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2章ー38話 「並び立つ両雄」


 まるでアイリスが助けに来るのが分かっていたかのようなシェルの口ぶり。


 その理由は簡単だった。

 実ははじめに発動した広範囲の『スウィング・シーカー』によって、シェルはこちらに向かう一人の人物を確認していた。そして、見慣れた動きの機敏さから、その人物を半ばアイリスであると確信していたのだ。

 その後の行動は全てアイリスが助けに来ることを考慮に入れてのもの。だから、あれほどまでに大胆な行動が出来た。


「まあ、無事みたいだね。立てる?」


「ん、足は全然大丈夫なんだけど…」


 絶対絶命の状況だったわりに意外と元気そうなシェルに少し驚きつつも、アイリスは問いかける。

 その問いにシェルは何事もなかったように立ち上がるが、語尾が少し不明瞭だ。よく見ると両腕があざの様になっている。


「…さっきの吊るされていた時の傷だね」


「うん、でも大丈夫。折れてはいないだろうし、それに――こっから先の戦いは頼れる仲間がいるしね」


 シェルの言葉にアイリスがフッと笑い、そして真剣な顔に切り替えて頷く。

 そもそも、アイリスのリジェネに対する怒りはすでに限界突破していた。そのため言われずとも真っ先に斬る準備は出来ていたのだ。

 その様子を感じ取ったのか、シェルが慌てて告げる。


「戦う前に二つ。あの魔物――リジェネの能力について…」


「うん、ではそれをみんなでお聞きしましょう。『ヴィジョンズ』」


「「え?」」


 そんな時、そんな聞き慣れた声が二人の耳に届き、景色がゆがむ。

 幻影が二人を包む。そのまま周囲を取り巻き、リジェネから自分たちの姿を隠した。

 そして、それと同時に二人のいる場所に新たな三つの影が下り立った。


「…なんだ、三人とも来たの?」


「当たり前だ! こんなおいしい舞台をお前だけに譲るほど俺様は謙虚じゃないんでな」


「はい、私が役に立つかわかりませんけど頑張ります」


「まあ、あれがこの森の支配者で間違いないだろうし。なら、一気に頭を狩るのが最善だからね、人数も多い方がいい」


 アイリスの問いかけに山猿が豪快に好戦的な笑みを浮かべ、シャーリーが拳を握り、シルクールがいつもの様に落ち着いた口調で理由を述べる。

 三者三様のリアクションにアイリスが諦めた様にハァーっと息を吐く。


 しかし、この状況に最も困惑していたのはシェルだった。

 理由は一つ。自分のすぐ近くにいる白銀の少女の存在。

 頭の中で瞬時に思考が奔る。

 まず、このまま話してもシャーリーが自分の正体に気付く可能性は限りなくゼロに近いだろう。王城での接触機会はほとんどなかったし、何よりも自分は今仮面をしている。

 しかし、万が一ということもある。その万が一のためにいままで姿を現さずに隠れて尾行していたのだ。


ベヘモットとの遭遇時は、あの後シャーリーがひどく落ち込んでいたこともあり、アイリスの適当な説明で偶然居合わせた冒険者として処理してもらった。かなり強引な手段だったがシャーリーは簡単に納得してくれたようだ。

 しかし、今回は二度目。完全に不自然だ。

 内心仕方ないと思いつつも、仮面の中で連れてきたシルクールと山猿に恨めしげな視線を送る。


「えーっと、お会いするのは初めてじゃありませんよね。あなたが一人で戦ってた仮面のお方でしたか、前に一回お会いしましたよね。改めてはじめまして、シャーリーと言います」 


 そんなシェルの内面の葛藤を知ってか知らずか、シャーリーから声がかかる。

 

 ――怪しむ様子すらない! しかもがっつり本名を名乗られた!

