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5章ー37話 「戦いの結末」


「うひゃぁ~、派手にやってるね。金属音に破壊音、魔力音と戦いの音のオンパレードだ」


「ええ、ここまで近づけば私の未熟な魔力感知でもわかります」


「およっ、アイリスちゃん魔力感知できんのかいっ!? 優秀だなぁ」


「どっ、どうもです…。でもまだ全然修行中――ってそれどころじゃないでしょう! 一秒でも早く援護に行かないと!」


「まぁまぁ、そう焦りなさんなって。気持ちが急いても、移動速度は上がんないんだから」


 そんな二者二様の性格をよく表した会話と共に、ロックとアイリスは地下街を音の発信地へと向かい駆けていた。

 目が見えないのが信じられない程の機敏な動きで段差や障害物を避けながら前をロックが走り、アイリスがその後をピタッと付いてゆく。両者ともに魔力で強化した肉体で狭い地下街を可能な限り全力で飛ばしていた。


 この移動速度ならば、目的地に着くまでに要する数分とかからない。

 そして近づくにつれて、より正確にロックの耳とアイリスの魔力感知が戦況を認識し始める。


「魔力反応が…三つ。一つはシルヴィさん、闇の強い一つは人斬り、でももう一つは……」


「音からするに剣士、それもおそらくは騎士側の助っ人だね。――何者かな?」


 そして戦いに若先生が参戦したことを感じ取ったときには、すでに二人と戦場の距離はほとんどなくなっていた。

 自然とアイリスの走る速度が更に上昇する。

 そして少しして、


「あそこの角を左に曲がれば目と鼻の先だ」


 ロックが静かにそう告げる。

 アイリスも当然解っているので、「はい」と小さく頷き、腰の木剣に手を触れさせた。

 しかし、


「! ストップ――!」


 そこで唐突にロックが急ブレーキをかけて、左手を横に突き出しアイリスを制止した。

 「えっ!?」、と一瞬その行動の意味を計りかねたアイリスだったが直ぐに魔力感知を通して気付いた。人斬りがその場を後にしたのを。

 そして、


「向かってくる?」


「そのようだね。アイリスちゃん、私の後ろにいなよ」


 そうロックが言った瞬間だった。

 バッ、と視界の先にある道を曲がり、こちらへと駆けてくる人影が現れた。


「うわっ!?」


 その容貌に思わずアイリスが驚きの声を上げる。

 「どうした?」、とロックが首をひねるが、


「りょ、両腕がなくて左手から凄い血を吹き出しながら剣咥えて走って来てるんですけど!?」


「おーっ、そりゃまた随分とスプラッタなやつだね。いやぁ~、こういう時に目が見えないのは惜しい」


 その答えを聞くと、愉快そうにそう笑って見せた。


『~~!!』


 そしてそんな二人に人斬りの方も気づいたのだろう。

 キッ、と眼で睨みを利かせて威嚇する様に魔力を放出する。凄まじく濃い魔の気配、それにアイリスが思わず息を飲むが、


「さてと、もう満身創痍なところ悪いが完全に大人しくなってもらうとしようかな」


 ロックは一切表情を変えずに、迎撃の体勢をとった。

 指を二本立てた右手を眼前に構える。そしてそれをそのまま自身の唇につけて、


「ちゅ♪」


 投げキッスのような要領で指を前へと振るう。

 その指先からハート形の魔力の塊が漂うように眼前へと放出される。それは前へ前へと進むうちに肥大化し、


「ぼぉん♪」


『!?』


 ロックの掛け声と共に破裂した。

 振動が空間に響き、そしてそれが人斬りの動きを止める。そして、それと同時にロックは前へと駆け出して無防備となった人斬りの懐へと入り込んでいた。

 グッ、といつの間にかロックの右拳は強く握られており、加えて右腕はこれでもかと言うくらい振りかぶられている。


「あれは…強化でも付加でもない?」


 思わずその光景を見ていたアイリスの口から呟きが漏れる。

 その視線はグッと握られた右拳――その周囲に向いていた。そこには言葉通り魔力強化とも付加魔法とも似つかない、半透明な魔力の塊がすっぽりと被さっていたのだ。

 そしてその拳が、


「――加減はしてあげよう」


 容赦なく人斬りの腹部へと突き刺さった。


『~~~~~! かっ……はっ…!!』


 最初は何とか耐えようとした人斬りだったが、すぐに耐えられなくなり口に咥えた長刀が地面に落ちる。


『ぐっ、がっ、がはっ、ぐあああああああっ~~!?』


 そして次の瞬間、まるで身体の中から衝撃が弾ける様に炸裂し、人斬りの肢体は壁にぶつかり地面にぶつかり最終的には突き当りの壁にめり込む様にして激突した。


「ふぅ~~」

 

 そしてロックは一仕事終えたかのように腕を回しながら息を吐くと、アイリスに向き直り、


「10ビートナックル。拳に『振動』の固有属性を乗せて殴って、十回の内部振動で相手をぶっ飛ばす私の得意技なのであ~る」


 そう得意げに言ってのけたのだった。

 そのあまりのナチュラルさに「おっ、お~」と感心した様な声と共に場に似合わない拍手をしてしまうアイリス。

 

 ――あれ? でも魔力を振動に変えるって前にどこかで…、


 が、そこでそのロックの解説にふと脳が引っ掛かりを覚える。

 どこかで見聞きしたかもしれない。既視感にも似たそんな感覚。魔力、振動、それは――どこかで…。


「あっ」

 

 だが確かに形作られる前に、それは新しく現れた情報によって塗りつぶされてしまった。


「シルヴィさん!!」


 曲がり角から剣を構えて新たに現れた、少し前に別れたばかりの騎士の姿に思わずアイリスが声を上げる。

 シルヴィの方もその声でアイリスに気付いたのか、「アイリス…か?」とその確認の声にはもう警戒の色はほとんど消えかかっていた。


 二人の再会。

 だがどちらかが次の言葉を紡ぐ前に「悪いねぇ~、最後にいいとこ取りさせて貰っちゃいました♪」とロックの声が割り込む。いつの間にかその手には長刀が握られている。

 そしてロックはシルヴィを一瞥し、


「『近衛騎士団』さんでいいのかな?」


「――ああ。そちらは…『中央魔導局』か?」


「あははっ、ハズレ。たまにデイさんの依頼で動くときもあるけど、今回の依頼主は王国唯一の王城専属

魔法使いさ」


「…またそれは、ややこしそうな話じゃな。目的は…その人斬りではなくその刀じゃな?」


「聡いね、理解が早くて嬉しいよ」


 そして唐突に始まった騎士と魔法使いの含んだ会話。

 そこに口を挟むべきではないのはアイリスも重々承知だった。しかし、


「あの…!」


 どうしても聞きたいうことがあり、思わずそう口にしていた。

 その言葉にシルヴィとロックが「「ん?」」と同時に同じ反応を示す。


「さっきまでシルヴィさんと一緒にいた人がずっと動かないのですが…大丈夫なのでしょうか?」


 その言葉にシルヴィが「――はっ」、と表情を変える。

 そして、


「すまぬ、ややこしい話は後じゃ! 大元の問題が片付いたのは間違いない、まずはあの男を治療せねばならん!」


「「???」」


 その言葉に今度はアイリスとロックが同時に同じ反応を示すことになった。


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