2章ー25話 「出会いは強者のあつまる酒場にて」
当然の声にアイリスの目の前の男がビクッと肩を震わす。
アイリス自身もその声に剣を収め、声の主に目を向ける。
一番右奥のテーブルから一人の男が立ち上がり、こちらへと歩いて来ていた。
首から下を甲冑に包み、腰に剣を指した大柄な男だった。
おそらく駐屯している騎士なのだろう。
その男はアイリスたちの前まで来て絡んできた傭兵たちから護るように立ちふさがると、
「貴様らはこんな子ども達に絡むなど、恥はないのか!!」
そう怒気を込めた言葉を放つ。
その一喝に傭兵たちはバツの悪そうに顔をしかめるとしぶしぶといった様子で自分の席に戻っていった。しかし、未練がましくまだアイリスたちを睨んでいる者もいた。
なんとなくアイリスには傭兵たちが従う様子を見てこの男がインリウウィスの駐屯騎士の代表であることが見て取れた。
傭兵たちが席に着いたことを確認して、男はアイリス達へ振り返る。
振り返った男の顔は先程までとは異なり、穏やかだった。
「ふぅー、すまなかったな、君たち。あいつらはかなり荒っぽい奴らなんだ。でも、戦力はひとつも失う訳にはいかない、一パーセントでも確率をあげれるならな。ここは俺の顔に免じて収めてくれ」
そう言うと男はぺこりと頭を下げた。
「ふん、理解あるおっさんだな。俺様には及ばないが中々に大物だ。よしここは引き下がろう」
「いえいえ、こちらこそ。場を収めて頂いてありがとうございます」
相変わらず偉そうな態度の山猿としっかりした年上にはきちんと敬意を払うアイリス。
それを確認し男は頷くと、もう一人、二人の後ろにいたシャーリーに目を向ける。
「君も怖い思いをさせてすまなかったね」
「い、いえ。大丈夫です」
帽子を眼深に被って顔がうかがえない様子に少し困惑するが、すぐに恥ずかしがり屋なのだろうと男は勝手に納得する。
そして、
「私はこの作戦の司令官を務めることになったヴァンスだ。何かわからないことがあったらいつでも聞きに来なさい。では、明日はよろしく頼むよ」
そう言うと踵を返し、自分の席へ戻っていった。
「――んじゃ、私たちも席に着こうか。そろそろ会議も始まるだろうしね」
「だな。ったく暴れてもよかったんだがな」
「はい」
厄介事が片付いて、アイリスのそんな言葉に二人が頷く。
そして、三人はようやく席に着くため歩き出した。
「いやー、困ったもんですね。隊長」
ヴァンスが自分のテーブルに戻ると、一人の若い騎士が話しかけてきた。
名前はワーキン。今年王都の騎士学校の一つを卒業して、インリウウィスの駐屯所に配属になった新米だ。
将来見込みのある騎士は大抵が最初から王都勤務になるため、そこまで優秀ではなかったのだろう。
「でも、あのまま続けさせてもよかったんじゃないですか。作戦本番になって足を引っ張られちゃたまらない。そもそもあんな子どもを参加させるのはどうかと思いますよ」
物知り顔で呟くワーキンに、ヴァンスは頭を押さえて首を振る。
「おまえはもっとしっかりと目を養えよ」
「…え? どういう意味ですか?」
その何も理解できてない部下の様子にヴァンスはハァーっとため息を吐くと、
「あの帽子の子はいまいち分からんが、…明るい金髪の女の子と薄暗い黄色い髪の男の子は別格だ。おそらく俺でも勝てん」
その言葉にワーキンは飲んでいたジュースをのどに詰まらせゴホッとむせて「マジっすか…」と漏らし、周りの騎士たちは鋭い視線で息をのむ。
しかし、ヴァンスだけは落ち着いた様子で椅子に腰を下ろした。
その表情には笑みが浮かんでいる。
「何はともあれ、優秀なやつが多いのは助かる。先遣隊の報告じゃ今回は本当に激戦になりそうだしな。年齢制限設けなくてよかっただろ?」
そう言って同僚たちに笑いかけた。
その時入り口のドアが開き、受付役だった魔法使いの女性が店内に入ってきた。
どうやら作戦会議開始の時間らしい。
席に着いたのは、つかの間。ヴァンスがせかせかと立ち上がり店の一番奥にある壇上に向かう。
その様子をアイリス達三人は空いていた左隅の席で見ていた。
「あのおっさん実力も中々だな。この会議終わったら決闘でも申し込んでみっかな」
「あなたは何を考えてるんですか! 明日には魔物討伐なんですよ!」
「うっせーな、言ってみただけだろ」
席では毎度の様に山猿とシャーリーの言い争いが起こっていた。
アイリスはもはや日常風景の様に聞き流している。
「もうすぐ始まるらしいから静かにしなさい」
小声で二人に注意をし、目線を壇上へ向ける。
ヴァンスが大きく息を吐き呼吸を整えていた。
他の参加者も壇上へと視線を集中させる。
「私が今回の討伐作戦の指揮を執るインリウウィス騎士部隊の隊長である、ヴァンスだ。えー、諸君。本日は集まってくれたこと感謝する。」
店内に響く声で、自己紹介をし頭を下げる。
先程まで騒がしかった店内は、静まり返った。
「諸君らも知っての通り今回の魔物は恐ろしく危険であり、作戦で命を落とすものも必ず出るだろう。森の様子を探りに行かせた先遣隊からもすでに犠牲者は出ている」
初めて聞く情報に店内がざわつく。
改めて今回の命の危険さを実感したのだろう。
「しかし、今回これだけ多くの勇者が集まってくれた。そして、我ら駐屯騎士団、駐屯魔法団も作戦には参加させてもらう。この中には名のある冒険者、傭兵もいるだろう。これだけの戦力だ打ち倒せぬ魔物などいない! 諸君、明日それを証明してみせよう!!」
ヴァンスの声で店内は活気付き、雄叫びが木霊する。
どうやら演説は、士気を上げることに成功したようだ。
ヴァンスの鼓舞の言葉に作戦参加者が拳を突き上げる。
それを見て満足そうにしたヴァンスは、続いて作戦の概要についての話を切り出そうとする。
しかし、そんな時。店の扉が不意に開いた。
「おー、盛り上がってますね。一日早く着いたかいがあったかな? まだ作戦会議は始まってませんよね」
そんなとぼけた声と共に一人のローブに帽子姿の男が店内に入ってくる。
傭兵団や冒険者、駐屯魔法団の中にいる何人かの女性がその男の容姿に目を奪われる。
濡れたような青い髪に、顔の全てのパーツが黄金比に乗っ取っているような男。
その男は壇上に立つヴァンスをその瞳に捉えて、
「ふーむ。3かな」
そうニッコリ笑って呟いた。