 

 いや、実際にこれまでシャーリーがさすがに姓は明かさないでも名はそのまま名乗るのは知っていたが、改めて自分が名乗られる側に立ってみると、不用心すぎると思う。

 しかし、ここでうだうだ考えても仕方がないとシェルは判断し、


「…初めまして、シェルと言います」


「? あれ? 心なしか他にもどこかで聞いたことある声の気が――」


「気のせいです。それよりも今は魔物――リジェネについて話す方が先決です」


 一瞬でシャーリーの疑問を切り、話題を変える。そのまさかの鋭い指摘に内心シェルの心臓はバクバクだった。

 しかし、幸いにもシャーリーはシェルの言葉に納得した様に「たしかにそうですね」と頷き、納得する。

 ゴホンと咳払いをしてシェルが話し出す。


「私が戦ってみたところ、リジェの能力は『増殖』と『再生』の二つ。前者はおそらく増殖できるのは肩から先の腕のみですが、その増殖スピードは速いです。後者は一回しか見れてないですが、確実に致命傷になりうる傷がものの数秒で完治してました」


「そ、そんなのどうやって倒すんですか!?」

 

 シェルの簡易な説明に、シャーリーが驚きの声を上げる。

 確かにそれだけ聞けば無敵に思えるかもしれない。しかし、


「なるほど、再生能力ですか。――再生限界、もしくは再生の核。どちらかが必ず存在しますね」


「ええ、おそらくは」


 シルクールの言葉にシェルが頷く。

 そう、それは自然の摂理。何の理屈もない再生能力など五百年前の魔神だとしてもありえないのだ。


「じゃあ、まずそれを見極めることから始めようか」


 シルクールが顎に手を当てる。

 そして数秒後、


「ねぇ、アイリスちゃん、山猿くん。とりあえずあいつ――リジェネといったかな。力の限りダメージを与えてきてくれない? 再生の様子を観察して攻略法を見極めるから」


 いつも通り爽やかな笑顔で告げる。

 恐ろしく危険な提案だ。しかし、告げられた当の本人たちは、


「りょーかい。そもそもあたしはアレをぶった斬らなきゃ気が済まなかったんですよね」


「待ってました。ようやく暴れられるぜ!」


 体から闘気をみなぎらせ、その提案を快諾した。

 その返答を分かっていたかのように「うん」と頷くシルクール。


「ちょ、危険じゃないですか、アイリスさん!?」


 そんな中シャーリーだけが焦ったような声を上げる。

 それは単純な心配からつい口から出た言葉。それを聞き、優しい顔でアイリスはいつもの様にその頭を撫でた。


「はうっ…」


「大丈夫、あたしがあんなのに負けると思う? 安心してここから見てなさいって」


 そう告げて、腰の木剣に手をかける。

 シャーリーもその言葉を聞き黙ってうなずいた。

 

「シルクールさん。この空間、多分あなたの魔法なんでしょうけど…こっから出るにはどうすりゃいいんですか?」


「ん? ちょっと前に歩けば大丈夫だよ。別に別空間に移動したんじゃなくて、周囲の景観を歪めて視界の隙間に入り込んでるだけだから」


 またもや少し専門的なよくわからない説明だった。わざとわかり難いように説明している節さえある。が、出方が分かれば十分だった。


「さてと、じゃあ行くか。俺様の足引っ張んなよ、金髪」


「それはこっちのセリフ。油断して攻撃食らっても助けてあげないよ」


 アイリスと山猿。二人が並び立ち、軽口をたたきながら歩を進める。

 そして、シルクールの造った幻影空間から出ようとしたその時、ふと何かを思いついたかのようにアイリスが足を止め振り返る。


「あ! そう言えばシルクールさん、さっき攻略法を見極めるっていってましたけど。やれそうなら、見極め終わる前にあたしとこいつで決着付けちゃっても大丈夫ですよね?」


 本当にふと疑問に思い口から出たかのようなアイリスの言葉。

 その言葉にシルクールは一瞬驚いた顔を見せたが、これまでとは違い楽しそうな笑顔で――


「ハハッ、それはいい考えだ。手間が省けるし、出来るならそうしてもらおうかな」


 そう答えると、頼もしい二つの背中を見送った。

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