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5章ー閑話 「変化する状況、交差する物語」


「――騒がしいな、何をやっているんだ、まったく…」


 窓のない部屋。

 入ってくる光はディスプレイを通した物のみであるその部屋の主人は、ここ数十分の目まぐるしい変化に心底めんどくさそうにそう呟いた。

 そしてそんな彼女の眼前にいたのは――、


 ***―――――

 

 三十分程前のこと。


「ナナさ~ん、ナナさんナナさ~ん!」


 普段外からも内からもはめったに開かない部屋のドアがそんな陽気な声と共に開かれる。

 「はぁ~」、部屋の主は小さなため息と共にそこの声に応える様にディスプレイから視線を切り、キーボードから手を放した。


「一緒にお昼を食べて愛を育むと致しましょう♪」


 そう言って笑う男の手には二人分の弁当が乗っていた。


「ん」

 

 一文字で了承を示し、ほとんどこの男専用と言ってもいいスペアの椅子を差し出す。

 断る、という考えは部屋の主の脳には浮かばなかった。

 何故か? その理由は簡単だ。彼女はこの数年間でこの男の誘いを断ることは無意味かつ悪手であると学習していたからだ。


 その後、二人で並んで弁当を食べた。

 食事中、男はほとんど途切れることなく部屋の主へと話しかけ続けた。それに対して彼女の方は時折相槌を返す程度。

 それが彼らのいつもの食事風景だった。


 しかしそんな中で今日は一点だけいつもと異なる部分がある。

 それは彼らの目の前のディスプレイに映された映像。それは部屋の主が無断で王城の至る所に設置している独自改良した通信魔道具から送信されたリアルタイム映像であった。

 そしてその映像の内容と言うのが、


「それにしてもあの二人、特に『聖女』様が王国の決断を受け入れるかどうか。心配ですね」


「受け入れる訳ないだろ。そもそも…今回の場合フラットな目線から見てもあの二人に何らかの罰を与えること自体おかしな話だ。正味な話、あの二人があそこに偶然居合わせなかったら今頃魔神の復活も十分あり得た」


「まぁそれはごもっとも。しかし困ったなぁ…、そうなると揉めるのは必至。ああ、愛する方々の争う様を見ながら昼食を食べるなんて私にはとてもとても…」


「なら仲裁して来いよ」


「ふふっ、それは余計なおせっかいと言うものです。真に愛する者の事を思うのであれば、すぐに手を差し伸べず聖母の様に見守ることもまた大事なのです」


「…お前は聖でも母でもないけどな」


 王城大広間からのライブ映像を見ながらの雑談と昼食。

 しかし、そのままそれが無事に終わることはなかった。


『そこの無能王とお前たち含む王国の無能上役全員を皆殺しにして、今日から『聖道院』が王国を統治するから』


 画面越しのそんな『聖女』の言葉。

 それに思わず「おいおい…」と部屋の主が箸を止める。


「マジであの人ならやりかねないぞ」


「………ううむっ」


 流石に男の方も表情に焦りが浮かぶ。

 そして、


『はい、じゅ~~う』


「これはいけない! いってきます!!」


 『聖女』のカウントダウンが始まったと同時に椅子から立ちあがり、男は部屋を飛び出した。

 

「…いってら~」


 彼女はそんな男の背中に声をかけて見送ると、弁当から手を放し椅子の背もたれに寄りかかる。

 そして天井を見上げながら、


「…もしかしてあいつが間に合わなかったら、この王国が今日で終わるのか?」


 そう呟いた時だった。


 ――ガラガラガララララッ!!


「うわっ!? なにっ!?」


 彼女の背後。

 魔道具の保管庫と実験場を兼ね備えたこの部屋から繋がる彼女の有するもう一つの部屋の中から何かが崩れ落ちる様なそんな音が響いた。


 ***―――――


「うおおおおおっ!?」

「あれまぁ~!?」


 まるで身体が浮かび上がるような感覚。

 次に来たのは重力による自然落下の感覚。

 大した高さではない、精々一メートル少々。しかし、不意の出来事だったためフェリアはほぼ反射的に地面に対して転がる様に受け身をとってしまった。そしてそれが失敗だった。

 何故なら今の彼女の周りには――、


「…いてっ!?」


 転がった先にあった何かで頭を打つ。

 そして次の瞬間その顔に影が差した。その影はすぐに大きくなり、そこでフェリアは気付く。


「………マジ?」


 頭を打った何かを皮切りに、その上に重ねて置いてあったいくつもの物体が崩れ落ちてきていることに。当然自分に向かってだ。


 ――ガラガラガララララッ!!


