表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/356

5章ー幕間  「そしてそれは告げられる」


 それが起こることを予想できた人物は、きっと一人もいなかったはずだ。

 少なくともその瞬間には――。


 サリスタン王国宰相の仕事の中には一つ、異質なものが存在する。

 それは毎朝早朝に、王城深部にある限られた人間しか立ち入ることの許されていない空間。そこに置かれている、とある魔道具の様子を確認するというものだった。

 その魔道具はもう何百年も稼働し続けている。いや、正確には稼働しているとはいっても実際に役目を果たすのは数十年に一度なのだが。


 初代『魔法星』、ムファム・クロック。

 彼が設計開発を行った、魔道具『裁定の灯篭とうろう』。

 それはある物事・・・・を行うのに一番最適な瞬間を自動的に判定し、それを告げるためだけの魔道具だ。


 それ故に宰相は毎朝その瞬間が告げられたかどうかを、その眼で確認するためにその場所へと赴く必要があった。

 とは言えども、『裁定の灯篭』が時を告げるタイミングはこの数百年の記録からある程度予想が可能になっていた。そしてその予想によれば告げられるのは当分先の話となっていたのだ。

 

「!? ばっ、馬鹿な…!?」


 だからこそ、その日いつもの朝の日課の様な心持ちでその場を訪れた宰相が、自身の目に『裁定の灯篭』が光り輝いている光景が映った瞬間に思わず腰を抜かしてその場に尻餅をついてしまったことは仕方のないことなのかもしれない。

 

 『裁定の灯篭』に光が灯った。

 その知らせは瞬く間に王城を伝播した。そして、ほとんどの者がそれを初めて聞いた時は信じられない様なそんな表情を浮かべていた。


 そしてその知らせは、当然王族の耳にもすぐに伝わることになった。


 ***―――――


「失礼いたします。ウィリアス様、お時間の方よろしいでしょうか」


「? 構わないよ」


 王城内の私室。

 そのバルコニーにて、本を読んでいたウィリアスに背後からミアの声がかかる。

 いつも通りの冷静な声音。ミアを知っている人間ならそう思うだろう、しかしミアを良く知っているウィリアスはそこに若干の高ぶりが含まれていることに気付いた。

 冷静沈着な彼女にしては極めて珍しい変化だ。それだけでウィリアスは何か重大な知らせであることを何となく察した。


「何か大事でもあったのかい?」


 パタン、と本を閉じて問いかける。

 

「――『裁定の灯篭』が時を告げました」


「!? …ええっ、本当に?」


 だが、その問いに対する答えはウィリアスの想像を遥かに超えたものだった。

 ミアが嘘も未確定な情報も伝えるはずはない。それは理解しているのに、思わずそう問い返してしまう程だ。


「本当です」


 律儀にミアが肯定する。

 それを聞き届け、「……はぁ~、そっか~」と大きくウィリアスが息を吐いて立ち上がった。


「始まるんだね」


 バルコニーから眼下の光景を眺めてウィリアスが呟く。

 「――ええ」、とミアの静かな肯定の声が背後から返ってきた。


 色々な思いや考えが脳に浮かぶ。だが、その中でも特に一つ引っかかるものがあった。

 それは約半年ほど前にしたとある同級生との会話だった。


『過去の例を見ると平均してどれくらいだと思う?』


『あくまで僕の予測だけどこの先十年は無い確率が非常に高いね』


 確か自分はそう答えた。答えてしまった。

 そしてそれをしっかりと思い返したウィリアスには、苦笑いを浮かべるしか選択肢はなかった。


「ごめんね、アイリスさん」


 本当に申し訳なさそうに、ここにはいない少女に向かってサリスタン王国第二王子は謝罪の言葉を口にする。


「十年はないって言ったのに、まさかの九年以上前倒しで王選・・が始まってしまったよ…」


という訳で、6章にてようやく長々と前振りをしていた王選編が始まります! 

まず間違いなくメチャクチャ長い章になると思われますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