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2章ー11話 「急転する事態」


 辺りを見回し、立っている者がいないことを確認する。

 そして、ふと気がかりなことにアイリスは気付く。

 

 ここら一帯は水浸しになっているが、やけに片付いており盗賊団のボスの家であろう建物からは食べ物のにおいが香ってくるのだ。

 まるで誰かを迎え入れるかのような状態。

 ここでアイリスは監禁されていた女性の言葉を思い出す。

 

 今日は来客があるらしい、そう彼女は言っていた。おそらく盗賊団より立場が上な誰か。

 そして、この様子からその来客はまだ来ていない。


 アイリスの頭になぜか、嫌な予感が過ぎる。

 しかし、そんな予感を打ち消すように、


「アイリスさーん!」


 と、シャーリーが離れの小屋から駆け寄ってきた。

 後ろには監禁された女性たちが付いて来ている。彼女たちは盗賊団の男たちが一人残らず倒れ伏しているその様子を見て目を白黒させている。


「全員倒したんですか?」


「うん、終わったよ」


 周りを見渡しながらのシャーリーの問いにさらっと答えるアイリス。

 

 思考を切り替え、次の行動を決める。知りえない来客について考えても仕方ない。 

 まずはシャーリーと監禁されていた女性たちを連れてこの森を抜けるのが先決だろう。

 ここからならばアイリスが来たシャンゼンよりシャーリーが来たアクリエルの方が近い、と頭の中で瞬時に結論をだし、それを行動に移そうとしたその時、


 

 ―――パチ、パチ、パチ、と拍手の音がアイリスの耳に飛び込んできた。



「いやー、凄いねぇ。しかも、一人で全員片づけちゃうとはね」


 透き通るような、しかし恐ろしく響くそんな声が遅れて届く。

 その音源に顔を向け、アイリスの呼吸が止まる。

 

 盗賊団のボスの家の屋根。その上に二つの人影があった。

 

 一人は屋根の上に腰かけながら、にこやかな顔で手をたたく白銀の長髪をした男。

 一人はその男の隣に立ち、厳しい顔でこちらを見下ろす桃色の髪を首辺りまで伸ばした女。

 そして、その二人を瞳に捉えて、


 ―――ッ!? やばい…やばい、やばい、やばい!!!!


 アイリスの直感が大音量で警告を鳴らす。

 視線の先にいる二人、特に男の方から凄まじい暗い気配を感じる。

 チラリと横を見るが、シャーリーはその気配に気づいていないようで純粋にいきなり人が現れたことに驚いてるような顔をしていた。

 しかし、逡巡の暇はなかった。


「シャーリー、直ぐに逃げて!!」


 状況がつかめないシャーリーに一瞬の忠告。

 そして、アイリスはすぐに足に力と魔力を籠め、屋根の上へ跳躍する。


「『サフリウス』!!」


 出し惜しみは無し。今度は七属性を付加した刃を何のためらいもなく使用する。

 屋根に上る一歩。そして二人組へ接近する一歩。

 刹那の間に、二人を木剣の間合いへ入れると同時に刃を振り降ろす。

 狙いは男の方。全力の、それも何の躊躇も無い一撃だった。


「うそでしょ…」 

 

 そして、その一撃は男の眼前で無情にも止まる。

 原因は横の女。女は横から伸ばした素足でアイリスの木剣を受け止めていた。

 木剣がピクリとも前へ動かない。

 そして、


「ん? この感じ、『七色の素養』持ってんのか。――まぁ、そう逸るなよガキ、殺しちまうぞ」


 冷たい声でそう言い放つと、アイリスの剣にかかる圧力が増していく。そのまま女は足を振り切る。

 アイリスが木剣を持ったまま弾き飛ばされ、地面に激突した。


「アイリスさん!」


 シャーリーの悲鳴にも似た呼び声がかかる。

 なんとか受け身は取ったが、アイリスの体には少なからずダメージが入っていた。

 

 再び二人組を見上げる形となり、アイリスの頭は状況を打破すべき方法を考えるためフル回転する。

 しかし、そんな様子を黙って見ていた男の方が動く。


「おいおい、そんなに警戒しないでくれよ。僕たちは別に君たちに危害を加えるつもりはないよ、少し話をしないかい」


 腰をあげて、こちらを見据えて無害そうな顔で男が話しかけてくる。

 唖然とするアイリス。しかし、本能がこの男は危険だとアイリスに訴えかけていた。

 横にいるシャーリーも訝しげな眼で男を見る。


「ちょっと…何しに来たかわかってるんですか?」


「勿論わかってるとも、ミョルニー君。でもこの状況じゃ本来の目的は果たせないだろ。ならばまずは話し合いが重要だ」


 女の方が呆れたような声を上げるが、男の方は飄々とした様子だ。

 女がハァーっと息を吐き、男が苦笑する。

 そんな様子を見て、


「あんた達、一体誰なんだ?」


 アイリスが疑問を直接ぶつける。

 誰だかわからない相手にいきなり斬りかかったアイリスだが、この二人から漂う恐ろしく嫌な――まるで体が拒むような気配がどうしてもぬぐえない。


「ん、僕たちかい。そうだね、確かにいきなり名も名乗らずに話すのもどうかと思うよね。これは失敬、失敬」


 おどけた様に余裕たっぷりにそう言ってのける男。

 アイリスは、この質問を少しでも時間稼ぎができれば程度にのものと思っていた。

 しかし、男はそんな思惑など一瞬で消し飛ばすように、


「彼女は僕の相棒のミョルニー君。そして、僕は『魔神配下十柱』の一柱、ベヘモット。――まぁ、もしかしたら君たちは、僕たちの名前を知ってるかもしれないけどね」


 ニコッと笑って、五百年前の大戦で初代五勇星に倒されたはずの魔族の名前を名乗った。

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