「うぎゃあ!?」


 そして避けるなど当然間に合うはずもなく、フェリアはそのまま山のように積まれた魔道具・・・の下敷きになってしまったのだった。


「あらら~」


 そんなフェリアの様子に、彼女とは違いシンプルに足から地面に着地したキャロンが苦笑を浮かべる。

 そして崩れて新たな山を形成した魔道具の下へと、


「お~い、生きてますか? フェリアちゃん」


 そう声をかける。


 ――ガガッ!


 その答えは声ではなく、その中から突き出された手で示された。

 そしてすぐに、


「ぐはっ…!! なんだここ!? 物置か!?」


 その中から這い出る様にフェリアの顔が姿を現した。


「もぉ、心配しましたよ。いきなりそんなところに頭から突っ込むんですもん」


「いやワープ先がこんなところなら先に言っとけよ…」


「…まー、その意見も一理あるっちゃありますね。反省します」


「ったく、適当な人だな…。で、なんなんだこれ? ガラクタ?」


 手近にあった謎の手のひらサイズの機械?の様なものを手に取ってフェリアが呟く。

 そんな彼女の様子に「わかってないですね~」と首を振って、キャロンはその手からそれを取り上げた。


「これ一個でも凡百の魔法使いでは微塵も理解できない叡智が詰め込まれているんですよ。つまり私たちが会いに来たのはそういうお方なんです」


「――騒がしいな、何をやっているんだ、まったく…」


 そこで間に割って入る声が一つ。

 自然と二人の視線はそこへと向いた。扉が開き、そこには一人の女性が仏頂面で立っていた。


「お前かキャロン…。それとこっちは――ん? 確かキミは学院の攻防戦で『十柱』を単独撃破した――」


 そんな彼女はまずはキャロンを一瞥し呆れた様な表情を浮かべたが、その後に今度はフェリアに視線を移したことでその表情は不思議がる様なものへと移り変わった。


「何の用だ? キャロン」


 そしてその疑問の答えを求める様にそう単刀直入に妹弟子へと問いを投げかけた。

 ニヤリ、とキャロンが口角を上げる。


「今回はナナさんの知的好奇心を満たす素晴らしい依頼を持ってきたんですよ」


 そう言うと、未だ身体の胸より下が魔道具の山に埋まっているフェリアの頭をポンポンと叩き、「この子がその依頼主というわけです」と説明した。


「ああ、そう言えばまだフェリアちゃんにはこの人の事を王城お抱えの魔法使いぐらいとしか説明してませんでしたね。一応聞いてみますが、誰だがわかります?」


「いやまったく」


「ですよね~」


 ノータイムの返答に苦笑いをしながら、そこで場を整える様に「ゴホン」と咳払いを一つする。

 そして、


「このお方こそ魔道に置いては文句のつけようもなく王国一の天才。そして同時に私の姉弟子でもある『魔法星』五番弟子、ナナ・ミミタータさんです!」


 ハキハキとしたキャロンの語り。

 しかしそれを聞かされたフェリアと当人はというと、


「ああ、まぁそういうわけだ」


「えーっと、まぁどうもです」


 とメチャクチャテンションが低かった。

 片や肩書きや立場に興味が無い人間と片や魔法そのものに興味が無い人間なのだからそのリアクションも仕方がないと言えば仕方がないかもしれない。


「まぁ、とりあえず話は聞いておこう。………あ、でも今もう王国が滅んでる可能性があるのか」


「「………はいっ!?」」


「ああ、ついでだそれについても教えてやる。キミらも無関係ではないからな」


 こうして三人は邂逅した。

 

 ――そして、段々と段々と真っ直ぐに進んでいた独立した物語たちが交差し始める。


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