2章ー13話 「三つの質問」
遅れて、本当にすみません。
投稿再開です!
少しの沈黙。
しかし、その沈黙を破ったのは意外にもシャーリーだった。
「じゃあ、あの」
「はい、シャーリーちゃん!」
恐る恐る手を上げるシャーリ―をベヘモットがまるで学校の授業の様に指す。
とてつもなく陽気な声だ。
「私たちはあなたは五百年前の戦いで初代五勇星の方々に敗れたと聞いているのですが、なぜ今あなたは生きているんですか?」
その問いにベヘモットは「うーん」と顎に手を当てる。
「それは単純に人間たちの勘違いかな。まあ、聖剣で貫かれたのは事実だし、正直結構痛かったんだけど、それでも僕の命までは届かなかったってことだね」
あっけらかんと言い放つベヘモット。
この五百年間伝わってきた伝承を笑い飛ばすかのように軽い声だ。
そして、シャーリーの質問への回答はそれで終わったのか今度はアイリスに目を向ける。
「じゃあ、次はアイリスちゃん」
少しの思考。
この質問はとてつもなく重要だとアイリスは本能でなんとなく理解していた。
――どうする、何を聞く。どれくらい伝えられた伝承に誤りがあるかか、それともこいつがここへ来た目的か、それとも……あっ!!
一瞬の閃きがアイリスの頭をよぎる。
この答えを聞くのには怖さもあったが、
「――あんたが最初に名乗ったときに、『魔神配下十柱』と言った。でもあんた同様に伝承ではこの十柱は五百年前に死んでるはずだ。…もしかしてあんたの他にも生き残りがいて、未だに十柱として機能しているのか?」
そう問うた。
ベヘモットは一瞬驚いた様な顔をした後にニヤリと笑う。
「いい質問だ、アイリスちゃん。そして、その答えはイエスだ」
アイリスとシャーリーの顔がこわばるがベヘモットは続ける。
「といっても、五百年前から同じなのは僕を含め三人。あとは新しい子が五人。そして、空席が二つ。実質五百年前とは別物だけどね」
ベヘモットの言葉に絶句するアイリス。
五百年前と別物であることに…ではない。
今も十柱が機能していること、そして目の前の男の他にも二人も五百年前の生き残り――伝説上の魔族がいることにだ。
しかし、さらにベヘモット続ける。
「いい質問をしてくれたお礼に一つ情報をサービスしてあげる。――今の十柱には実は人間もいるよ」
「「……え?」」
アイリスとシャーリーの声が重なる。
ベヘモットの言っていることが一瞬脳が理解せずに固まる。
十柱に人間がいる、つまりそれは魔神に与する人間がいるということだ。
そんな疑問を見透かしたようにベヘモットはニヤニヤと笑う。
「別に不思議なことじゃないさ。ただ、その人間にとって魔族側の方が生きやすかっただけさ。じゃあ次にいこうか」
ベヘモットの視線がアイリスとシャーリーの後ろに向かう。
シャーリーがその行動にふと首を傾げるが、アイリスには何をしているのかが分かった。
そこにはあと一人いるのだ。
――やっぱりばれてる! でも、どうしよう!!。
そしてその一人――シェルは家の陰で二つの思考の間で揺れ動いていた。
一つは主からの命令。そしてもう一つは目の前にぶら下げられたある情報の確証。
どちらも大切なもの。しかし決めねばならない。そして、
「では、アタシからも一つ質問をお願いするっす!」
意を決してシェルは物陰から姿を現した。
シェルはどちらも選ぶことにした。
面もして、いつもの自分の王宮とは違うキャラを装いシャーリーには正体がばれないようにする。
なぜ、そんな人物が隠れていたのかはアイリスが後で上手く言ってくれるだろう、と丸投げをするシェル。
「え? え? だれ?」
面の下では顔が真っ赤になって、アイリスがギョッとした顔でこちらを見るが、頭の中で親愛なる主を思い浮かべ耐える。
案の定、シャーリーは見知らぬ人物の登場にポカンとする。
