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5章ー閑話 「与えられる試練」


「なっ、なんの真似だ貴様! 謀反でも起こす気か!?」


 国王の突然の気絶。

 椅子から崩れ落ちた彼の身を案じる様に上役たちがその側に寄っていく中、宰相だけは一人だけその場から動かずプルプルと握った拳を震わせながら『聖女』を睨み付けながらそう怒気を荒げた。


「はい? どういう意味かわかりかねますね。私はただ潔く罰を受け入れようとした、そうしたら突然国王が倒れられた、それだけの事でしょう?」


 それに対して『聖女』はにこやかな笑みを浮かべながらそう首を傾げて答えた。

 心底馬鹿にするような惚けたその態度にカッと宰相の頭と顔に血が上る。


「いい加減にしろ!」


「おやおや、どうやら宰相殿は混乱していらっしゃるご様子ですね。ですが私に根拠のない怒りをぶつけるよりも先に国王の御無事を確認することが先決では?」


「調子に乗るな!!」


 そう大声で吐き捨てると、宰相は頭に血が上った状態のまま「衛兵!」と未だに状況が掴めずにいる王国兵たちを呼び付けた。

 そして、


「その女を拘束しろ!!」


 そう指示を飛ばす。

 王国兵の間にざわつきが広がる。彼らからすれば宰相の命令は絶対なもの。しかし、その命令のもとに拘束する対象が『聖女』であってはそう簡単に動くことはできない。

 彼らもまた一般の国民と同じように『聖女』の本性になど気づきもしていないのだから。


「何をしている!? 手に持ったその槍は飾りか!!」


 判断がすぐにはできずにいた兵士たちへと宰相の追撃の命令が飛ぶ。

 そこでようやく段々とだが手に持った槍を兵士たちが『聖女』へと向け始めた。そして一人一人とその数が増えていき、やがてすべての槍の先端が『聖女』へと向けられた。


「――ほぉ」


 それを見て『聖女』が小さく笑みを浮かぶ。

 その一歩後ろにいるグリシラだけが気づいていた。それは物事が自分の思い通りに動いている時に彼女が浮かべる笑みであることを。

 

 ――何をするつもりかは知らねぇが…。とりあえずあのおっさんはご愁傷様だな。あー、面倒事に巻き込まれたくねぇ…。


 だが、グリシラは何もするつもりはない。

 この部屋に来る前に『聖女』に口を挟むなと言われたからでもあるし、そもそもここにはわざわざ彼がフォローする理由がある者がいないからでもある。


「なるほど、なるほど」


 周囲を見渡し、『聖女』が頷く。

 そして彼女はそこで不意に――パチン、と指を鳴らした。


 それにより半透明の結界による仕切りが生まれる。

 それはこの場にいる王国兵とそれ以外の人間を明確に区切っていた。そしてその行動に驚く王国兵に『聖女』は表の顔のとても穏やかな笑みと共に、


「皆さん、ごめんなさい。やはり一度宰相様を初めてとした上役の皆さまとしっかりとお話しさせて頂きます。私に少しだけ誤解を解く時間をお与えください」


 そう告げた。

 その言葉で何人かの王国兵の顔に安心した様な笑みが浮かぶ。それに「ありがとう」と頷くと、


 ――パチン。


 もう一度『聖女』が指を鳴らす。

 それにより仕切りとなっている結界の色が黒く染まり、同時に音声の全てが遮断された。


「――さってと」


 そして『聖女』は素に戻り、憎々しげに見下ろす宰相へと真っ直ぐに目を向けた。


「で、何の話してたっけ? あっ、そうだそうだ。無能の代名詞殿が急にぶっ倒れた話だったな。てか、そういやお前も『五勇星会議』でぶっ倒れてたよな。なに? 最近の王城ではぶっ倒れるのが流行ってるのか? 俺には全く理解できんね、楽しいのか?」


