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2章ー44話 「決意を胸に、思いを剣に」


 前方から紫色の光が迫る。

 いくら剣を握ったといえど、まだシャーリーにこれを余裕を持って躱すことはできない。

 

 アイリスが一歩前に踏み出し、リジェネの闇魔法を木剣で受け止め、


「とうりゃああああ!!!!」


 全身の力を使って、剣を振り上げ、空中へと打ち上げた。

 力の向きを強引に変えられたリジェネの魔法が空中で離散する。


「ハハッ、豪快だね。『ヴィジョンズ』」


「よっしゃ、行くぜー!!」


 その隙にシルクールがシャーリーの姿を自身の魔法を使って隠し、山猿が一気に体をばねの様に弾き前方へと突っ込んだ。

 

「じゃあ、あたしも行くからね。準備が出来たら言って」


「はい!」


 シャーリーが力強く応える。すでにシルクールの魔法によりその姿は視認しづらくなっているが、その声だけで十分だった。

 それを確認して笑みを浮かべるとアイリスもその後に続き、リジェネへと向かう。


 今回は胴体へと攻撃する必要はない。

 役目は時間稼ぎ。その場合シャーリーへと攻撃を向かわせないために狙う場所は一つ。


「流れ弾が当たらないように、あの邪魔な腕を全部斬り倒すわよ!」


「わかってるっての、――ったく楽な仕事だぜ!」


 目でとらえるのが困難なほどのスピードで肉薄するアイリスと山猿。

 二人が振るう刃がまるで小さな枝でも斬るかのように楽々とリジェネの『増殖』した腕を切り倒していく。


「おのれ! おのれ! おのれえええええぇ!」


 しかしそれでもすでに大量に増えた腕の全てを一気に殲滅することはできない。それに今現在でも『増殖』は止まっていない。

 地の底から響くような怨嗟の声を撒き散らし、腕の何本かの掌が紫色に発光する。

 攻撃の前兆。リジェネにはシャーリーの姿は見えていない。しかし、全体に無作為に攻撃を行われれば偶然にも当たる可能性はある。

 そして、当たれば体を魔法で強化しているわけではないシャーリーにとっては致命傷になりうる。

 

 それを防ぐ者がいなければの話だが―――


「『フォルラクリーナ』」


 歌うような呟きが響く。

 それと同時に詠唱したシルクールの周りには四つの輝く光球が浮かぶ。

 そして、その四つ全てがそれぞれバラバラの軌道を描き、リジェネの腕から放たれた四つの閃光と激突。その威力を空中で相殺させる。


「きさまぁ…!」


「流石にこれくらいならば朝飯前です。――調子に乗りすぎましたね、そろそろ舞台の幕を引く時間ですよ」


 リジェネが睨むが少しも臆するのない様子でシルクールは微笑んだ。丁寧な口調だがその中には冷たい殺意のような意志を感じる。



「凄い…」


 その三人の様子を見ていたシャーリーの口から自然とそんな言葉が漏れる。

 完全に無駄のない動きで腕を切り裂くアイリスと山猿。

 ピンポイントで魔法をコントロールして、尚且つ自分の居所を隠し続けるシルクール。


 ――自分はまだあの域へは足を踏み入れられない。しかし、今は、今だけは彼らの役に立てる。


 剣の稽古をしなくなったのは12歳の頃。

 シャーリーは約一年ぶりにその聖剣を抜き、両手で構えた。


 銀色に煌めく刀身は一切の濁りが無く、一切の歪みがない。

 王家に代々伝わる七振りの聖剣。五百年前から代々王族の血を引く者が受け継いできた由緒正しい一振りだ。

 現在は現サリスタン国王が一振り。そしてシャーリーを含むその王子・王女がそれぞれ一振り、計五振り。残りの一振りが王国の宝物庫に保管されている。

 見れば見るほど、考えれば考えるほど自分には過ぎた代物だと思う。

 しかし、今は自分の手にこの聖剣があることに心から感謝する。


 聖剣、純剣、魔剣。

 この全てにおいて、ただ実戦を無視して火力だけを求めた場合、一番簡単なのが聖剣だ。

 

