2章ー19話 「考えて、考えて、その先に見えるもの」
―――危機的状況にこそ、人は秘められた力を発揮する。
そして、シャーリーも危機に直面していた。
いきなりのアイリスの閃きによる戦闘開始。
すでに目の前には魔物の牙が迫っている。
そして取るべき選択肢は一つだけ。
掌を前に突き出して、一番マシに使える魔法を頭の中で思い描き、
「スパルタすぎますよ、アイリスさん!!!! 『ラクリーナ』!!」
この状況を生み出した教官へ悲鳴に似た抗議を叫びながら、力いっぱい唱える。
久しぶりの魔力が体から手に集まる感覚。しかし、いつもとは少し違う感覚。
次の瞬間、今までよりはるかにに巨大な光球が前方に放出され、眼の前にいた三体の魔族に命中し、その全てを薙ぎ払った。
―――などという都合のいい展開は訪れなかった。
いつも通りの掌よりも小さい光球が出現し、へなへな~という擬音が起こりそうな程に緩やかなスピードで先頭の魔族の額に当たる。
しかも、激突の瞬間にシャボン玉の様にペチャンと割れて、当たった魔族は「え? 今何かしましたか?」と言いたげなように頭をキョロキョロと回す。
「…アイリスさーん」
救いを求めるような眼で岩の上で岩の上に座るアイリスを見上げるシャーリー。
それをどのような意味に受け取ったのか、アイリスは、
「がんばれ、そして考えろ。その先に得るものがある!」
と親指を立ててニコッと笑った。
「は、はは」とシャーリーの口から助けを諦める渇いた笑いが出る。
そして、その間に三体の魔族はシャーリーに向かって突き進んできた。
「ぎゃああああああああああっ!!??」
それを視認したアイリスは大急ぎでひとまず逃走を図るため走り出した。
「おー、中々ハードなことやってるね」
その光景を、二人と三匹のいる場所から少し離れた丘のような場所で、右手に手のひらサイズの望遠鏡を持ち、苦笑交じりに見ている仮面姿の女がいた。
今回、この王都までの帰り道では少し離れたところからこのように見守るという手段をとっている。
王都までの道は魔族や盗賊からのジャミングは不要とアイリスから言われていたし、シェル本人もシャーリーの隣にアイリスがいるためその必要はないと思っていた。
しかし、まさかこんなことを狙っていたとは思わなかった。
「あれは、『メルトロス』かな。まあ、アイリスちゃんなら余裕だろうけどシャーリー様には荷が重いかな」
シャーリーが現在襲われている魔物を視認してシェルが呟く。
メルトロスは比較的昔から自然に人間界に出現する魔物だ。
実際ここ数年で出現率が莫大に増加したのは事実だが、それでも冒険者や傭兵なら平均レベルの実力があれば安全に倒せるレベルの魔物であり、現在人間界に自然出現が確認されている魔物の中ではその危険度は最低ランクだ。
しかし、それはあくまで戦闘力を有しているものに対しての話。
一般人にとっては十分に危険な魔物である。
ほとんど王都から出たこともなく実戦経験もないシャーリーにとってもそれは同様で簡単に倒せる相手ではない。
「でも、的を得てると言えば的を得てるんだよね。確かに実戦経験は大事だし、シャーリー様にはそれが他の御兄弟に比べて圧倒的に足りない。――本当に王になりたいんなら、まず始めのそのステージに立つために、それは絶対必要なこと」
正直な話をすると、これまでシェルはシャーリーが王になることは絶対にありえない、と思っていた。いや、今でも思っている。
今回シャーリーが一人王都を出たことを知らされたときも、「何をしてるんだろう、あの子は」と呆れ半分だった。
でも、もしこの旅でシャーリーが今まで得られなかった足りないものを得られるのなら、あの少女がシャーリーにそれを与えるのなら、そしてシャーリーの決意が折れなかったなら―――
「ライバルが増えちゃうかもしれませんね。…フフッ、でもきっと君はそんなことお構いなしにシャーリー様が同じ舞台に上がったことを手放しに喜ぶんだろうけどさ」
そう空を見上げ、もう何日もあっていない主を思い浮かべて呟いた。
「うわああああっ!」
絶叫を上げながら岩場を激走するシャーリー。
走りながら後ろを振り返ると、一匹を先頭に三体ともこちらに付いて来ていた。
悲鳴が漏れそうになるが、口を押さえ堪える。
いきなりの事態に頭はいまだに混乱しているが、シャーリーはこの状況が今の自分に必要なものだということはなんとなく理解できた。
たしかに王都への道は短い。普通に歩いていけば一月程度。
その期間普通にアイリスさんに安全に優しく稽古をつけてもらうだけでは、おそらく自分の目指す領域までは辿り着けないだろう。
自分は何のために王都を出たのか。
自分は何のために今も多くの人に心配をかけているかもしれない行動をとっているのか。
自分は何のために王になろうと思ったのか。
頭の中で自分に問いかける。
その上、
「私が王になるには『選王の儀』で勝ち抜くことが絶対条件。そもそもその前段階として『選王の儀』を開かせる必要がある」
自分が目指す場所に立ちはだかる壁を声にだし、その困難さを頭の中でしっかりと思い描く。
「――だから、私はこんな所で躓いてるわけにはいかないんです!」
これは強がりかもしれない。
それでも決意を声にして、覚悟を決めるシャーリー。
そして、迅速に行動を開始する。
まず右手で体に触れる。
先程アイリスに纏わせてもらった風の防御が健在なのを確認して、次は周囲の岩場に目を向ける。
「がんばれ、そして考えろ。その先に得るものがある!」
先程アイリスが言っていた言葉を口の中で反復し、一瞬眼をつむり瞬間的に自分の取るべき行動を思い描く。
再び開いた目には覚悟の炎が灯っていた。
「――よし、やってやります」




