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5章ー46話 「ほんの少しの延長戦、あるいは大いなる前哨戦」


 夜のとばりが下りた王都。

 そんな中で、人通りも街灯もほとんどない道を一人の騎士が歩いていた。


 『近衛騎士団』一番隊隊長、リアナ・リシリア。

 彼はスリアロ・リスパーロの尋問という極秘任務を終え、そのまま『聖道院』へ旧友の見舞いへ赴き、更にそのまま『近衛騎士団』本部にて団長への任務達成の報告を終えたその帰りだった。


 特にどこに寄るわけでもなく、誰かと合流するわけでもなく、その足は止まらず進み続けた。

 より人のいない、より暗い方向へと――。


 そしてついに周囲に人の気配が完全になくなった。

 チラッ、とそれを確認すると、


「――どこまで付いてくる気だ?」


 誰もいない後方の暗闇に向かって、鬱陶しそうにそう問いかけた。

 先程リアナ自身が確認した様に視覚ではその存在を認識できていない。しかし、リアナは『近衛騎士団』本部を出たときから、うっすらと常にその気配を感じ取っていた。

 遠方からまとわりつく様な不快な感覚。自身を慕うファンや自身を斬って名を上げようとする無法者とは違う異質な気配。

 そう判断したからこそ、リアナは家とは全く異なる方向の人気のない場所へと向かっていたのだ。

 

 ――パチ、パチ、パチ。


 その判断が間違っていなかったことを証明する様に、リアナの問いに軽い拍手の音が返ってくる。

 音が聞こえてくるのは視線の先。そこから少し視点を上げた建物の屋根の上だった。

 ちょうど月明かりを背後に、リアナの瞳がその男の容姿を捉える。


 人のものとは思えない様な美しすぎる容姿に、流れる様な長髪の男。

 彼は愉快そうに薄く口角を上げて、リアナをまっすぐに見下ろしていた。


「いやぁ~、こんな寂れたところに住んでいるのかと驚いていたのだけれど、まさか僕を誘き出すためにわざわざ来ていたとはね。これは一本取られたよ」


 まるで旧知の友人を相手にしているかのように、にこやかな表情で男がリアナに話しかける。

 対してリアナは不快そうに「チッ」と舌打ちを返す。そしてその場で男を睨み付けると、


「――で、要件は何だ? そしてお前は誰だ?」


「ハハッ、連続の質問かい? ずいぶんと手厳しいね」


「ずっと背後から付けてきていた相手に手厳しくしない理由が無いからな」


「ハハハッ、それは確かに正論だ。じゃあ、そうだなぁ。後者の質問から答えようか」


 そう言って、男は「ベヘモット」と短く名乗りを上げた。

 ピクン、とリアナの眉が跳ねる。流石にそんな名前が出るとまでは予想してはいなかったのかもしれない。

 しかしリアナはすぐにいつも通りの表情に戻ると、


「もしそれが本当ならば、この国の警備はザルとしか言いようがないな。王都まで誰にも気づかれずに『十柱』の単独侵入を許すなんて考えられん」


「そう言わないでやってくれ、彼らも頑張っているのさ。あとこの王国は王城の警備システムは優秀なんだけれど、王都自体は魔族といえどそこまで外部からの侵入は難しくないんだ。今後の改善点だね」


「――そうかよ」


 そう言って、リアナはゆっくりと自身の腰に差した剣へと左手を添えた。

 問答はもう十分、とその行動は言っている様だった。

 しかし、それを見てベヘモットの方は「おやおや」とおどけた様に両手を上げた。


「せめて荒事は僕が前者の質問に答えた後にしてくれよ」


「…随分と話したがるな」


「人と話すのは好きだからね、僕の趣味なんだ。といってもキミはそうじゃないらしい。だから手早く答えてあげるとしよう」


「――――」


「実はね、現時点で少々人間と魔族の戦力差のバランスが取れていないんだよ。正直に言えば、人間側に強者が少し多い。だから、――ちょっと間引こうと思ってね」


 「ほぉ」、とその言わんとすることを察してかリアナの表情に初めて笑みが浮かんだ。


「リアナ・リシリア。『神域の左片手』の異名を持つ、王国最強の剣技の使い手。ちょうどキミがいなくなればいい感じのバランスになると思うんだよね」


 にこやかな表情絶やさずにベヘモットが告げる。

 その言葉は有り体に言えば、死の宣告だった。そしてそれを実行するための刃がベヘモットの手にいつの間にやら握られていた。

 「よっこらせ」、とべヘモットがゆっくりその場から立ち上がる。


「でも、個人的には物騒なことは好きじゃなくてね。どうだろうか? スリアロくんと同じようにキミにもこっちにくみするって選択肢はあるよ。それどころか、キミなら『十柱』として迎え入れるのも――」


「悪いな、俺はもうお前を斬ることに決めた」


「…やれやれ。どうやら、そう上手くはいかないらしい」


 闇夜に二人、剣士が向かい合う。


 合図はなかった。

 だが、リアナが地面を蹴り、ベヘモットが屋根から飛び降りたのは、全く同じタイミングだった。


 二つの影と二振りの剣が交錯する。

 そして、


 ――サッ!


 ――ドン、…ごろん。


 響いたのは、切り裂く音と少し遅れて斬り離されたが地面に落ちて転がる音。

 

 まるで両者の間に間にあった圧倒的な剣技の力量差を表す様に、その決着は一瞬で着いたのだった。


これにて5章本編は完結になります!

約半年で完結しました、4章に比べればかなりいいペースな気がします!


実は今回の裏テーマは『主人公の戦わない物語』だったりします。実際ほとんどアイリスは補助に徹していましたしね。こういう章もあってもいいんじゃないか、と思い書いてみました。6章ではメチャクチャ戦いますので、その充電期間みたいなものでもありますね。


という訳で、次は毎回恒例の幕間を挟んで物語は6章に移行します!

ここまで読んで頂いた読者の皆さんに心からの感謝を! そしてこれからも何卒本作をよろしくお願いいたします!!

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