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2章ー21話 「夜山に舞う双剣」


「さあ、アイリスさん。ここを越えれば『インリウウィス』みたいですよ」


「だね」 


 元気なシャーリーの声にアイリスが頷く。

 二人の眼前にはそれほど高いわけではない小山がそびえていた。

 シャーリーがここへ来る途中に買った地図を見て改めて道を確認する。

 

 二人がアクリエルを出発してからすでに七日が経っていた。

 しかし、アイリスの予想以上にシャーリーは体力と気力があり、予定していた到着時間よりも二日ほど早くここまで辿り着くことができていた。

 

 時刻は夕方四時を過ぎた頃。

 微かに空は陰り、夕焼けが出始めていた。


「シャーリー、体力は大丈夫?」


「はい、まだまだ行けますよ。この濃すぎる一週間で体力も相当つきましたんで!」


 えっへんという擬音が聞こえてきそうなほど胸を張るシャーリー。

 アイリスもその様子を見て、微笑ましそうに笑う。

 実際この一週間でのシャーリーの頑張りには目を見張るものがあった。

 

 初めて魔物と戦ったその日の夜から、アイリスとの魔法の特訓を開始して、昼間は文句ひとつ言わずに歩く。そして、魔物と遭遇した際には初日以降はアイリスと共闘だが積極的に色々と自分のできることを実戦の中で試すようになった。

 やはりあの一閃がシャーリーに与えたものは大きかったのだろう。


 しかし、まだそれでも荒削り。

 油断したらすぐに命を落とす可能性もあるだろう、とアイリスはしっかりと胸にとどめておいた。

 それはシャーリーも自覚しているだろう。


「じゃあ、とりあえず山に入って出来るとこまで進もうか。もちろん、例の件もあるし魔物に注意しながらね。そんなに大きくないし今日中にインリウウィスに着けるかもしれないしね」


「わかりました!」


 アイリスの言葉に首を縦に振るシャーリー。

 そして、二人は橙色に染まる空のもと、山へと足を踏み入れた。



 例の件。それはインリウウィスに出現した謎の魔物についてだ。

 ここまでの道のりで何人もの人とすれ違い、何人もの人が「インリウウィスに向かうのはやめた方がいい」と忠告してきた。

 

 その理由は単純。強大な魔力を持つ魔物の出現、そしてそれに伴う魔物の大量発生についてだ。

 魔物が出現したのはインリウウィス北部の森林。当然その周辺が魔物の出現が一番多い。

 アイリスたちが今いるのはちょうど対極に位置する南部なので、そこまで魔物が多いわけではない。しかし、それでも通常時に比べたら雲泥の差だ。


 そして、おそらくこのインリウウィスに隣接する山にはこれまで以上に魔物が出現していると睨んでいた。

 しかし、アイリスたちが山へ入って一時間ほど未だに魔物と出会ってはいない。

 山に生えている木の影響と純粋に日が暮れた影響ですでにかなり薄暗くなっている。


「かなり暗くなってきたね」


「そうですね。――あっ、そうだ! アイリスさん、ちょっと魔法試してみてもいいですか?」


 少しワクワクした顔でそんな提案をするシャーリー。

 なんとなく何がしたいのか理解したアイリスは顎に手を当て少し考えると「うん、いいよ」と許可を出した。

 それを聞き、「やったぁ」と嬉しそうに声を漏らすと、


「ふぅー、よし。『ラクリーナ』」


 一つ深呼吸をして、シャーリーは詠唱した。

 下向きに出した掌に光が溢れ、やがてそれは収縮して手のひらサイズの光球となり辺りを照らす。

 その様子を見て、一瞬驚きに顔を染めると、そのままアイリスに振り返る。

 アイリスは感心した様に頷くと、


「うん、成功だね。かなりコントロール上手になってきたね」


 そう言ってシャーリーの頭を撫でる。 

 最初の頃はこの行動に困惑していたシャーリーだったが、今では、えへへ~と顔を緩ませ為されるがままになっている。

 正直シャーリー自身もこの一週間の自分の上達には驚きを隠せないでいた。今まで数年かけてもできなかったことが、アイリスに一対一で熱心に指導してもらったおかげで恐ろしいまでの上達速度を見せていた。 

 それに比例してシャーリーの中では、もともと高かったアイリスへの信頼度がさらに鰻登りで上がり続けていた。


「それにしても魔物が全く出ないね」


「はい、たしかにそうですね」

 

 頭から手を放して再び歩を進めながらのアイリスの呟きにシャーリーが同意する。

 一瞬シェルが危険を察知してジャミングを開始したのかとも思ったが、それならば自分に何らかの合図を送ってくるはずだと思い直す。


 そんな時、アイリスの耳に微かな音が届く。

 何かが木や葉を通過するような擦れた音。そして、その音はこちらに近づいてきている。


「――シャーリー、あたしの後ろに下がって」


「は、はい。魔物ですか?」


 アイリスの真剣な声音にすぐさま指示に従い、背中に着くように移動するシャーリー。

 こうすることはこの一週間でも何度かあった。それはシャーリーがまだ歯が立たない相手と戦うときだ。


「いや、違う気がする。直感だけどね」


 そんな理由だが、この師の直感が当たることもこの一週間で理解していた。

 しかし、魔物じゃないなら人間? なんでこんな山の中で?

 そんな疑問を浮かべているうちに、アイリスが感じ取った音はシャーリーの耳にも届く。

 そして、


 バサッという音と共にそれは飛び出してきた。

 アイリスの予感したとおり、それは魔物ではなく人間だった。

 少し黒みがかった黄色の短い髪に鋭い目つきの男だ。歳はアイリスと同じくらいだろう。

 そして、その両手には鈍く光る双剣が握られていた。


 一瞬の出来事。

 男が右手の刀を振り降ろす。かなりのスピードの一撃に思わずシャーリーが息を呑むが、アイリスは表情を変えず、まるで撫でるように男の刀の軌道に木剣を添える。

 男の刀が逸れて宙を斬る。

 驚愕の表情を浮かべる男。そして、そのまま体勢が少し崩れた男の意識を絶つために追撃を加えようとするが、


「お、おまえたち、人間か!?」


「……は?」


 男の言葉に疑問符を浮かべながら、剣を止めるアイリス。

 しかし、そんな様子をお構いなしに男は「あー」っと無防備に背伸びをすると、戦闘態勢を解く。そして、


「いやー、ようやく会えた。生きた人間に会うのは三日ぶりだ。あっ、なにか食べ物持ってない?」


 いきなりそんなことを口走った。


「えーっと、どういうことですかね、アイリスさん」


「いや、あたしに聞かれてもわかんないよ」


 呆れたような二人の声が夜の山に響いた。

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