2章ー39話 「絶え間なき攻勢」
「さて、一応攻撃のやり方だけ決めておくか。何かリクエストはあるか?」
「んー、と言っても実際にあたしはあんたが戦ってるところを見たことないしねー。とりあえずお互いに全力で斬りまくって、隙が出来たら大きいの叩き込むって感じでどう?」
「ハハッ、いいね。単純かつ大胆で俺様好みのやり方だ!」
「んじゃ、そういうかんじで」
何の気負いもない会話をしながら、アイリス達はシルクールの言った通りにただ前へ歩む。そして、五歩ほど進んだところで景観は今までいた森へと戻り、前方には辺りを見回すリジェネの姿があった。
どうやらシルクールの魔術の幻影はしっかりとリジェネにも効果を発揮していたようだ。こちらに気付いていた気配はない。
しかしそれは先程までの話。
幻影から出た二人へとリジェネの視線は集中する。
そして、その緑の瞳が見開かれる。
初めは驚き、そして徐々にその瞳が沸騰するような熱を帯びる。中で燃えるのは憎悪と憤怒の炎だ。
「き、きさまっ…! きさまはあああああああああっ!!!」
いきなりのその反応に困惑するアイリス。
「おい、何か凄くキレてるけど…。あんた一回戦ったんでしょ、何したの?」
「知るかっての。…だがたしかに妙だな、小娘を逃がしただけの俺様にあそこまで怒りを燃やすか?」
始めは一蹴した山猿だったが、確かに態度に違和感をおぼえて首を傾げる。
そんな間にも底冷えするような怨念と燃え上がるような怨嗟の混じったような魔力がリジェネの体から溢れ出し、湧き上がる。
「ころす…!ころす! ころす!! かならず、われが!! このてで!!!!」
どうやらすでに対話をする気配はゼロのようだ。
それを察したアイリスが木剣を構え、山猿が腰にした双剣を抜く。
「まあどうでもいいや。あたしはどっちみちシャーリーの命を狙ったこいつを斬るだけ」
「たしかにな。聞きたいことがあるなら、動かなくして聞けばいいか」
すでに対話は必要ないとばかりに二人の瞳にも戦いの炎が燃える。
「『サフリウス』」
「――地の神よ、我に力を与えたまえ」
木剣に七色の属性を付加し、体も魔力で強化するアイリス。
独自の言霊を唱え、全身に何か半透明な霧のようなものを纏う山猿。
そして、
――バコンッ! という轟音と共に二人の姿がリジェネの眼前から消えた。
「なっ!?」
いきなりの事態にリジェネが驚愕の声を漏らす。
完全に二人の姿を見失う。
そして、次の瞬間――リジェネの腕の一本が斬り飛ばされた。
「!?」
それは増殖した腕の一本に過ぎないため痛覚はほとんど存在しないに等しい。しかし、それでも腕の一本であることに変わりはない。
いきなり斬り飛ばされれば驚きは生まれる。
リジェネの瞳が自分の腕を斬り飛ばした影を何とか視認した。が――、
「くっ!?」
「よそ見すんなよ」
次の瞬間。同じく増殖された腕の一本が斬り飛ばされる。
斬り飛ばしたのは山猿。そして、そのまま動きを止めずにリジェネの周囲を高速で移動する。
それはアイリスも同様だった。
右上方からのアイリスの一撃。左後方からの山猿の一撃。右下方からの払うようなアイリスの一撃。左前方からの穿つような山猿の一撃。
交互に繰り出される高速の斬撃がリジェネを襲う。回避する余裕などなかった。
地面や木の側面を足場にして、交互に一撃を見舞い続けるアイリスと山猿。
見る見るうちにリジェネの増殖した腕が斬り飛ばされていく。
「ふ、ふざけるなあああああああ!!!!」
「おっと」
しかし、回避できずともリジェネにはやりようはあった。
斬り倒されるならその分増やせばいい。リジェネの両肩からその周囲にかけてバキバキと嫌な音が鳴り、再び大量の腕が生える。
