。

 しかし、何故か抱きかかえていた紙袋をゆっくりと地面へ下ろして、そのまま空いた右手を上へと掲げる。

 ハイタッチでもするのかな?、とアイリスが疑問に思っていると――

 無警戒の頭へとその拳が勢いよく振り降ろされた。

 

「ぎゃわっ!?」


 完全に予想外の一撃にアイリスが頭を押さえて声にならない声を上げて悶絶する。

 明らかに目の前の少女から敵意は感じなかった。ならばこの一撃はなんだ、とアイリスが痛みの中で考えていると、


「物事を効率よく学習するには、それを深く己に刻み込むのが一番なわけさ。まあ、つまり何が言いたいかというと――」


 そこで言葉を切る少女。 

 頭を押さえながらアイリスが少女を見ると、腕をガッシリと組んで怒っている少女の顔が目に飛び込んでくる。


「あんな怪しい男の言葉を信用して付いて行っちゃダメ! 何? もしかして親切に教えてくれるとでも思ったの? ちゃんと相手は選びなさい、何のための眼だ!」


「えーっと、ですね。…一応、別に信用して付いてきたわけでは…」


 少女の気持ちは嬉しいし、言葉や行動は乱暴でも自分を心配してくれていることは十分に伝わってくる。

 恐らくこの路地にも偶然現れたわけじゃなくて、途中で男たちに連れられるアイリスを見かけて付いて来てくれたのだろう。

 しかし、別にアイリスも純粋に男の言葉を信じて付いて行ったわけではないのだ。


「…ほう、なにか理由があると? よし、もしあたしが納得できる程の理由だったらさっきの拳骨は謝ろう」


 少女がまるで言い訳をする子どもを諌めるような声音で話す。


「あのー、あたしとしてはですね。とりあえずそれの案内する場所まで付いて行って、実は本当に親切な人だったら場合はそのままお礼を言って立ち去るつもりでして、」


「…今回みたいな場合だったら?」


「少女を一人連れ込んで大勢で取り囲むとかロクなやつじゃないのは明らかなんで、全員シメて無理やり道を聞き出そうかと」


 実際一目見たときから話しかけてきた男が下郎の類であることは予測がついていた。だが、もしかしたらアイリスの見当違いの可能性もごく僅かだがあった。そのため、男の対応によって自らのとる行動も事前に決めていた。

 アイリスの返答に少女がポカンと口を開ける。

 そのままアイリスの体をキョロキョロと見回すと、


「――ハハ、ハハハハハッ。なるほど、納得した! こりゃあ余計なお世話焼いちゃったかな!」


 少女は腹を抱えて笑い出した。

 呆気にとられるアイリスだったが、少女は「ふーふー」と息を整えながら、目に溜まった涙を指で拭う。

 よほど面白かったのだろう。そして何故かそのまま少し真剣な顔でアイリスと目を合わせると、


「よし、勘違いで殴ったりしてごめん!」


 と頭を下げた。


「ちょ、やめてください!? 助けてもらったのは事実ですし、あなたが本気で心配してくれたのもわかってますから!」


 少女の思いのほか真面目な謝罪に逆に謝られているアイリスの方が申し訳ない気持ちになってしまう。

 アイリスの返答に少女は「そうか」と呟くと、軽く頭をかきながらニカっと笑う。

 五分前にあったばかりだが、その少女の口は悪いが裏表のない実直な性格になんとなくアイリスは好感を抱き始めていた。


「おい、何勝手に盛り上がってやがる! 何しやがった、クソアマッ!!」


 そんな二人へと後ろの拘束された男からの怒号が割り込む。

 ムッとするアイリスだったが、少女はアイリスを手で制して男たちには目もくれず、先程地面に置いた紙袋を再び抱き上げる。

 そして、


「じゃあ、勘違いしたお詫びと言っちゃなんだが道案内ならあたしがしてやるよ、こう見えて王都に住んで長いんだ。どこか行きたいところがあるんだろ?」

 

 ――思わぬ展開ではあったがアイリスは案内人と知り合った。

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