「貴様っ…!?」


 先程とは打って変わっての心底馬鹿にしたような『聖女』の煽り文句に宰相が歯を噛みしめて言葉にならない様な怒りを露わにする。


「まぁ、どうでもいいかそんなこと。んで、本題なんだけどよ。一体全体、お前らはどの立場で俺を裁くなんて言ってんだ?」


「なにっ!?」


 その言葉は宰相だけに投げかけられたものではない。

 周囲にいる上役全員に対して投げかけられたものだった。


「俺は言ってたよな、ずーっと前から。このままじゃ魔神が復活して二度目の人魔間の大規模な戦争が起こるって。それは聞き流し続けたのは誰だ? 杞憂だと馬鹿にしてヘラヘラ笑ってたのは誰だ? お前らとお前らの身内だろう」


「それは…」


 上役の一人が何か反論を言おうとするが、その声はすぐにしぼんでしまった。

 だが、それに構わず『聖女』は続ける。


「で、いざ魔族が攻め込んで来たら責任はそれに完璧に対処できなかった俺らに負わせて、私たちは王と共にその罪を裁きます。いや~、凄いなお前ら。『聖女』様もビックリの特権階級っぷりだ」


「「「~~~~~……………」」」


 上役たちは何も言葉を紡げない。

 その自分たちを糾弾する『聖女』の言葉が間違ってはいないことを理解しているのだろう。

 そんな彼らの様子を見てニヤリと彼女は笑う。


「さて、じゃあなんでお前らはそんなに無能なのか? 俺はそれを考えた。そして気づいたんだ、――お前たちは決死の状況に追い込まれたことが無いんだなって」


「…なんだと?」


 『聖女』が言い出した不吉な言葉に宰相が眉をひそめてそう問い返す。


「逆に考えてもみろ。なんで今の王国上層部はこんなに無能なのに建国から二百年程は有能ぞろいだったのか? それはな、判断を間違えれば王国が滅ぶかもしれないという状況に常に身を置いていたからだ。隣国との戦争、魔族の残党の襲撃、内乱の兆しと理由は様々だがな」


 『聖女』が語る。

 そして上役たちは不思議とその言葉を黙って聞いていた。どこかそこには口を挟んではいけない様なそんな気配を感じていたからだ。


「だが、その時代を経てこの王国は盤石なものとなった。戦力は満ち、政治は安定し、危険は激減した。上層部が無能でも十分に何の滞りも無く回る国になっちまった。だから何もせずにただただ権力を持っただけの地位にあぐらをかいた無能が蔓延るようになっちまった訳だ」


 「やれやれ」と手を振って、『聖女』がため息を吐く。

 ここで終わればただの王国批判。可愛いものだ。

 だが、


「だからよ」


 『聖女』の目的はここからだ本番だった。


「――俺がお前らに試練を与えてやるよ。文字通り答えを間違えれば死の決死の状況だ」


 楽しそうに宰相含む上層部の全員を見つめる『聖女』。

 そして彼女は、


「今からこの結界を解く。そして十秒以内に俺に向いた兵の刃を全て収めさせて、『聖女様、私達はとんでもない無能でした。貴女様の力が必要です、何卒これからも王国のためにお力をお貸しください』って言って王国兵たちの前で俺に土下座しろ」


「なっ…!?」


「で、もしそれができずに十秒経ったらよ」


 驚き言葉を失う上役たち。 

 そんな彼らに笑いをかみ殺すようにしながら、


「そこの無能王とお前たち含む王国の無能上役全員を皆殺しにして、今日から『聖道院』が王国を統治するから」


 まるで軽く伝言を伝えるかのようにそう言った。


「…………は?」


 宰相の空虚な声。

 それは脳の理解が完全に今の状況から置いていかれたことを表していた。


 ――パチン。


 『聖女』の指が音を鳴らす。

 そして結界が解除され、


「はい、じゅ~~う」


 『聖女』による決死のカウントダウンが始まった。


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