 純剣は魔力を付加したりして強化をしたうえでさらに色々と工夫をする必要がある。

 魔剣はそもそも適性がなければ扱えないうえ、魔剣ごとにより大幅に能力が異なる。

 しかし、聖剣だけはある一つがあれば爆発的な火力が出せる。

 それは魔力量。そして王族の血を引くシャーリ―はそれだけは人よりもはるかに優れていた。その上、今シャーリーが持っているのは最上級の聖剣『シャルシフォン』。


 もちろん、強い聖剣士は剣技も恐ろしく発達しており、彼らと戦えばたとえ彼らの得物がそこいらで売っている平凡な聖剣だとしてもシャーリーは完敗することだろう。

 だが、今この場で必要なのは圧倒的な火力だけ。

 王国最上級の聖剣と王国最大級の魔力保有量を持つシャーリー。この組み合わせはその点では最高ともいえた。


「ふーっ」


 一つ息を吐き、眼を閉じながらゆっくりと剣を頭上へと持ち上げるシャーリー。

 頭では聖剣の扱い方は分かっていたが、実際に出来るのかという不安はあった。しかし、その心配は杞憂に終わる。

 頭上へと振り上げた『シャルシフォン』へと自分の魔力が流れていく感覚がはっきりと感じ取れた。まるで剣と一体化したかのような気分にさせられる。

 

 ――いける。


 シャーリーが確信を持って、眼を開く。

 そして、三人へと合図を送ろうとした、

 

 そんな時だった―――


「くそっ、おのれ! まだだ、われは、われはあのかたにえらばれた! まだまだまだまだ…まだっ! おわるわけにはいかぬっ! うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


「なっ!?」 


 劈くような大音量の咆哮が森を揺らす。

 その咆哮に四人全員が耳を塞ぎ、一瞬その動きが止まる。そして、そのせいでシャーリーが溜め込んだ魔力も霧散してしまう。


 しかし、それだけでは終わらなかった。

 森がざわつく。

 まるで多くの生き物が一斉に動き出したかのように――

 

 初めに気づいたのはシルクールだった。

 

「やばいっ!? 二人とも森の魔物がここに集まってきてる!」


 その警告に遅れて三人が気づく。

 変化は、すぐに訪れた。まずは一匹、続いて二匹と戦場へ魔物が飛び出してくる。

 一匹一匹はさほど脅威ではない。しかし、その数が多すぎた。


「くそっ、往生際の悪い野郎だ!」


「まったくねっ!」


 山猿が吐き捨てるように言い放ち、腕の処理と並行して魔物の処理を行う。

 アイリスも同様だ。

 しかし、流石の二人でもその相手の多さに表情から余裕の色は消える。


「もう一回、急がなくちゃ」


 それを見ていたシャーリーも再び、『シャルシフォン』へと魔力を込め始める。

 だから、気づかなかった。

 背後から飛び掛かる一匹の魔物に――


 バキン、と何かが砕ける音がした。


 それはシルクールがシャーリーへ纏わせた幻影魔法。

 それ自体には防御力は無く、薄いガラスの壁程度の強度しかない。

 そのため、偶然にも戦場へ駆けつけようとした魔物の体が激突。その拍子に幻影は散り、聖剣を構えたシャーリーの体が明るみに出る。


 そうなれば周囲にいる魔物がシャーリーへと攻撃を加えない理由は無くなる。

 右方向から突然現れたシャーリーへと困惑しつつも、殺意を持った魔物の爪が迫る。

 

「「くっ―!」」


 その事態に気付いたアイリスとシルクールが手を伸ばし、魔法でシャーリーを守ろうとする。

 しかし、それよりも一瞬早く、


「とうりゃあっ!」


 甲冑を身に着けた騎士の聖剣がその魔物を切り裂いた。

 そして、シャーリーを守るように前に立つ。遅れて五人の騎士たちが続く。

 

