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2章ー26話 「腹黒イケメン紳士」


 いきなりの闖入者に店内全員の視線が注がれる。

 しかし、当の本人は物珍しそうに店内を眺めているだけだった。


「おいおい、中々ヤバそうなやつが来たぜ、おい!」


 丸型のテーブルの斜め前に座る山猿の興奮したような声を聞きながら、アイリスもその男を観察していた。

 立ち振る舞いからして男が只者ではないのは一目で分かった。

 そして、何となくだが男は強者特有の雰囲気を醸し出していると感じる。


 そんなことを思っていると、


「えっと、あんたも参加者でいいのか? 何はともあれ強そうな仲間が増えるのはありがたい。ささっ、席に着いてくれ」


 と壇上のヴァンスが男に気配りを見せる。

 しかし、男はその言葉が聞こえていないのか、ヴァンスのいる壇上までササッと移動する。


「あなたがこの作戦の指揮官ということでよろしいんですか?」


「お、おう。確かに俺が指揮官を務めるヴァンスだ。よろしく頼む」


「はいこちらこそ、よろしくお願いします」


 男はマイペースにペッコリと頭を下げる。

 ヴァンスも男のペースに飲まれたのか慌てて頭を下げた。そして、


「あー、まだ名乗ってませんでしたね。王都の中央魔道局局長の命で馳せ参じました。シルクール・スノーデンハイムです。以後お見知りおきを」


 さりげなく男が言ってのけた言葉に店内がざわつく。

 それは男の名前に――ではない。

 前半の中央魔道局長官の命という点だ。

 つまり、この男はサリスタン王国の魔法の総本山、そのトップから使わされたということを示していた。

 強力な助っ人の登場に再び、店内が活気づく。


「えーっと、戦力はこれで全員ですか?」 


 しかし、そんなことお構いなしにシルクールはヴァンスに疑問を投げかける。


「ええ、いやー、中央魔道局局長から直々に依頼された魔法使い様が来て下さるとは百人力です。さぞご高名なのでしょう。魔法使いの名には明るくない自分の浅慮を恥じます」


「いえいえ、僕は他の同志の方々と違ってあまり大々的には活動してませんので。僕の名前を知ってる人がいたらかなりのマニアです。――まあ、それはそうと…」


 ヴァンスの敬意の籠った言葉。

 それに対しシルクールも笑顔で言葉を返す。

 しかし、その途中で言葉を切ると壇上から店内を見渡した。

 

 顔は未だにニコニコしている。

 しかし、その瞳はどこかつまらなそうで、少なからず憐憫を含んでいる様にも見えた。

 最初にその瞳が捉えたのは入り口近くの六人組。アイリス達三人に絡んだ傭兵たちだ。

 そして、


「うーん。8、8、9、9、8、7」


 そう近くにいる者にしか聞こえない様な小さな声で呟いた。

 ヴァンスは先程、自分が3と言われたことを思い出し、首を傾げる。

 その間にもシルクールは瞳を移動させ、数字を呟いていく。

 何故か全ての数字が6以上だった。


 そして視線は前列。駐屯騎士団と駐屯魔法団へ。


「うん、流石に鍛えてますね。みなさん4から5です」


 辺りを置き去りに一人納得したようにうんうんと、呟くシルクール。


「では、私はこの部隊に――」


 そう何かを言いかけた時、シルクールの瞳が捉えた。

 左隅の席に座る三人組を――


「ん? 2、それに0!?」


 初めは山猿、そして次にアイリスを眼にして驚きの声を上げる。

 そして瞳は段々と驚愕から、関心に変わり、子どもの様にキラキラと輝きだした。


「あ、あのシルクール殿?」

 

 さすがに疑問が積り、話しかけるヴァンスだったがシルクールはもうあまり聞いていない様子で、


「ヴァンスさん。明日の作戦はやはり小隊を組んで連携して森へ入るやり方ですか?」


「え? ええ、そのつもりです」


「わかりました! じゃあ僕はあの若者三人の班に入れてもらうことにします!」


 そう言うとシルクールは壇上からぴょこんと飛び降り、そのまま素早く移動するとアイリスたちの座るテーブルまでやってきた。


「ここ、空いてるかい?」


 何の気なしにそんな言葉をかけてくる。

 いきなりすぎる展開。

 しかし、こちらも負けず劣らずに我が道をゆく者がいた。


「おう、空いてるぜ。兄ちゃん、かなりつえーな! この会議が終わったら、俺とバトらねーか」


「ありがとう。フフッ、でもそのお誘いは遠慮しておくよ。君の相手をするとなると、ただじゃすまなそうだ」


 互いににやりと笑う初対面の男二人。

 何故そんなに距離が近いのか。

 この男に警戒心はないのか。

 アイリスは頭が痛くなるのを堪えて、シルクールに顔を向ける。


「えーっと、シルクールさんでしたっけ? なんでまた、私たちの所に」


 先程の壇上でのシルクールの呟きは店内には聞こえていなかった。

 そのため、他の参加者たちは今は何も気にせず、今まさに壇上でゴホンと一つ咳をして明日の作戦について語り始めようとするヴァンスに目を向けている。

 つまり、左端のテーブルであるこの席の会話は辺りの耳には入らないだろう。

 そんなことを知ってか知らずか、シルクールは店内に入ったときの様にニコッと笑うと、


「だって、見たところ君たちが一番強いからね。何度も聞いてるだろうけど今回の目標は相当だ。だから、雑魚と組んで足引っ張ってもらっちゃ困るしね」


 そう小声で毒を吐いた。


 

 そして、そのシルクールが店内に入ってから今までの会話の最中ずっと、シャーリーは帽子を目深に被り一言も喋らなかった。


*****―――


 インリウウィスの南に位置する森。

 言わずもがな、明日決行される作戦の目標地点。

 

 正確な位置は分からない。

 多数の魔物が蠢く森の中。

 その中でひときわ際立つ不気味な魔力を放つ黒い影があった。


 辺りの魔物より一回りも二回りも大きな巨躯。

 眼は怪しく光り、その周辺には人の遺体と思しき肉塊が散らばっていた。

 数日前に森の視察に出かけた先遣隊だった。

 

 しかし、そんなものに目をくれず、その巨大な魔物は夜空を見上げる。

 そして、


「か、かんじる…、かんじるぞ……。あのにんげんの、にくきおとこの…。われらをほろぼそうとしたあのさりすたんの…そのちをひいたものがやってくる……!!」


 絞り出したかのような、怨嗟の籠った声が森に響いた。

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