5章ー18話 「謝罪×謝罪×謝罪」
シルヴィとラグアの戦いは突然の乱入者たちの登場により打ち切りとなった。
そしてその後、若先生と呼ばれた青年に事情の説明を強く求められたため、観念したラグアがこれまでの成り行き全てを正直に話した。
その結果、
「この度は本当に――本当に申し訳ありませんでした!!」
アイリス、シルヴィの両名に何のためらいもなく若先生は地面に額を下ろし真摯な謝罪の言葉と共に土下座をしたのだった。
「ええっ、ちょっとそんなっ!?」
「――ほぉ、キチンと話の分かるやつもおるではないか。すぐ暴力に訴えるどこかの老人にも見習ってほしいものじゃな」
「感心してる場合ですか! あのっ、とりあえず頭を――」
そんなコンクリートの地面にほとんど頭をぶつけるかのように土下座を見て、アイリスが心底困ったような表情と共に若先生の肩に触れようとするが、
「先生がそんなことする必要ないって!」
とそこで彼と一緒に来た――恐らくアイリスから髪留めを盗んだ少女がそれよりも先に焦ってその肩を揺する。
しかし、そんな少女へと若先生は真剣に厳しい視線を返した。
「アーミちゃん、そんなことよりもまずするべきことがあるでしょう」
「う…」
その指摘に今度はアーミと呼ばれた少女の顔が別の焦りの色を浮かべた。
「僕と約束しましたよね、これからは今までの様に一般の方から物を盗んだりしないと。その代わりに僕が責任を持ってキミ達の最低限の衣食住の負担し、その上で毎日あの教室で今後地上で生きていけるための教育を受けさせると」
「…うん。………した」
「それをアーミちゃんは破ったんです。――それをしっかりと理解していますか?」
「ご…ごめんなさい……」
そして真剣な声音でそう続ける若先生の言葉にアーミの表情は見る見る曇り、服をギュッと両手で握りしめてその眼は潤み始めていた。
そこに
「あっ、あのぉ…その辺りで勘弁してあげても…」
本人に非があるとはいえど、流石に小さい子のそんな様子を見ていられなくなったアイリスがそう小さな声で助け舟を出す。
それを受けて若先生が「はぁ~…」と小さくため息を吐くと、アーミの目をまっすぐに見つめる。
そして、
「反省しているかい?」
「はい…」
「もうしないかい?」
「はい…」
「じゃあ、まずはこのお姉さんにすることがあるよね」
「うんうん」と小さく頷きながら何かを促がした。
それを受け、ゆっくりとアーミが自身のポケットに片手を入れてアイリスに近づいていく。
「あの……、これ…盗んじゃってごめんなさい」
頭を下げながらの謝罪の言葉と共にポケットから差し出されたその手にはあの髪留めが握られていた。
声は震えていた。恐らく怯えているのだろう。
その感情を何となく察して、アイリスはそれを受け取ると、
「――よし、許してあげる!」
とわざと大きめの声でそう告げた。
そして同じくらい大きな声で後ろへと振り返り、
「いいですよね、シルヴィさん! きっちり元のまんま戻ってきましたし、本人も反省していますしね! これにて一件落着ということで!」
シルヴィにそう言いながら、この後に彼女を罰したりしないことを暗に伝えた。
それを受け、
「まぁ、一件落着ではないのじゃが…被害者がいいと言うておるのじゃからな。今回は大目に見てやるか。しかと感謝を忘れるなよ、娘」
とシルヴィも苦笑しながらそう答えた。
そん返答に満足げに頷きながら、
「はい、というわけでこれでこの話は終わりです♪」
そう未だに頭を下げ続ける二人に明るい声で伝えた。
「心から感謝します」、短いながらも心からの思いの籠った言葉で若先生が感謝を伝える。
しかしそこで、
「いやぁ~、器のでかい嬢ちゃんだ。よかったなクソガキ」
愉快そうに笑いながらのラグアの声に再び若先生の顔が厳しさを帯びた。
「――ラグア殿。何を他人事の様に言っているのですか? 貴方も彼女たちに誠心誠意謝罪する必要があるでしょう」
そして線の細い青年から出たとは思えない圧のある声でそう告げた。相手が子供ではない分、先程よりも厳しさが五割増し程になっている。
それに意外にもラグアは言い返すでもなく「うっ…」とバツの悪そうな表情を浮かべた。
「話を聞く限りではアーミちゃんを思っての行動ですが、本当に彼女のことを思っているのであればしっかりと叱ることの方が何倍も大事です。それなのに正当な理由で来たこの方々を追い返すどころか、暴力で制圧しようとするなど言語道断です。アーミちゃん同様にしっかりと反省してください、深く深くですよ!」
「わかった、わーかったよ…! 悪かったな嬢ちゃん方」
その圧に押されてラグアがアイリスとシルヴィにぺこりと頭を下げる。何となくその一連の会話の流れがこの三者の力関係を表している様だった。
そして謝るべき二人が一応謝罪を終えたところで若先生は、
「私からも改めて謝罪をさせて頂きます。この度は皆の行動で貴女方に大変なご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
ともう一度深く頭を下げた。
そして、
「それでよろしければ、謝罪と少しばかりの休憩の意味も込めてお茶でもご馳走させてください」
頬をかきながらそんなことを彼は口にしたのだった。
今年も残すところあと一か月を切りましたね。「今年中に五章終わるかな~」「終わるといいな~」「無理だろうな~…」とか考えながらも更新頑張っていこうと思います!
それと私事ですが総合評価が1500ポイントを越えました!嬉しいです、ありがとうございます!
何卒これからも本作をよろしくお願いいたします!!