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5章ー41話 「はじめまして!!」


 結局、アイザックの登場によりその場の騒動はそのまま沈静化された。

 「しゃーねぇ、今日のところは勘弁してやる」、とまずは『聖女』がその場を後にし、「寛大なお心に感謝します」、とアイザックがそれを見送った。

 上役たちは何も言わなかった。いや、言えなかったという方が正しいだろう。そのほとんどのものは腰を抜かし、瞳には『聖女』に対する心の底からの怯えの色が浮かんでいたのだから。


「じゃあな。もうここにいる理由もなくなった様だし、俺も帰るぜ」


「ええ、後の事はこちらで上手くやっておきます」


「おいおい、そんなこと言っていいのか? お前は王城の味方だろ」


「もちろんです。この場合の上手くやっていくという言葉の意味は、私の愛する双方がしっかりと納得できる結果を導き出すという意味です。もちろん、愛するグリシラさんにも何一つ不利益は与えないつもりですよ」


「…相変わらずお前は会うたび毎回新鮮に気持ち悪いな」


「いやだなぁ~、そんなことを言わないでくださいよ。愛する方――それも特に交流の深いグリシラさんに気持ち悪いなどと言われては私も傷ついてしまいますよ」


「――この前に魔族の襲撃にあった学院で偶然お前の部下っぽい女の子に会ったけど、『鬱陶しい馬鹿』って陰口叩かれてたぞ」


「ええっ!? 凄くショックなのですが!?」


 そしてそんなアイザックとのやりとりを最後にグリシラもまたその場を後にした。

 

 そのまま大広間を出て、横幅の広い廊下を歩く。

 王城にはもうかれこれ十回以上は来ているかもしれないが、それでもまだこの広さには慣れてはいなかった。未だに油断すれば道に迷ってしまう可能性すらある。


「さっさと帰るか。王都まで来たんだし、デイジーの家にいきなり行ってアイリスを驚かしてやるのもありだな」


 そんなわけで余計なことをせずに最短経路で出口へと向かいながら、愛娘へのサプライズ訪問を計画していたグリシラだったが、


『聞こえるか、『魔剣星』』


「ん?」

 

 廊下で伸びをした際に、不意に声がかけられた。

 肉声とは少し違う何かを通したような声。だが、その声にはよーく聞き覚えがあった。


『十弟子のナナだ、用があるから私の私室までちょっと来い』

 

 すぐに思っていた通りの名前が告げられる。 

 やれやれ、と思わず口元に苦笑が浮かんだ。恐らく王城の通信装置を用いて連絡を取り、王城の監視映像を通して今の自分の姿も見られていることだろう。


「相変わらず王城の私物化が凄まじいな、お前」


『世間話がしたいなら私室でしてやる、さっさと来い。お前の興味を満たすものを用意してある』


「ほぉ」


 その言葉を最後に通話が打ち切られる。

 そしてそれと同時にグリシラの側面の壁に遠隔で何かが描かれた。よく見ればそれは現在地からその私室とやらへの道順図だった。

 「はいはい、さっさと来いってことね」、とその有無を言わさぬ姿勢に再び苦笑を浮かべながらグリシラは予定を変更し、王城の出口とは別方向へと歩みを変えた。


 ***―――――


「よし、これで一~二分もすれば来るだろう」


 通話を終えて、ナナがあっけらかんとそう言う。当然その通話内容は残りの二人にも聞こえていた。

 そしてその傍若無人な言動行動に慣れているキャロンは特に驚きはしていないが、もう一人の方はわかりやすい程に狼狽えていた。


「くっ、来る…!? こっ、こここここここここっ、ここにぃ!? グリシラ様が…!?」


「いや、様って…」


「どっ、どどおどどどどおどおおどおどおおどおどおおど、どうすりゃいい!? なぁ、先輩! 私はどうすりゃいいんだ!?」


「いや、どうって…。そのままでいいんじゃないんですか?」


 むしろキャロンはフェリアの凄まじい動揺の方に驚いていた。驚いていたし、若干引いていた。

 憧れの人に初対面という事実を差し引いても、中々の見ない狼狽えようだ。

 そしてそれは時間経過と共に落ち着くどころか、どんどん悪化していった。


「そのままで良いわけないだろう! そっ、そうだ! けっ、化粧とかした方がいいんじゃないのか!? 失礼のない様に!」


「別に必要ないと思いますが…」


「ああ、もうっ!! こんなことになるのならもっとちゃんとした身なりで来るんだった! どうしよう!? 礼儀も知らないみすぼらしい変な小娘だと思われたらどうしよう!?」


「だーいじょぶだと思いますけどねー…」


 そんなフォローも耳には届かない様で、「あわわわわ…!」と恐ろしくわかりやすく切羽詰まっているフェリア。余裕は全く見受けられない。

 そして、そんなこんなしているうちにその時はやってきてしまった。


 ――コンコン。


「おっ」

「ん」

「!?!?!?!?」


 ノックの音に普通に反応したのが二人、肩が飛び上がるくらいに大げさに反応したのが一人。

 そして、


「来たぞ」


 先程通信越しに聞こえていた男の声が、ドアの向こうから響いた。

 「入っていいぞ」、とノータイムでナナが許可を出す。そしてゆっくりとその扉は開かれた。


 正直ここまでテンパりまくっていたのだから、キャロンとしては少しフェリアの最初のリアクションが気になっていた。

 動揺が限界突破するのか、何も言えずにショートするのか、はたまたその衝撃に気絶するのか。どれもあり得る気がした。


 だからこそ、キャロンはドアが開いた瞬間にフェリアに視線を移した。

 だがフェリアのとった反応は予想していたそのどれとも違った。


 ドアが開いた瞬間に、覚悟を決めた様にギュッと拳を一瞬握りしめ、素早くその前まで駆け出した。

 そして何をするかと思えば、


「んんっ!?」


 その場で思いっきり土下座をして、グリシラを迎え入れたのだった。

 そのドアを開けた瞬間に飛び込んできたまさかの少女の土下座姿に思わずグリシラの口から驚きの声がもれる。そしてそれに被せる様に、


「はっ、初めまして!! じっ、自分はフェリア・ダヌリフと申す者であります!! 木っ端ながら魔剣士をさせて頂いております!! あっ、あの! どうぞよろしくお願いいたします!!」


 フェリアの中々のトーンでの大声自己紹介が炸裂した。


「「「…………」」」


 フェリアを除く三人の沈黙がドアが開いたままのナナの私室を満たす。

 そして、


「まさか興味を満たすものってこれじゃねぇよな…?」


「これじゃないとも言えるし、これだとも言えるな」


 グリシラの唖然とした疑問の声とナナの冷静な答えがその沈黙を破ったのだった。


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