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2章ー51話 「王女の告白」


「うーん、良い朝ですね~」


 窓を開けると、日にの光が全身を照らし爽やかな気分になる。

 毎日変わる宿の感覚もこの一か月で十分になれた。もし今、元の王城での生活に戻っても逆に落ち着かないかもしれない。

 我ながら図太いものだ、と思いながらシャーリー・サリスタンは窓から外を眺める。

 窓の外には街道が広がっており、道行く人が少なからず見て取れる。


「…こんな日々も、今日で終わりなんですね」


 だれに言う訳でもなく、言葉が口から洩れる。

 心なしかその声音は少し寂しげで、その瞳は遠い空を見つめていた。

 ここから南の方角。徒歩で4時間ほど。馬車なら一時間少々で着く距離に王都はすでに迫っていた。


 シャーリーがそんな感傷に浸っていると、コンコン、という控えめなノックの音が響き、


「シャーリー、起きてる?」


 と声が続く。

 

 この一か月ほどで誰よりもお世話になった恩人であり、色々なことを教わった師であり、いつも守ってくれた……姉のような存在。

 

 その声に応えるように、


「はい、起きてますよ。アイリスさん」


 とシャーリーは笑顔で部屋の扉を開けた。



 二人が今いるのは王都の最寄りの街である『シルナビル』。

 大都市と言う訳ではないが、王都と他の都市の中継地点として発展し、人の往来も多い。

 そんなシルナビルの宿の一つ、その前で、


「さてと、じゃあ最後の旅路といこうか!」


「はい!」


 アイリスが拳をそう言って突き上げて、シャーリーもそれに対して元気よく頷く。

 すでに宿で朝食を食べ終えて、荷物を持って退室済み。

 あとは王都まで一直線だ。ゆっくり歩いても夕方になる前には到着するだろう。

 いつもなら、このまま街の端まで移動して、そこからも徒歩で進んでいくのだが、


「…あの、アイリスさん。今回は馬車で移動しませんか?」


 街道を歩きながら、シャーリーがそんな提案をする。

 アイリスは、顎に手を当て「うーん」と考える素振りを数秒する。


「そうだね。最後だし、馬車使っちゃおっか」


 そうアイリスが笑みを浮かべて指を鳴らす。

 それを見て、「よかった~」と息を吐くシャーリー。

 そして、二人は馬車乗り場へと歩みを進めた。



「こっから王都までね。注文とかはある? 出来るだけ早くとか、念のため戦える御者でとか」


「いえ、そういったことはないです」


 馬車乗り場の受付の女性の問いにアイリスが首を振る。

 それを聞いて女性が紙にペンを走らせ、そこに書かれた数字を指差す。


「はい。じゃあとりあえず前金だけ。あと半分は着いてからで」


「わかりました。じゃあこれで」


 アイリスが腰の布袋から硬貨を取り出して受付の机の上に置こうとするが、その手を横から伸びてきた手が制止する。


「ちょっと、待ってください。馬車を使うことを提案したのは私なんですから、今回は私が払います」


「いやいや、年下のシャーリーに払わせるわけにはいかないね。あたしはこう見えて親父から渡されたお金で懐は温かいんだから、ここはお姉さんに任せなさい」


「いや、でも…」


 アイリスが手を振ってその申し出を断るが、シャーリーはまだ、引き下がらない。

 そこへ、


「まー、私はどうでもいいんだけど…、こういう場合は年上の厚意に甘えた方がいいんじゃないかい」


「そうそう。はいこれ、料金です」


「…はうっ、なんだかすみません」


 受付の女性の援護射撃が加わり、結局シャーリーは申し訳なさそうに引き下がった。



「よいしょっと。 はい」


 アイリスが先に馬車の荷台へと乗り込み、手を伸ばす。

 その手をギュッと掴み、シャーリーも荷台へと上がる。

 それを確認した御者が馬に鞭を入れ、馬車が出発した。


 心地よい風が肌を撫で、馬車が揺れる振動が体に伝わる。

 この一か月間の移動は全て徒歩だったので、その感覚が二人にとって新鮮だった。


「ふっー」


 シャーリーが今まで被っていた帽子を取って、その素顔を晒す。

 インリウウィスからかぶり続けている正体を隠すための帽子。しかし、この空間ではそれは必要ない。

 美しい白銀の髪がさらりと流れる。


「あの、アイリスさん」


「ん?」


「えっと…その、風が気持ちいいですね」


「? うん、そうだね」


 突然振られた話題に、アイリスが首を傾げながらも返す。

 それっきりシャーリーは黙ってしまう。

 ただボーっとしているのならそれで良かったのだが、そのシャーリーの様子が何か言いたいことを溜めこんでいるということはアイリスにはわかる。

 そもそも、それは前からわかっていた。


「えっと、シャーリー。あたしに何か話があるんじゃないの?」


「え!?」


 その指摘にシャーリーがビクッと反応する。まるで「何故わかったんですか!?」と顔に書いてあるようだった。

 その様子にアイリスは苦笑を漏らす。


「いや、そもそもいきなり馬車を使おうって言い出すこと自体おかしかったしね。最終日だからって歩くのが嫌って言ったりする子じゃないのはあたしが一番よくわかってる」


「えっ、その…それはありがとうございます…」


「だから他に理由があるとすれば、王都に着く前に落ち着いた場所であたしに何か話したいことでもあるのかなー、って思ってね。あっ、そうだったらメチャクチャ恥ずかしいけど、もしそれがあたしの勘違いなら遠慮なく言ってね!」


 アイリスの指摘にシャーリーが心底驚いた様な顔をする。

 そして、


「はぁー、アイリスさんにはなんでもわかっちゃうんですね。やっぱり凄いです」


 と両手を握り、尊敬の眼差しを向ける。

 その視線にアイリスが再び苦笑し、自分の勘違いではなかったことでホッと胸を撫で下ろす。


 それを見てシャーリーも覚悟を決めた様に頷き、アイリスの正面へ移動し腰を下ろす。

 そして、「ふぅー」っと一つ深呼吸をする。


「アイリスさん。本当に大切なお話があります」


「うん、何でも言って」


「はい、まずはじめに私の名前についてです。ごめんなさい、アイリスさんには最初会ったときに偽りの名前を名乗っていました。クランセンというのは母方の姓です」


 真剣な眼差しでアイリスを見つめて、


「私の本当の名前はシャーリー・サリスタン。――私はサリスタン王国の第二王女です」


「………うん。えーっとね、知ってる」

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