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2章ー43話 「剣を振る理由」


 剣が好きじゃなかった。


 王都に来て、王族として生きるようになったのは4歳の時から。

 そして、王女として五歳の時から基礎的な剣術と魔法の稽古を少しずつ習うようになった。


 魔法は嫌いではなかった。見ている分には心から凄いと思えるし、自分もあんな風に自在に使えたらと思い勉強に励んだ。上達はしなかったんですけど…。

 でも、当時の私は剣は好きになれなかった。いや、十三歳になった今でも苦手意識はある。

 

 剣は怖い。触れれば傷つき、振り降ろせば命でさえも容易く奪う。

 そんな危険なものを扱えるようになりたいとは思わなかった。


 私はいわば隠し子だった。それが発覚したのは私が四歳の時。

 それと同時に母は第三夫人として、私は第二王女として王家に名を連ねることになった。

 幼い私にはわからなかったが、その当時は王宮は大騒ぎだったようだ。

 そして、そんな母への風当たりは強かった。そして、それはその子である私に対してもだ。

 面と向かって何かを言われたりはしない。だが、何となく嫌な視線を感じるのだ。


 そんな私たちに、現国王つまり私の父親やその后様、その子どもたちは心から優しく接してくれた。

 第一王子ミレン・サリスタンを除いてだが…


 しかし、そんな彼らの優しさがあっても居心地の悪さは消えることはなかった。


 あれは十歳ぐらいの頃。

 王家の子となって五年が過ぎても、私はあまり王宮に馴染んではいなかった。

 

 それは、いつもの剣の稽古が終わった後。 

 私の担当だった『近衛騎士団』の団員が頭を下げ、稽古場を後にする。

 王子、王女には専属の剣の教官と魔法の教官がそれぞれ『近衛騎士団』と『中央魔道局』の人間から付けられる。

 私の教官になった二人は、表ではかしこまって接するが、内心ではおそらく全く上達しない私に飽き飽きしていただろう。

 怒りは湧かない。逆にこんな私の教官をさせて申し訳ない気持ちだった。


「…もう剣なんて振りたくない」


 腰に差された立派な聖剣を見てため息を漏らす。

 自分なんかよりもっとこの聖剣を有効に扱える人はこの世界に何人もいるだろうに。

 宝の持ち腐れだ。


「また、一人で悩んでるのかい。シャーリー」


 そんな時、不意に修練所の扉が開き、優しい声がかけられる。

 そこには一人の少年が立っていた。

 私と同じように白銀の頭髪に碧眼。しかし、私と異なりその佇まいは優雅であり、堂々としている。

 王家の兄や姉達はどの人物も整った顔立ちをしているが、その中でも一際その人物の容姿は整っており、凛々しい。


「ウィリアス兄様!」


 そこに立っていたのは四つ上の兄、ウィリアス・サリスタン。

 サリスタン王国の第二王子にして、初代国王グリシラ・サリスタンしか扱えなかったという聖剣を五百年ぶりにその腰に差した王家の神童、そして私の兄だ。

 お父様はすでにウィリアス兄様を次期王に据えると決めている様だし、ウィリウス兄様なら反対する者はいないだろう。

 そんな自慢の兄だった。


「やっぱり剣は嫌いかい?」


 隣に腰かけ、心配そうな顔で問いかける。

 ウィリアス兄様は私が剣の修練を嫌っていることを見抜き、機会があれば悩みや心配事がないか気にかけてくれる。

 いつもなら「大丈夫です」と一言断って終わりだった。

 しかし、


「…好きではありません。兄様は剣が好きですか?」


 このときは精神的にもまいっていたのか、ついそんな疑問が口から洩れてしまった。

 慌てて取り繕うとするが、もう遅い。


「うん、好きだよ。昔からずっと大好きだ」


「じゃあ…私の剣もウィリアス兄様が持てばいい。その方がずっと有効にこの聖剣を活用できます」


「フフッ、それはだめだよ」


 ウィリアス兄様の優しくたしなめるような声。

 そう答えられることは分かっていた。しかし、どうしてもそう思ってしまう。


「もし、その聖剣を僕がもらってしまったら、シャーリーが剣を振る理由が見つかったとき、きっと心から後悔するだろうしね」


「…そんなときは来ないと思います」


「いや、きっと来るよ」


 断言するような言葉。

 驚いた私は、ウィリアス兄さんの横顔を見上げる。

 そんな私に向かってウィリアス兄さんはニコッと笑った。


「シャーリーは優しい。でもそれだけじゃない、立派な心の強さも持ってる。だから、それに見合う力を持ち、それを行使する日が必ず来る。その時になったら剣を振る理由もきっと見つかるさ」


*****――――


「私に…私に、最初の一撃の役目任せてくれませんか!」


 この場所、この瞬間こそが兄に言われたときだと、シャーリーは心の内で悟った。

 そして、勇気を振り絞り、思いを声に出す。

 

 理由は見つかった。

 この人たちの力になりたい。この人たちと共に戦いたい。

 そのためなら苦手な剣を振るうことに一切の迷いは生まれない。

 ちっぽけな理由かもしれない。しかし、始めの一歩としては十分だろう。


「シャーリー。その剣は?」


「これは私の家に伝わる七振りの聖剣の一つ。銘を『シャルシフォン』といいます。この聖剣に私の魔力を込めた一撃で魔物の肉体を全て消し飛ばします」


「できるの?」


「必ずやり遂げてみせます!」


 できるできないとは違い、やり遂げると言い切る。

 今までとは違うシャーリーの力強い言葉。

 それにアイリスは一瞬驚きを露わにするが、すぐにその表情を楽しそうに変える。

 まるでその成長を喜ぶかのような表情。そして、


「ハハッ、ハハハハハッ! よしわかった、その決意にあたしは乗った! 山猿、シルクールさん、聞いてたでしょ。作戦変更、シャーリーの一撃に賭けることにするわ!」


 豪快に笑い、シャーリーの頭をクシャクシャと撫でた。


「いやいや、なーに二人で勝手に決めてんだ! ……と言いたいところだが、どうやらひ弱な小娘がせっかく一皮むけようとしているようだ。しかたねぇ、俺様は今回脇役に徹してやろう」


「まあ、僕としては自分が提案した作戦なわけだし、異論は無いかな。あとは、出来るだけシャーリーちゃんのアシストに徹するよ」


 意外と寛容な山猿と作戦を提案したシルクールも頷く。

 これで全員の了解が得られたことになる。


 正直、シャーリーはここまで簡単に全員が賛成してくれるとは思っていなかった。

 必ず何らかの反対意見が出ると思っていた。

 しかし、三人ともこの命のかかった場面で、無条件で自分を信用してくれたのだ。


 その事実に涙が出そうになる。でも、堪える。

 仮に涙を流すとしたら、それは戦いの終わった後だ。


「じゃあ、そろそろ僕の防御壁も崩れるだろうし、正念場だよ。アイリスちゃんと山猿くんはアレの近くで今迄みたいに戦って、シャーリーちゃんが魔力を溜め終わるまでの時間稼ぎをお願い。僕はその間、シャーリーちゃんを魔法でアシストする」


 シルクールの提案に三人が頷く。

 

 そして次の瞬間、派手な音を立て、土の障壁が崩れた。

 目の前に闇の放流が襲いかかる。


「恐らくこれが最後の攻防です。決着を付けましょう!」


 ――シャーリーの声と共に、最後の攻防の幕が上がった。

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