2章ー閑話 「中央魔道局局長」
これはアイリスたちがアクリエルを出発し、王都を目指す旅を始めるより、さらに少しだけ未来の話。
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場所は王都の中心。
王城よりも少しだけ離れた場所にある荘厳な建物――『中央魔道局』
サリスタン王国に公式に仕えている魔法使いすべてを管理する魔法の中枢。
それぞれの地方に駐屯する魔法使いの派遣、凶悪な魔物が出現した際の魔法部隊の編制及び撃退、『近衛騎士団』と並び国防の中心となる機関だ。
そのトップに立つものが中央魔道局局長である。
その大役を担う者が自室、つまり局長室で一心不乱に机の角に山積みにされた書類と向き合っていた。
意外にも性別は女性。年齢で二十五、六歳で濃い黒色の髪を背中辺りまで伸ばしている。
公務に使うキッチリした服を身にまとい、顔には丸メガネ。
メガネの中の瞳は鋭く光り、ペンを走らせる手は止まることなくスラスラと動き続けていた。
そんな時、ドアの向こうからコンコンとノックの音が耳に届き、
「局長、お手紙が届いてます」
女性らしい高い声がそう続いた。
「入って構わないよ、リズベル」
「はい、失礼します」
ドアが開き、リズベルと呼ばれた声の主が姿を現す。
こちらも同じく公務用の服を着た女性。年齢も局長と同じくらいだろう。
パーマが少しかかったような首辺りまで伸びた紫の髪をウェーブにしており、背はそこまで高くない。
その手に握られていた橙色の封筒を見て、局長の表情が変わる。
この色の封筒はある人物からの手紙の証だった。
「差出人の名前は?」
「『王都一の男前』となっていますね」
今度は、局長の顔が少しだが驚きを露わにする。
一見ふざけているとしか思えないこの名前、しかし、これも事前に決めている手紙の送り主との手紙の内容を示す暗号。
その名前の意味するのは、速達の超重要案件だった。
リズベルが差し出した手紙を受け取り、爪に魔力を纏わせその封を切る。
これもこの手紙のやりとりの開封方法。
―――いったいなんだ? まだあの件で動き出すには早いはず。
封筒から手紙を取出し、中身に目を通す。
局長の疑問の回答は、その手紙に示してあった。
『我が親愛なる師、及び協力者、及び友人である君へ
やあ、元気かい。
いつもなら軽い冗談を交えながら、面白おかしく報告を始めるところだが今回はそうは言ってられない内容だ。
正直いま連絡を聞いて、すぐこの手紙を書き始めたんだが少し手が震えている。
そのため、いつもは凛々しい俺の字が若干汚いのはご容赦願う。
さて本題だ。
まず簡潔に述べる。
俺の信頼する部下の一人がベヘモット、ミョルニーと名乗る二体の魔族と接触したという連絡を送ってきた。
彼女曰く、その発する魔力や雰囲気から間違いないだろうと手紙には綴ってあった。
貴女も知っての通り、俺は部下を信用し、信頼している。
だからこの報告も真実だと結論付けて話を進める。
その部下には先日、王都から出て行ったシャーリーちゃんの護衛をしてもらっていた。
そして、その途中に遭遇したらしい。
そして、最も大事なのがここからだ。
そこでベヘモットは貴方達が総力を挙げて調べた魔神復活の動き、そしてその時期について正しいと認めたらしい。
それに加え、もう二つ我々が知りえなかった情報を話したそうだ。
それに関しては、同封したもう一枚の紙にベヘモットとミョルニーの容姿、話し方、垣間見えた性格などの詳細情報と共に部下の言葉を一字一句変えず記しておいた。
信じ難いことかもしれない。しかし、俺の名においてこれらの情報が真実であることを保証する。
これはとんでもない成果だ。
そして、この情報はサリスタン王国の進む未来に大きく関わってくるだろうと俺は思う。
自分で言っておいてだが、俺はまだ大々的に動くことはできない。
だから、このことを部下と同様に心から信頼できる貴女に託す。
貴女には頼ってばかりで申し訳ないが、何卒よろしく頼む』
手紙はそう締めくくられていた。
正直、予想していたより数倍驚いた。
顔を上げると、いつも無表情のリズベルが焦ったような顔を向けている。
おそらく、それほど手紙を読んでいた自分の顔は色々な表情に変化していたのだろう、と局長は結論付けもう一枚の同封された紙に目を通し始める。
読んでる最中再び、何度も驚きの声を上げそうになるが堪えて読み終える局長。
そこには恐ろしく詳細な内容が書かれていた。
これからのすべき行動について頭の中で思案する。
そして、
「リズベル、今動ける上級以上の魔法使いを夜までに全員この部屋に集めて」
そう指示を飛ばす。
リズベルも、手紙を読んでいる局長の様子からただ事ではないと察していたのか、すぐに「はい」と頷くと部屋を飛び出した。
局長の心は驚愕に支配されていた。
手紙を読む前に入れていたお茶はすでに冷めてしまっていたが、それをグイッと一気に飲み込む。
鼓動を鎮めるために、立ち上がり窓を開け放つ。
日の光が部屋を照らし出した。
「――忙しくなるな、これは」
空を見上げ、高鳴る胸を押さえながら、
『中央魔道局』局長――デイジー・リーヴァインは呟いた。