「ハハッ、元気がいいね。よし、じゃあ君が最後だ。何が聞きたい?」
ベヘモットの問い。それに、
「あなた達がこの先、それも五年以内に魔神を復活させるつもりなのは本当ですか?」
これは王都でも中心に関わる人物しか知らない予想。
そして、その予想を確信に至らしめる根拠がまだなかった。
思いもよらぬ質問に顔を困惑させるアイリスとシャーリー。
しかし、質問されたベヘモットはフッと短く笑い、
「うん、本当だよ」
と短く、そして簡潔に答えてみせた。
「お話時間は終わりましたか?」
次の瞬間、まるでこのタイミングを見計らっていたかのようにアイリスたちとは反対側からミョルニーが屋根に上ってくる。
何故かその手には焼き菓子が握られていた。
「うん、ちょうど終わった所。機密情報を結構しゃべっちゃったけど楽しかったよ。それじゃあ、やることやって帰ろうか」
とんでもないことをさらっと言い放つ主の様子にミョルニーは諦観した様に「あー、そうですね」と呟き、巨大な袋のようなものを取り出す。
「そこに転がってる人間の女はどうします?」
「彼女たちは盗賊の一員じゃないから、契約対象外だよ」
「わかりました」
二人で確認し合いながら袋の表面にミョルニーが文字を書いていく。
確認が終わったのか、ミョルニーがさらに一人で何かを書き始めると、ベヘモットがアイリスたちの方へ向く。
「じゃあ、僕たちはそろそろ帰るよ。あっ、ちなみにミョルニー君は結構きつい性格なんだけど甘いものが大好きという可愛いところがあるんだ。フフッ、あざといよね」
世間話のように部下の秘密を話すベヘモットだが、肝心の三人はさっきまでの衝撃の情報の連続で頭がついていかないでいた。
しかし、それでも時が彼女たちを待つことはない。
「じゃあ、いきます。――吸い尽くしなさい」
ミョルニーが袋の入口をアイリスたちの方へ向ける。
一瞬の出来事だった。いつの間にか盗賊団の男たちの姿が消え、袋に吸い込まれた。
「はい、回収完了です」
「うん、これで終わりだね。ではお暇しようか」
袋を担ぎ、背を向けるミョルニーとベヘモット。
しかし、そこに意外な声がかかった。
「ま、待ちなさい!」
アイリスが制止する暇はなかった。
声の主はシャーリー。震える手を握りしめてベヘモット達の見上げる。
「その人たちをどうするつもりですか!?」
「どうって、彼らとは交渉を予定してたんだ。それが破談になった。だからその補填として彼ら自身を頂いただけだよ」
首だけ振り返りベヘモットが告げる。
心なしかその表情はつまらなそうだ。
「その方たちはサリスタンの法で裁かれなくてはいけません。だから―――」
「――うーん。やっぱり、君はダメだね」
「え…」
先程までとは違う底冷えするようなベヘモットの冷たい声がシャーリーの声を遮る。
その圧力にシャーリーは次の言葉が紡げない。
「そういう言葉は力を持った者だけが言えるんだ。力を持たず、思いだけが立派なものほどたちの悪いものはない。君の自分勝手な正義感で今、唇をかんで僕たちを見送っているアイリスちゃんの思いを無駄にするのかい?」
答えを待たず、そのまま言葉を続ける。
「彼女は君が思っているより強いよ。まだ奥の手も隠してるみたいだし、もしかしたら僕たちに一矢報いれるかもしれない。でも、君という足手まといがいるから黙って立っているだけなんだ」
「やめろ!」
アイリスの声が飛ぶ。しかし、
「――そんなこともわからない今の君じゃ、どう転んでも王にはなれないよ」
そうベヘモットは言い切り、顔を前に戻す。
「じゃあね、アイリスちゃん、仮面の子。またきっと会うことになる」
そして先程までの姿が幻想だったかのように空気に紛れ、アイリスとシェルにだけ別れを告げて、ベヘモットとミョルニーは姿を消した。




