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5章ー21話 「陽気な九番目」


「大丈夫かなぁ~。シルヴィさん…」


 シルヴィと別れ、その指示通りにアイリスは一人来た道を引き返していた。

 

 こっそりと後をつけようかなと思わなかったと言えば嘘になるが、何となくそれをするのはシルヴィに対する侮辱の様なそんな気がしたのだ。

 そしてそれ以上にアイリスには『心配いらない』という思いも強くあった。ラグアとの戦いを間近で見たからこそ実感したシルヴィの強さ。それを色々な強者と戦ってきたであろうラグアは『聖剣星クラス』と称した。そんなシルヴィが何人も被害が出ているとはいえ、人斬りなぞに負けるはずはないという信頼だ。


 それ故にアイリスは彼女の言うように後の事は全て任せて、一人地上へと戻る道を選んだのだ。

 まぁ、それでもやはり心配は心配なのでそう独り言は口から漏れ出てしまうのだ。


「あぁ~、こんなことなら聖道術とは言わずとも回復魔法の勉強はしとけばよかったなぁ。それができたらあの場で怪我を治してあげることもできたよね…」


 更に心配に加えて、そんな後悔もあった。

 回復魔法は他の魔法に比べて段違いに習得難度が高い。そもそも聖道術があるサリスタン王国に置いて回復魔法は他の王国に比べればそこまでメジャーではないのだ。それ故にアイリスもまた興味はあったが直ぐに学ぼうとはしなかった。


「それか、ミリアンさんとかシオン姉さんに聖道術を教えてもらう? …いやぁ、流石にそんな簡単にできるもんじゃないよね」


 そんな後悔を次に生かすために、そう自身に何らかの回復手段を得る方法をブツブツと呟きながら歩く。

 

 そして、そこまで時間がかからないうちにアイリスは匍匐前進で進んできた通路の入口まで到着した。

 あとは降りてきたときとは逆にこの中へジャンプして飛び込んで、そのまま匍匐前進で進めば地上のあの隠された入り口へと着くわけだ。


「――――」


 その事実をしっかりと認識し、アイリスが一度だけ来た道の方を振り返る。

 数秒の無言の時間。それを終え、ギュッと目を瞑るとその後ろ髪を引かれる思いを振り切る様に前を――頭上にある狭い通路へと目を向けた。


 そしてそこへと跳躍しようとしたその時、


「ふっふふっふふ~ん♪ ふふふふっふふ~ん♪」


「…!?」


 この地下街には似合わない様などこか陽気な鼻歌が唐突に聞こえてきた。

 若い女性の声。そして最初は小さかったそれはアイリスに近づいてくるかのように段々と明瞭な音へと変わっていく。


 跳躍するのをいったん取り止めて、アイリスが念のため腰の木剣へと手を伸ばす。

 そんな最中にもその鼻歌と共に女性は近づいて来ていた。

 薄暗い地下街。そんな中でアイリスの瞳がようやくその女性の全貌を捉えた。


 薄暗い世界の中でひときわ目立つオレンジ色の髪。

 年齢はアイリスよりも少し上くらいだろう。どこかキリッとした鋭さを感じる様な美しい容姿をしている女性。

 しかしその容姿よりも、もしかしたら装備品の方が目立っているかもしれない。彼女は頭には大きめのゴーグルを掲げ、背中には自身の身体と同じくらいの大きさのバッグを背負っていた。


 そしてそこでようやく女性もアイリスの存在を認識したように「――おっ」と鼻歌を取り止めて足もそこで止めた。

 敵意は全くない。それを感じ取りアイリスも木剣から手を放す。


「ありゃ、珍しいね。こんなところに剣士さんかな、…おやそれも女の人だね」


「…?」


 先に口を開いたのはその女性の方。 

 しかし、その物言いにアイリスは少しの違和感を覚えた。薄暗いと言っても暗闇ではない。そのため今の距離ならば互いの姿は明瞭に見えているはず。それなのに女性の言葉はどこか手探りで、それでいて一拍遅れている。


「………えっと、いきなりすみません。あの、もしや目が見えないんですか?」

 

 その浮かんだ疑念。それをストレートにぶつける。

 すると女性は「おっ」とどこか嬉しそうに笑った。


「よく気づいたね、結構初見じゃわからない人もいるんだけど。あっ、それと声でわかったけどキミ若いねぇ~、多分私よりもちょい下ぐらいかな。それにしてもキミの様なお嬢ちゃんがこんなところで何をしているんだい?」


「えっ、あっ…あの――」


「あっ、ごめんごめん! 一気に話し過ぎちゃったね、これ悪い癖なんね。生まれたときから目が見えないもんだから、口と耳はやけに発達しちゃってさ~♪」


「いえ、あの…こちらこそいきなりツッコんだことを聞いてしまって申し訳ないです」


「いやいや、そんなん気にすることないって! さてはいい子ちゃんか、いい子ちゃんだなぁ!」


「おお~…、凄い元気な方ですね」


 まるで親しい隣人に話しかける様なグイグイの女性のテンションに呆気にとられつつも、何とか会話についていくアイリス。

 そんなアイリスにそこで不意に女性はグッと片手を差し出してきた。


「まずは色々聞く前に自己紹介が先だよね。シャーロック・ローリンデイズよ。愛称はロックね」


「あーっと、アイリス・リーヴァインです。愛称は…特にないですね」


 同じくアイリスも名乗りながら、その手を握った。

 ………のだが、


「――!? おいおいおい、ええっ~マジで…!? こんな偶然ある?」


「……はい?」


 そこで女性――ロックが驚愕と困惑を合わせた様な笑顔を浮かべた。

 そして、


「ごめん。自己紹介をやり直す、と言うか一個付け加えるわ」


「え?」


「シャーロック・ローリンデイズ――『魔法星』九番弟子である♪」


「はいぃ!?」


「いつか会いたいと思っていたけど、変なところで会うもんだね。にっしっし、師匠とデイさんとシルさんとキャロンからキミの事は聞いているよ~」

 

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