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5章ー42話 「魔法×(魔法+魔剣)×魔剣×(魔法+魔剣)=」


 呼び出された部屋のドアを開けたら見ず知らずの少女が土下座をしながら自己紹介をしてきた。

 『魔剣星』として数多の修羅場をくぐってきたグリシラと言えども初めて遭遇するこの状況には、流石にどうすればいいのか最初はわからなかった。

 だが、


 ――ん? この子、フェリアって言ったか?


 すぐに少女の名乗った名前に心当たりがあることを彼は思い出した。

 

「キミはもしかしてあれか? うちの娘と仲良くしてくれてるっていう…」


「はっ、はい! 娘さんとは学院で出会い、友人として大変良くして頂いております!!」


 「――ああ」、とそれを聞いてグリシラが得心のいった風に頷く。

 実はアイリスからこの少女の話は多少なりと聞いていたのだ。

 学院でできた友達である事。自身と同じくらい強い剣士であること。自身と同じ魔剣士であること。そして極めつけは、


 ――たしか俺の天然魔剣シリーズの熱狂的なファンって言ってたよな。んで、この様子からすると俺自身の熱狂的なファンでもあるってな感じだな。…まぁ、自分で言う事じゃねぇけど。


 だが、それによりグリシラはとりあえず今の状況を理解した。

 そしてこの少女の立場が分かったからには、このまま土下座させておく訳には当然いかない。


「えっと、とりあえず頭を上げて立ってくれるか? 娘と同年代の女の子に土下座させてるみたいでとんでもなく気が退けるから」


「しっ、しししし失礼しました!!」

 

 ガバッ、とフェリアがその声に飛び上がる様にして顔を上げた。

 慌てた様な表情だが、その中央の瞳だけは内心の気持ちを映すようにキラキラと輝いていた。


「そんな畏まらないで構わねぇよ…って言うのも難しい話だよな。まぁ、おいおいと慣れてくれればいいさ」


 緊張と高揚が入り交じった様な態度のフェリア。

 グリシラはそれが今すぐにどうこう変化するとは思っていないし、無理に変化させようとも思っていない。だから気軽にそう言った。

 

「はっ、はい! 努力したします!!」


 そしてビシッと背筋を伸ばし了承を示すフェリアに、「ハハッ」と笑顔を浮かべると、そのままナナを一瞥し、


「んじゃあ一段落ついたし、呼び出した理由を聞こうかね」


 グリシラはそう本題の話を切り出した。


 ***―――――


「なるほどねぇ。本命の話もこのフェリアちゃん絡みだったわけだ」


 ナナからここまでの話を全て聞き終えて、納得した様にグリシラが頷く。

 フェリアの方は先程よりかは落ち着いていたが、「フェリアちゃん…、名前呼んでもらっちゃった…!」とそこでまた本題とは別のポイントで若干盛り上がっていた。


「だが、それで俺を呼ぶ理由は何だ? 一応魔剣の第一人者って呼ばれていはいるが、それはあくまで使う方でだけだぞ」


「そんなことはわかっている。そしてそれを今から話すところだ」


 グリシラの疑問を当然理解しているとばかりに一蹴し、ナナが口を開く。

 ここから先は既存の事実の確認ではなく、これからの未来の話だ。それを察して、キャロンもフェリアも少し前のめりになる。


「いいか、現時点の人工魔剣の生成プロセスはほぼ完成していると言ってもいい。失敗は起こらないし、完成度も実現可能な域で最大限に高い水準だ。――だが、それには現実的に採取可能な魔力保有度内でのという注釈がつく」


「そして、今回フェリアちゃんが持ってきた剣には、採取可能とはとてもじゃないが言えない現役の『魔神配下十柱』の魔力が籠められているってわけだ」


「ああ、未知の領域と言ってもいいな。既存の生成プロセスの規格をそのまま上げればいいという単純なものではない。だが、素材は極上。一か八かはもちろん論外、失敗の可能性は限りなくゼロの状態で臨むべきだ」


「まぁ、当然同意だな」


「何か思っていたよりもだいぶと壮大な話になってる…」


「それは仕方ありませんよ。そもそもフェリアちゃんはここに来る前に人工魔剣の技術は未成熟だ、と言いましたがあれは少しだけ違います」


「? というと?」


「確かに人工魔剣には現時点ではまだ伸び代があります。だけど、やはり既存の魔力保有度の域ではその伸び代の天井はそう高くない。だからさらに洗練するコストとそれに対するリターンの関係を考えて、量産可能で高水準な現時点の人工魔剣が完成形とされているんです。まぁ、新たに前提を大きく覆す様な何かが発見されれば話は変わりますけれどね」


「へぇ~、なるほど」


「まぁ、だいたいキャロンの言うとおりだ。だからこの魔力保有度Aランクの人工魔剣の開発は、今までの人工魔剣開発とは一線を画していると言ってもいい。そこでだ」


 言葉を一度切り、ナナは視線をグリシラに向けた。

 そして、


「――魔力保有度Aランク魔剣のサンプルが欲しい。一振りでいい、貸してくれないか」


 ナナはそう唐突に願い出た。

 