「…え?」


「すまん、遅くなった! 状況から見て、最終局面だが多少であるが協力させてくれ」


 体に傷を負いながらも駆け付けた騎士団の面々。

 それを代表して、ヴァンスが声を上げる。

 それを見て、アイリスはほっと胸を撫で下ろし、すぐに自分の仕事に戻る。


「いいタイミングです、ヴァンスさん! とりあえずその子を死ぬ気で守ってください。大丈夫、顔を見れば命がけで守りたくなりますから」


 思わぬ援軍に喜びの感情を声に滲ませながら、シルクールがシャーリーに向かってウインクをする。

 その言葉に首を傾げる騎士団の面々だったが、シャーリーはその言葉の意味を読み取り、もうほぼ意味をなさなくなっている帽子を取る。


 騎士とは国と王家を守るための存在だ。

 そして、彼らは実際に王家と王都の主語を任される『近衛騎士団』に配属されているわけではないものの、その思いに遜色はないはず。

 そして、シャーリーの立場は――、


「――私が聖剣へ魔力を溜めるまでの時間稼ぎをお願いできますか?」


 騎士団の面々へその素顔を見せる。

 唖然とした騎士六人の顔。一番初めに声を発したのは、新人のワーキンだった。


「……かわいい」


「……えっ!?」


 予想外の言葉に心の底から驚いた様な声を上げ、顔を赤くするシャーリー。

 そんなワーキンの頭に力いっぱいの拳骨が振り落される。


「おまえは大馬鹿野郎なのか!? 不敬罪で斬首ものだぞ!」


 戦場だというのに頭を押さえ緊張感のないようにうずくまるワーキン。

 それを尻目にヴァンスは震える声で問いかける。


「……シャーリー王女でお間違いないですか?」


「は、はい。いかにもサリスタン王国第二王女シャーリー・サリスタンです。…っと時間がありません! 先程のお願い、聞き届けて頂けますか?」


 切迫したシャーリーの言葉に騎士全員が深く頭を下げ、「もちろんです!」と声をそろえて応じる。

 そして、六人全員でシャーリーを守るように陣形を組む。


「おまえら、死んでもシャーリー様をお守りしろ! 何の因果か知らないが、地方に飛ばされた俺たちが直に王家の方を守れるなんて、こんな機会もう一生ないぞ! 全力で今まで磨いてきたその命と剣を振り絞れ!!」


「はっ!」


 ヴァンスの言葉に全員が頷き、剣を構える。そして、四方八方から迫りくる魔物をシャーリーを背にして切り捨てる。

 全員が覚悟の籠った瞳の中に、誇りや名誉のようなものが浮かんでいた。


 ――自分はそれほどまでに守るべき人物ではない。


 その様子を見て、そんな思いがシャーリーの胸に浮かぶ。

 しかし、そんなことを思っても何も始まらない。


 自分が彼らの思いに報いるには、前方で時間を稼ぐ三人の戦いに報いるには―――確実にこの一撃を決めるだけしかない。

 決意を胸に、思いを剣に――


 そんなシャーリーに呼応してか『シャルシフォン』から黄金の輝きが溢れ出す。

 先程よりも強大な、先程よりも高純度なそんな魔力がシャーリーから『シャルシフォン』へと流れる。

 

 ――準備は整った。


「そのひかり、あのおとこと、おなじっ…!! くそっ、やめろっ! そのひかりをやめろおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 『シャルシフォン』溢れ出した光を見てリジェネが絶叫を上げる。

 そして、未だに自分の腕を切り裂き続けるアイリスと山猿、自分の闇魔法を撃ち落とし続けるシルクールを完全に無視して、全ての腕をシャーリーへと伸ばす。

 

 しかし、全ては遅かった。


「みなさん、準備できました! 私の正面、周囲から離れてください!」


 シャーリーの宣言に、リジェネの周囲いたアイリスと山猿がニヤリと笑うとそこから飛び退き、シャーリーを守るように立っていた騎士団の面々も距離をとる。

 そして、


「サリスタン王国第二王女シャーリー・サリスタンが名のもとに―――解放、『シャルシフォン』」


 黄金に光る聖剣振り降ろされ、その切っ先から輝く光の斬撃が放たれる。

 それは、迫りくる全ての腕を塵の様に薙ぎ払い、その先のリジェネでさえも飲み込んで、『死の森』を黄金の光で染めた。

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