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2章ー17話 「忍び寄る戦いの足音」

 

 二人と別れて数時間、適当な店で昼食を食べたスーリンはアクリエルの街を歩いていた。

 本当はこんなに長く滞在するつもりは無かったが、美味しい料理や水の織り成す美しい風景に魅了されなんやかんやで、出発は4日後を予定している。


 そんな中、ふと先程の二人のことを思い出した。

 恐らく、あのアイリスと呼ばれた少女は中々の使い手だ、心配は必要ない。

 でもあの様子じゃほとんどアクリエルを見ていないだろうにもったいないな、とそんなことを思いながら道を歩いていると何やら少し人だかりができているような場所が目に映った。


 気にかかり、顔をちらりとそちらに向けると、果物屋で果実を選んでいるローブに帽子姿の人物を女たちが少し離れた場所からまるで取り囲むかのようにして見ていた。

 決して話しかけるわけではなく、チラチラと視線を泳がせている感じだ。

 そしてその人物の顔を見て、スーリンは人だかりの理由に気づく。


 そこにいたのはとてつもなく整った顔をしている美男子だった。

 濡れるような青い髪に、顔の全てのパーツが黄金比に完璧に倣っているような相貌。

 身長も高く、表情も柔和だ。

 そして、それとは別のことにもスーリンは感づいた。


 ―――強いわね、あの男。


 アイリスに言われた通り、護衛は雇うつもりだったので一瞬声をかけてみようかとも思ったが、その考えはすぐに振り払う。

 この空気の中で護衛を頼めないか、と声をかける度胸はさすがに持ち合わせていない。

 

 しかし、スーリンが踵を返そうとしたその時、店主からお釣りを受け取り、礼を述べた男と不意に目が合う。

 少しドキッとするスーリンだったが、ここで何故か男の方がスーリンの方へ小走りで近寄ってきた。

 そして、「失礼、ちょっと人ごみを離れます」と一言断りを入れてスーリンの手を取ると、人だかりから小走りで離れる。


「え、ちょっと、なに!?」


「いきなりで、すみません。もしかして、あなた御者をされてますか?」


 手を握り、走りながら訪ねてくる男。


「え、ええ。そうだけど…」


 男の行動に驚き、声に焦りが出る。

 それに走りながら、近くで見ると本当に整った顔をしていた。

 歳はスーリンより少し下。二十歳くらいだろうか。


 気がつくと、いつの間にか人通りの少ない場所まで移動しており、男が足を止めるとスーリンの方を振り向く。


「そうですか、ちょうどよかった。実はインリウウィスまで乗せてっていただけないでしょうか。護衛も兼ねますよ」


 男の口から予想外の逆依頼。

 願ってもないことだったし、インリウウィスならば王都までの通り道だ。

 しかし、一つ問題があった。


「えーと…乗せていく分には構わないんだけど、出発は4日後を予定しているんだけどそれでも大丈夫?」


「はい、大丈夫ですよ。十日後までに到着できれば問題ないんで」


 そう言うと男はニッコリ微笑んだ。

 中々の破壊力の笑顔だ。

 間近でそれを見せられ、自分の顔が赤くなっていないか心配になったが、頭を切り替える。

 スーリンはしっかり公私を分けられる自信があった。


「えっと、スーリン・ソクスタよ」


「おお、これはこれは、僕としたことが名乗りもせずにすみません」

 

 そう言って男は帽子を取って、頭をかくと、


「シルクール・スノーデンハイムです。以後お見知りおきを」


 そう名乗り、洗礼された動作で礼をする。

 その様子を見て、目の前の男は貴族出身かもしれないと分析するスーリン。

 しかし、初対面の男にそこまで踏み込むのは失礼なので口には出さない。


「挨拶も済んだことですし、当日の集合場所などの確認をしたいのですが。よろしいですか?」


 柔和な笑みでそう続ける男――シルクール。

 しかし、まだ少しスーリンには不安もあった。


「その前にちょっといい。やっぱり、アタシも女だから護衛といっても見ず知らずの男と二人旅は不安なわけよ。―――それもあなたみたいなアタシよりはるかに強そうな男だと。だから、インリウウィスへ行く目的だけでも教えてくれない」


 その言葉にシルクールは少し驚き、意外そうな顔をした。

 表情の変化に理由がスーリンが不安に思っていることに対してか、自分の力量を見抜かれたことに対してかは分からない。

 しかし、その表情を一瞬で消し去り、シルクールは元通りの柔和な笑みに戻る。


「確かにそれもそうですね。ええ、構いませんよ。実は数日前にインリウウィス周辺に魔物の大量発生が起こりまして、その上その魔物達を束ねる正体不明の強大な魔物もいるらしいんですよ」


「…初耳だわ」


「現在インリウウィスから情報が出回っている最中ですからね、今日の夜にはここにも伝わると思いますよ。まあ、そんな感じの理由で十日後に傭兵やら腕自慢な冒険者やらを集めて討伐作戦が決行されるようなんです。僕の目的はそれへの参加ですよ」


 シルクールはそう自分の目的を告げ、


「まあ、正直に言うと姉弟子からの指令なんで仕方なく行くんですけどね」


 そう言って、やれやれと言った感じに首を振ってみせた。


*****―――


 同時刻。

 アクリエルから出発し、数時間歩き続けていたシャーリーとアイリスは適当に見つけた岩に腰掛けて休憩を取っていた。

 アイリスはともかく、シャーリーはそこまで体力は無いため息も絶え絶えだった。


「大丈夫、シャーリー?」


「…はい、このくらいへっちゃらです」


 やせ我慢は丸見えだが気持ちは全く折れていないため、アイリスは笑みをこぼす。

 幸い水はアイリスの魔法で補えるし、食料も転移魔法術式の巻物に保存してあるため、飢えの心配はない。

 心配があるとすれば――、


「休んでばかりいられません。もう体力も回復したので出発しましょう」


 立ち上がるシャーリー。

 その腕をアイリスが掴み、制止する。


「え? どうしました、アイリスさん」


 怪訝な顔のシャーリーだったが、

 

「どうやら、さっそく一回目の戦闘開始みたい」


 アイリスの言葉にハッとする。

 周りを見渡し、その姿を視界にとらえる。


 右前方に三体の四足歩行の魔物が餌を見つけたような眼でこちらを眺めていた。

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