「気持ち悪いわね。あれが『増殖』ってやつか…」
「まあ、役に立たない腕がいくら増えても変わらねーがな」
「違いないね。――次、四発目で大きいのぶつけるから隙が出来たら、トドメ頼める?」
「ふん、誰にものを言ってやがる。完璧にこなしてやろう」
「んじゃ、頼むね」
その様子を少し離れたところで見ていたアイリスと山猿が再び声を合わせ、簡単な打ち合わせを行う。
そして、お互いに再び剣を強く握ると――
アイリスが今度は真正面からリジェネへと突っ込む。
「ちょうしに…のるなあああああ!! しねええええええ!!!!」
そこへリジェネの新しく生えた腕が殺到する。
しかし、
「――遅すぎる。怒りに身を任せて文字通り腕が鈍っちゃ、三流よ」
アイリスが流れるような動作で横薙ぎに払った木剣がリジェネの腕を、二本まとめて切り裂く。
山猿もそれに続き、リジェネへと双剣を構えて突っ込む。
「とうりゃ!」
体を駒の様に回転させて、自分へ迫る腕を弾く。
「三発目!」
その間にもアイリスがリジェネの腕を切り裂いていく。
すでに先程『増殖』させた腕の半数が斬られている。
「わからんか、いくらきりたおそうと――むだなことだ!!」
再びリジェネの体からバキバキと音が鳴る。
しかし、
「それはもう一回見た。そして、『増殖』の瞬間の隙が大きすぎる」
アイリスが待っていたかのように足に魔力を籠め、リジェネの後方から一瞬でその距離を詰める。
そして、手に持っていた虹色に輝く木剣をリジェネの右肩へと突き刺した。
「ぐっ…! だがこのていどではお――」
「虹の彼方へ消えろ。『レスケコンティ』」
「なっ…」
アイリスが呟くようにそう唱える。
そして次の瞬間、リジェネに突き刺さった木剣から虹色の輝きが引いたと思えば、その切っ先から虹色の光の放流が一斉に押し出される。
アイリスが唱えたのは、付加した自分の魔力を放出する魔法。それをゼロ距離でぶつけられたリジェネは当然ただでは済まない。
肩から体の上半身にかけて大きな穴が開く。
確実に致命傷。
しかし、これでも再生されるのはシェルからの事前情報で得ていた。
「ん?」
――そんな時アイリスは見た。自分がうがったリジェネの体。その中に銀色に光る水晶のような球体を。
しかし、今はそれよりも重要なことがある。頭を切り替え、声を上げる。
「ほら、隙あり。ダメ押し頼んだ!」
「――決めるぜ」
上空から山猿の声が降ってくる。
双剣を平行に構えるように持ちながら、その刀身はバチバチと音を立てている。
アイリスにはそれが雷の属性であることがわかった。
そのままリジェネとの当たり際、山猿がその二刀を同時に振り降ろす。
グリシラから剣を習ったアイリスでさえも中々のものだと感心するような太刀筋。そしてその双剣はリジェネの首筋を切り裂く。
斬った瞬間は大したことのない傷のように見えた。しかし、
「置き引き一閃――雷の牙」
斬撃の衝突から数秒遅れて、傷口から雷の属性が溢れ出す。
そして、溢れ出した雷撃が首筋を奔り、リジェネの首から上が宙を舞った。
「おお、やるじゃない。それにいい太刀筋!」
「当然だ、俺様は天才だからな。――しかしおまえも相当やるな、正直予想以上だ」
その光景を見て再び集まり、言葉を交わす二人。
しかし、言葉こそ軽い雰囲気であるが二人ともまだ戦闘態勢をとったままだ。
「で、どう? 手ごたえはあった?」
「そりゃ普通の生物なら死んだだろ、首を落としたんだ。だが――」
「まあ、これで終わったら苦労しないか」
二人の眼前。
首から切り離された胴体。
その切れ目からブクブクと沸騰するように肌が泡立ち始めていた。




