2章ー16話 「始まる二人旅」
「さあ、行きましょうか、アイリスさん!」
一夜明けた朝。
やけにテンションの高いシャーリーに先導される形で二人はアクリエルの街を歩いていた。
シャーリーのハイテンションの理由は昨日の夜のことが原因だろう、とアイリスはなんとなく感じ取っていた。
冷静になって思い返せば、胸の中で号泣してそのまま寝てしまったのだ。
自分もシャーリーの立場なら普通に恥ずかしいと思うし、それを誤魔化すため元気に振る舞うのも頷けると納得するアイリス。
「はいはい、でもはぐれないでよ」
とは言っても迷子になってもなられても困るため左手でシャーリーの右手を掴み、手をつなぐ。
「ひゃっ!? は、はい!」
いきなり手を握られたシャーリーが驚いた様に声を上げるが、すぐに気持ちを立て直して右手をギュッと握り返す。
アイリスがそんな様子にいたずら心を覚え始めたところに、
「ん? あ、君は馬車の子じゃん! よかった、無事に帰って来たんだね!」
不意に横合いからそんな声がかかり、女性が二人に向かって歩いてくる。
緑色の髪を伸ばした、少し釣り眼の大人の女性。
アイリスには見覚えはなかったが、シャーリーはその姿を眼に捉えると、
「あっ、スーリンさん!」
そう言って、空いている左手で女性に手を振った。
女性も右手を軽く振り返す。
「ん? どなた?」
「あっ、アイリスさんは知りませんよね。彼女は私を王都からアクリエルまで馬車で運んでくれたスーリンさんです」
「あー、なるほどね」
シャーリーの簡潔な説明に納得して、手をポンとたたくアイリス。
そんなアイリスを見て、今度はスーリンが不思議そうな顔をする。
「あれ、そっちの子は友達?」
「いえ、姉です」
「違います! さらりと変なこと言わないでください!? この人はアイリスさんといって危ないところを助けて頂いて、それから一緒に行動させて頂いてるんです」
スーリンの疑問に、さらりとそんなことを言ってのけるアイリスの言葉を焦って否定するシャーリー。
そんな二人の様子を見てスーリンは一瞬驚いた様な顔をした後、
「そっか、まあ仲良さそうでよかったよ。君はなんかいつも焦ってるような顔してたけど、今は余裕がありそうだ」
そう言って微笑んだ。
シャーリーがそんなにスーリンといたころの自分は余裕がなかったのか、と思い起こして少し気まずそうな顔をし、「私そんな感じだったんですか」と声を漏らす。
その反応に、
「いやいや、別にそこまでじゃないよ! …あっ、そう言えばこれからどうするの? 王都まで行くんなら乗せてくよ、もちろん格安で」
シャーリーの様子に焦ってフォローを入れる。そして、思い出したかのようにそんな提案をした。
確かにこれからシャーリーは再びアイリスと王都まで行く予定だ。
しかし、その行きかたはすでに決めていた。
「すみません。お気持ちは嬉しいんですが、私はアイリスさんと二人で徒歩で王都まで向かうことにします」
「…そっか」
シャーリーの返答に、アイリスを一瞥してから頷くスーリン。
これまで仕事柄、護衛を雇う機会も多かったことからスーリンはなんとなくだが人の強さが分かる。
この少女が側にいるんなら大丈夫だろうと、思った。
「じゃあ、また縁があったらどこかで会おうね」
そう言って踵を返そうとするスーリン。
しかし、その背中にアイリスから声がかかる。
「あの、あなたも今日この町を出るの?」
「ん、あと数日だけ滞在するつもりだけど…。どうして?」
「護衛はきちんと雇った方がいいですよ。来るとき一回も襲われなかったって聞いたけどそれはたぶん奇跡に近いですから」
予想外のアイリスからの心配の言葉にスーリンは「フフッ」と笑うと、
「心配してくれてありがと。それに大丈夫、これでもこの仕事は長いしね。命あっての物種だってことはよく分かってるよ」
そう言って後ろ手に手を振りながらスーリンは喧騒の中に消えていった。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
それを見届けた、二人は再び歩き出す。
とりあえず次の目的地はアクリエルと同規模の都市『インリウウィス』。
歩いてだいたい十日ほどらしいので、道中の小さな町を経由し、シャーリーに戦い方を教えながら進む予定を二人は立てていた。
そして、数分後。
二人はアクリエルの端まで来ていた。
大都市なだけあって、シャンゼンとは違い外へ出ても少しの間しっかりと舗装された道が続いている。
「ねぇ、シャーリー。さっきあの人にも言ったけどここまで来る途中一回も襲われなかったのは奇跡で、たぶん王都に行くまでに何度も戦闘になると思うけど大丈夫?」
アイリスはたぶんと言ったが、実際には何度も襲われるのは確定だと思っていた。
なぜなら、あの森林でシェルは『私の能力で見つからないようジャミングしていた』と言っていた。
それは裏を返せば、シェルがいなければ見つかって襲われていたということ。
しかし、それを言う訳にはいかないので、これからの長旅はおそらく危険を伴うということを匂わせた。
「はい、覚悟はできています」
その言葉を聞き、心配は必要なかったと笑うアイリス。
二人揃い、一歩を踏み出す。
アイリスとシャーリーの二人旅が始まった。