「………はぁ!?」


 一拍遅れて、驚きの声があげる。

 しかしそれはグリシラのものではない。その対面に座るフェリアのものだった。


「何を言ってるんですか!? そんな迷惑なお願い――」


「サンプルは絶対にあった方がいい。それに元から私はそのつもりだった。彼をここに呼んだのは別にフェリアくんに会わせるためでも、画期的な意見を頂戴するためでもない。そのためだ」


「…あのですね、これはあくまで私の個人的な依頼なんです。そんなご迷惑で失礼なことのためにわざわざグリシ――」


「俺は別に構わないぞ」


「ええっ!?」


 しかしフェリアがナナに異議を申し立てようとする途中で、まるでなんでもない事の様にグリシラは答えた。

 まさかの答えにフェリアが呆気にとられた様な表情になる。


「………え? 構わない、って…? え?」


「ああ、貸すのぐらい構わないよ。別にぶっ壊して調べる訳じゃないんだろ?」


 フェリアの疑問にもう一度グリシラがはっきり答えると、今度はナナにそう問いかける。

 「当たり前だろ」、と呆れた様にナナは仏頂面を浮かべた。


「そもそもAランク魔剣はそう簡単に壊れない。魔力の流れやら、構造やらの参考にするだけだ」


「なら何一つ問題はない」


「でっ、でも! お仕事に差し支えたりするんじゃ………」


「ハハッ、一振り貸し出してもまだAランクだけでも六本も余る。生憎と六本全部使っても勝てない様なやつにさえまだ会ってないからな。いらない心配だ」


「そっ、そう…ですか」


 納得の言葉。しかし、その表情には未だに後ろめたさ申し訳なさの様なものがハッキリと浮かんでいた。自分の個人的な依頼が、グリシラにほんの少しでも不利益になることが嫌なのだろう、

 このままでは恐らくあまり良い気持ちで彼女はこの開発に臨めない。何となくそれはわかった。

 だからこそ、


「それにな、実は俺はキミに恩があるんだ。これはその恩返しみたいなもんだ」


 そうグリシラは続けた。

 「え?」、とポカンとした表情をフェリアは浮かべる。ずっと憧れていた。だが当然会うのは今日が初めて。そんな心当たりなどあるはずもない。

 

 ――もしかしてアイリス関係?


 一番に思い当たるのはそれだった。

 だが、違った。目の前にいる憧れの人、その視線はいつの間にかフェリアの腰に差した一本の真っ白な剣に注がれていたのだから。


「魔剣『白姫』、俺が適合しなかった唯一の魔剣。実はな、このまま使えない俺が持っててもしょうがねぇからずっと前に信頼のおける行商に託したんだよ。もしこれに似合うやつがいたら渡してくれってな。正直に言えば、そこまで期待をしてたわけじゃんかったんだが――」


 そこまで言って、グリシラが『白姫』からフェリアへと視線を移す。

 そして二カッ、と笑うと、


「キミが見つけてくれたんだな。ありがとな」


 心底満足げにそう言った。

 思いがけずかけられたその言葉に、涙が溢れそうになる感覚がフェリアを襲う。


「~~~はいっ」


 だが、耐えた。意地で耐えた。

 憧れの人にカッコ悪いところを見せたくなかったから。


「さて、話は纏まったようだな」


 そこで黙っていたナナが口を開いた。

 「ああ」とグリシラが頷き、「生意気言ってすみませんでした」とフェリアがぺこりと頭を下げる。


「じゃあさっそく貸してくれ」


「指定はあるか?」


「別にどれでもいい気はするが…。そうだな、一応選ぶか」


 「了解」、とグリシラがすぐに腰の布袋から魔剣の封じられた巻物を取り出そうとする。

 だが、


「――――ん?」


 そこでナナが不意に明後日の方向を向いた。

 と思えば、そのまま「はぁ~~…」とため息を吐いた。


「どうしたんですか?」


 キャロンが問いかける。

 返ってきたのは渋い顔をしながらの「不法侵入者三人目だ…」、という答え。

 そして次の瞬間、キャロンとフェリアが出てきた部屋のドアが解き放たれた。


「ナナさん、任務完了しました~。………って、あれ? 人多い?」


 そこには明るいオレンジ髪の二十歳前後の女子の姿があった。

 その女性――ロックは部屋内の雰囲気の違いに一瞬違和感を覚えたが、「ま、いっか」と独りでに納得すると、


「これが回収した魔剣です。そして驚くなかれ。私の体感ですとこれ、まさかまさかの魔力保有度Aランク魔剣ですよ!」


 部屋の中にいる全員に見せびらかす様に、右手に握っている長刀を掲げたのだった。


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