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2章ー33話 「二択」


「お、おおお。段々と情報が集まって来たよ。森の南端でシェルさんが戦ってるよ。それにシャーリーちゃんの方は山猿君と二人で行動してる。よかった、どうやら間に合ったみたいだね」


 森を走るアイリスは一歩前を同じく走るシルクールの言葉にホッと胸をなでおろす。


「はぁー、よかった~」


 胸のつかえがとれたような心からの声だった。

 そんな声を聴き、シルクールが顎に手を当てる。


「どうする、アイリスちゃん。一応シャーリーちゃんたちの場所は把握したから教えられるよ。これから行く場所の対処は僕一人で行こうか?」


 彼なりの気遣いなのだろう。

 しかし、その言葉にアイリスは少し考えるそぶりを見せたが首を振った。


「いや、大丈夫です。あたしには常に正確な位置を把握する術は無い上、向こうも移動しているから合流に時間がかかる可能性はあるし、シャーリーたちは今は戦ってないってことは一応安全ではあります。なら、まず救援信号の対処をして、あなたと一緒に行くのが確実だと思います」


「うん、冷静な判断だね」


 ニッコリ笑うシルクール。

 そして、


「じゃあさっさと済ませようか。もう、すぐそこだ」


 シルクールの言うように前方に何かの光が見て取れる。

 景色が開け、木々の少ない場所に出る。

 

 そしてそこには――


「ん、なんだてめぇらは。お前の仲間か?」


 ローブ姿の魔法使いの首を掴み持ち上げる魔物の姿があった。

 体全体が茶色の渇いた皮膚で覆われた人型の魔物。特徴的なのはその手だろう、指が鋭利に尖っており殺傷能力が高そうだ。

 その瞳は狡猾にいきなり現れた二人を睥睨している。

 よく見たら周囲にローブ姿が何人かと冒険者と思しき何人かが倒れている。

 恐らく二小隊分。それをこの魔物が倒したのだろう。


「その手を離せ!」


 アイリスが怒気をはらんだ声を放つ。

 ローブ姿の魔法使いの肩は微かに揺れており、まだ息があることが見て取れる。

 すると魔物はニヤリと笑うと、意外なことに言われた通りにその手を放す。


「くっ…、ゴホッ、ガハッ!!」


 いきなり支えを失い、魔法使いの体が重力に従って地に落ちる。受け身も取れずにそのまま尻餅をついて苦痛の声を漏らす。同時に今まで締め付けられていた呼吸が解放されて、えづくように咳を繰り返す。

 ローブで顔は見えないが、その声からして女性だろう。


 魔物が手を離し、女性が開放された瞬間にアイリスは腰の木剣に手を添える。

 一瞬で肩を付けるために。

 しかし、


「おっと、そう簡単にはいかねーぜっと」


 その動きを読んでいたかのように、魔物は女性のローブを引っ張り、自分の近くに引き寄せた。女性の首筋には鋭利な爪が添えられている。


「剣から手を離せ、女。こいつが死ぬぜ、ほれ」


「チッ…」


 アイリスが顔を歪めるが、すぐさま魔物の言った通りに剣を戻す。

 隣に立つシルクールも行動を起こす気はないようだ。

 それを確認し、魔物がニヤリと粘着質のある笑みを浮かべる。


「おー優しいね、お二人さん」


「君は中々にせこいことをするね。堂々と人質を使ってくるとは」


「ちょっ!?」


 あからさまに挑発のような言葉を投げかけるシルクールにアイリスが焦る。

 それを引き金に魔物がすぐに女性に命を奪うかもしれない。

 しかし、魔物はその言葉を聞き楽しそうに笑う。


「フッ、ハハハハハ。正直なやつだ! だがせこいというより、賢いと言ってもらいてぇな」


 魔物の反応にシルクールがふと顎に手を当てる。


「実際問題、大事なのは効率だ。こっちに利用できる材料があるんならそれを最大限に利用すべきだろう? おまけに俺は鼻が利くからな、おまえら二人と正面から戦うなんて馬鹿らしいまねをする理由も見当たらねぇ」


「ふむ、確かに一理ありますね。その方が楽だ」


「ハハハ、そうだろ」


 何故かこの状況で楽しげにそんな会話を繰り広げる魔物とシルクール。

 アイリスにはこのシルクールの態度の中の心中読み取れなかった。

 そこで魔物が手を叩く。


「さて、ここでお前らには嬉しいだろうニュースだ。ここらで伸びてる人間、大半はまだ息があるぜ」


「え!?」


 魔物の言葉にアイリスが魔物の周囲で倒れている人々を見渡す。

 確かに血濡れていて全員が怪我をしているが、その多くはかすかに体を上下に動かしている。

 

 よかった、と思う反面、アイリスには何故という疑問もあった。

 魔物が戦い、そして勝った人間を生かす利点が分からなかったから。

 そんな疑問が顔に出ていたのか、魔物が口を開く。


「あ? 生かしといた理由か? それはおまえ死んで無表情な人間を食うより、生きていて悲鳴を上げる人間食った方が楽しいだろ?」


「クズが…!」


「フッ、そりゃ魔物だからな」


 思わず口から感情そのままの声が出るアイリス。

 その言葉を魔物はあっさりと流し、そして笑う。


「なるほど。しかし、彼らが生きていることをを知らせて、僕たちにあなたは何をしようというんですか?」


 そんなことをよそに落ち着いているシルクールが脳内で情報を整理して疑問を飛ばす。

 魔物はその疑問に再び粘着質のある笑みをニヤリと浮かべた。


「なに、簡単なことだ。こいつらを全員助けてやろう。――その代わり、おまえら二人はこの場で自害しろ」


 簡単にそう言ってのけた。

 押し黙るアイリスとシルクール。

 そして、


「断れば、一瞬でこいつの命は終わりを迎えるぜ」


 魔物の爪が微かに女性に首に食い込み、首筋に赤い血液が一筋伝った。

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