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2章ー23話 「謎多き男」


 地図の通り歩を進めた三人は、ちょうど日付の変わる頃には山を抜けることができた。

 その途中一度も魔物に遭遇することはなかった。やはり、山猿がほとんど全ての魔物を狩り尽くしていたのだろう。

 そのため、山で一泊もせず着くことができたのだ。


 そして山を越えたらもうすでにインリウウィスの街が見える。

 もう夜中だというのに、ここからでもわかるほどの光が見て取れる。

 

「おいおい、何であんなに活気付いてんだ?」


 それを見て、山猿が先を歩くアイリス達二人に並んで問いかける。

 ちなみに山を越えるまではアイリスとシャーリーが並んで歩き、その少し後ろを山猿が歩いていた。

 アイリスも移動しながら山猿へと視線を向ける。


「あー、あんたインリウウィスの状況知らないんだっけ。んーと、まあ簡単に説明すると今あの都市の近くに正体不明の強大な魔物が出現してるみたいなの。その影響で周囲には魔物が大量出現中」


「なるほど、だからあんなにワラワラと湧いてきやがったのか!」


「んで、それを討伐するために各地から腕自慢の傭兵やら冒険者やらが集まってるらしい。作戦開始はたしか明日か明後日ぐらいだからその影響で街には人が増えて、活気付いてるんじゃないかな」


 これはここに来る途中に聞いた話の受け売りだった。

 するとそこまで聞いた山猿は顔を下にしてプルプルと震えだした。

 それを訝しげな眼で見るアイリスとシャーリー。


「どうしたんですか? もしかして怖くな――」


「なんてソソるイベントなんだ! 正体不明の魔物、その討伐! よし決めた、俺様はそれに参加するぞ!」


 シャーリーの声を遮り、山猿が大声でそう宣言した。

 その瞳はキラキラと輝いている。

 そして、そのキラキラした瞳のまま二人の方へ目を向ける。


「おい、もしかしてお前らもそれに参加するのか?」


「まあ、そのつもりかな。実はその魔物がいる場所は私たちの目的地への通り道でね。いい機会だし、参加しようと思ってね」


 そう、実は魔物が出現した場所はインリウウィスと王都をつなぐ道の間。

 ならばただ討伐されるのを待っているのではなく、自分たちもその討伐に加わることをここに来る途中二人で話し合って決めていた。

 因みにシャーリーが寝た後に、アイリスはシェルとも相談したが「シャーリー様が決めたことなら反対はしない」とのことだった。


 実際にこの討伐への参加を強く望んだのはシャーリーだった。

 アイリスとしては相手は未知数であるため、多少心配はあったのだがその強い押しに、何かあれば自分が守ればいいと結論付けて最後は頷いた。


「おいおい、大丈夫なのか小娘。お前は見た限りじゃそんな強くねーぞ」


「余計なお世話です! あなたこそあっさりやられちゃったりしないで下さいよ!」


「フッ、これだからアホは困る。俺様は最強だ、つまり負けることなどあり得ないんだ」


「は、まさに井の中の蛙というやつですね! あなたなんかよりアイリスさんの方が十倍、いえ百倍強いんですよ!」


「なんだと!」


「なんですか!」 


 言い争う二人にやれやれと頭を振り、シャーリーが一歩前に出る。

 たった数時間の道中だが、シャーリーと山猿は相性がとてつもなく悪いということがわかっていた。

 そして、すぐに言い争いになるため止めるのも面倒になりつつあった。

 

 そのまま二人の口喧嘩を聞きながら歩いているといつの間にかインリウウィスの入口に到着していた。


「おーい、二人とも。ここにその討伐について書いてあるよ」


 それは入口に置かれた大きな掲示板。

 その中央にでかでかと『魔物討伐、志願者求む!』と書かれた紙が張り出されていた。

 条件等は特になし。討伐功労者には大量の報奨金が出るらしい。


「なになに、明日の昼間に作戦会議ですか。よかったです、ギリギリ間に合いましたね」


「そうだね。作戦決行は明後日みたいだし、その戦力の確認と打ち合わせだろうね」


「ふーん、なるほどな。つーかこういうのって誰が張り出してんだ」


「これはおそらく都市に駐屯してる王都から派遣された騎士や魔法使いじゃないかな。街の統治者がこういうことには出てこないと思うし」


 張り紙を見て口にするシャーリーと山猿の言葉に、アイリスがテキパキと答える。

 二人がおー、と感心したような声を漏らす。

 そして、


「夜も遅いしひとまず今日は宿でもとりましょう。あんたはどうするの?」


 そう山猿に問いかけた。

 その質問に山猿は「ん?」と一瞬、疑問を口にすると合点がいったようにポンと手を叩いた。


「なるほど、宿に泊まるという選択肢があるのか!」


 何がなるほどなのかわからずアイリスが困惑する。

 シャーリーも同様だ。


「いや、あんたが三日間山で彷徨ってたのは分かったけどそれ以前は街とかに行ったときどうしてたのよ?」


「適当に空いてる場所で寝てたな」


 絶句する二人。

 そんな二人の様子に、


「仕方ねーだろ、俺様の一族はある深い森の中に代々住んでて、ちっさい集落には宿とかそういうのが一切なかったんだから。慣れてねーんだよ」


 平然と言い放つ。

 なら何故、その集落から出てきて何も知らぬまま旅をしてるのだろう、ふとそんな疑問がアイリスの胸に浮かぶ。


「代々森の中に住んでるのならなんであなたは今その外に出て旅をしてるんですか?」


 アイリスの思っていたことをそのまま口にするシャーリー。

 意外とぐいぐいいくね、と心中で感心するアイリス。

 そしてその言葉に山猿は待ってましたとばかりに胸を張り、


「いい質問だ、小娘。実はとある組織が俺様の持つ莫大な才能と力に気付いたらしく、この才能を埋もれさせるわけにはいかないと村の長に掛け合って許可をもらってな。今は組織が指定したとある場所に行く途中なわけだ」


そう言ってのけた。 

 ”とある”が二回もあって的を得ない上に中々胡散臭そうな話だが、どうやら山猿もどこか目的地を持って旅をしているらしいことは分かった。

 それを聞いてアイリスがハァーっとため息を吐くと、


「お金は持ってるの?」


「ん? ああ、そいつらが旅費って言って俺に渡してきたのがあるな」


「んじゃ、とりあえず宿探すからあんたも付いてきな」


 と首を振って、先導するように歩きだす。


 なんだかんだ面倒見のいいアイリスなのであった。 

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