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5章ー40話 「憧れの英雄」


「ふっふふっふふ~ん」


 ご機嫌そうに鼻歌を歌いながら、シャーロック・ローリンデイズは王都の地上・・を歩いていた。

 ご機嫌の理由は至極単純、目的の品を必要最低限の労力で獲得できたからだ。

 その品とは当然、背負ったバックから飛び出る様に収納されている長刀。人斬りの本体と思しき魔剣である。


 あの場から無理やり盗んできたわけではない。

 これは正式なシルヴィと話し合いの末に譲り受けたものだ。


 ――シルヴィさんか、優秀な人だな。


 リーンを聖道院に搬送した後の話し合いは数分で終わった。

 そしてその様子を思い返し、心の中でその相手にロックは賛辞を送った。


 ――全てを白日の下に晒せば、この魔剣は王国に回収され恐らく有無を言わさずに封印される可能性が高い。臭い物に蓋が好きだからね、うちの王国は。それを理解しているからこそ、ナナさんの使いであり十弟子の私に迷いなく託すという選択をした。そっちの方が後々に有益な結果が出るのはわかりきってはいるけれど、中々個人の判断でそれも短時間でそれをできる人は少ない。人の上に立てる人間だね、憶えとこ。


「――そしてその期待にはしっかりと応えないとね」


 信頼して託してもらったのだ。ロックとしても勿論それを裏切るつもりはない。

 譲り受けたこの先は自分の仕事だ。


「といっても私はあくまで仲介役ですけどね」


 そう苦笑して呟くと、歩を止めて真っ直ぐ前にある王城を見つめる。

 そして少し悪そうな表情を浮かべて、


「さぁて、久しぶりの不法侵入をかますとしましょうか…………ってあれ? 結界が破られた痕跡がもうすでにあるんだけど…」


 ***―――――


「話は分かった」


 唐突に尋ねてきたキャロンとフェリア。

 その二人にナナが先程まで現在進行形で行われていた王国滅亡の危機について簡単に説明し、それがつい少し前までここにいた博愛主義者の手によって何とか瀬戸際で食い止められたのを見届け、そして今ようやくキャロンのナナに対するここに尋ねてきた経緯の解説が終わったところだった。


 そこでお茶を口に含み、「ふぅ~」とナナが息を吐く。


「興味深い話だ。少なくともさっきまで行われていたくだらない喧嘩に比べれば何倍も私の知的好奇心を刺激する内容だな」


 白衣を引っ張り首筋をかきながらそう言うナナの表情には微かな笑みが浮かんでいる。


「…いや、促がされるままに流れで全部説明しましたけど、こっちからしたらその喧嘩の話題が衝撃的過ぎて未だに驚きが消えないんですけれど」


「魔法関係以外にそこまで興味が向くようでは…、お前はまだまだ精進が足りないな」


「それは興味とかとはまた別種の感情だと思うのですが…」


 はぁ~、と残念そうにため息を吐くナナに頬をかきながらキャロンが苦笑する。

 探究者として魔法魔力に浸っている深度はまだまだナナの方が上らしい。


「さて、話を戻そう。魔力保有度Aランクの魔剣の人工生成についてだ。――で、その前に」


「……………………………」


 話をキャロン&フェリアの依頼の件に戻そうとするナナだったが、そこで会話に全く入ってこないその片割れの方へと視線を向ける。

 少し前――具体的に言えば、ナナが王国滅亡の危機について説明していたその途中からフェリアは完全に上の空だった。何故なら危機が起こっているその真っ只中には、彼女の憧れの英雄・・が思いがけず同席していたのだから。


 『魔剣星』グリシラ・リーヴァイン。

 その姿をモニター越しとは言えど、リアルで彼女は初めて見た。実際には学院襲撃の時に居合わせたの知っていたが、結局話すことはおろか見ることも叶わなかった。

 それがこんなところで思いがけずの巡り合わせ。

 それにより、フェリアはそこからモニターに釘づけとなってしまい現在に至るという訳だ。


 だが、概要説明まではキャロンだけでもよかったがここから先はフェリアに参加してもらわない訳にはいかない。

 なので、


「――フェリアくん、もうモニターにはだーれも映ってないぞ」


「――っ。あっとと、すみません! ちょっと余韻に浸ってました」


「余韻? ………まぁ、いい。それよりこれからの話には参加してくれ」


「はいっ、それはもちろん」


 ナナの言葉にようやくフェリアが我に帰る。

 ふぅ~、とその様子にナナが小さく息を吐いた。ため息ではない。何故ならフェリアの気持ちは何となく理解できたからだ。


「…キミの気持ちはわからんでもない。魔剣士の数は今も少ない、だからこそ多くの魔剣士はその中で――いや全ての剣士の中でも燦然と輝くあの一番星に憧れる。王国の歴史上唯一の『魔剣星』にな。その中でもキミの思いは格別だろう」


「――まぁ、そうですね」


 ナナの言うようにフェリアのグリシラに対する憧れの感情は生半可なものではない。彼に憧れる他の魔剣士たちとも一線を画していると言ってもいいだろう。

 何故ならフェリアは彼と同じ魔力絶無体質であり、恐らくグリシラとアイリス以外で唯一『グリシラ・リーヴァイン天然魔剣シリーズ』の魔力保有度Aランク魔剣を有しているのだから。

 その思いは憧れを通り越してもはや崇拝に近いのかもしれない。

 

「――ふむっ。じゃあ、せっかくだし呼ぶか」


「………はい?」


 だからこそ、唐突に発せられたナナの言葉の意味が最初は全く分からなかった。

 

「…呼ぶ? …誰をですか?」


「『魔剣星』に決まってるだろう。どうせまだ王城にいるだろうし、私は面識も魔剣鑑定をしてやってる貸しもある。あれはあれで私とは別種の意味での魔剣の専門家だしな。居ても損はないだろう」


「いやいや…、いやいやいやいやいや……。そんな簡単に――」


 カタカタカタカタッ、と困惑するフェリアを前にナナが高速でキーボードを叩く。

 そしてすぐに目の前のモニターに王城のどこかの通路で背伸びをしながら歩くグリシラの姿が映し出された。


「~~~~っっ!?」


 驚き過ぎて声というよりは音の様なものがフェリアの口から発せられる。

 そんな彼女に一切気をとられることなく、


「聞こえるか、『魔剣星』」


『ん?』


「十弟子のナナだ、用があるから私の私室までちょっと来い」


 そうモニターの先で怪訝な顔を浮かべるグリシラに向かい、ぞんざいにそう言ってのけたのだった。


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