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2章ー10話 「アイリス劇場」


 それは一瞬の出来事だった。

 

 盗賊団の一員であるブリスは、せっせと荷物を運んでいた。

 今日はボスから来客があると聞かされており、団員全員が住処に集まっている。しかし、昨日からいつものように森林に入った一般人を襲い行った仲間の三人組が戻ってはいなかった。

 これは後でボスに半殺しにされるな、と心の中で同情する。


 そんなときだった。

 ふと、荷物を抱えながら空を見上げる。


 空一面が水に覆われていた。いや、正確には住処の頭上、その範囲にだけ巨大な水の塊のようなものが出現している。


「な、なんだありゃ!?」


 ブリスの上げた声を皮切りに他の団員達も空を見上げ、驚愕する。

 それは中央の少し開けた広場で木製の椅子に座るボスも同様だった。違いがあったとすれば、その男は一瞬でその水の正体を見抜いた。


「魔法だ! 攻撃されてるぞ、すぐにここから――」


 その言葉は最後まで続かなかった。

 水の塊から小さく分裂した水球が降ってくる。

 逃げる暇はなかった。そして、その水球の一つが激突しブリスの意識はそこで途絶えた。


*****―――


 ――出来るだけ速攻で方を付ける。


 自分の放った攻撃魔法が盗賊団の住処に着弾したのを確認し、アイリスは足のばねを最大限に利用し木剣を構えながら加速した。

 女性たちが監禁されていた小屋から住処までは大して離れていない。そのまま素早く距離を詰めていく。


 先程の攻撃では、おそらく全員倒せてはいないだろう。殺してしまわないように加減したため、建物の中にいた場合や何かを盾にされた場合は意識を奪えないはずだ。

  

 アイリスは躊躇いなく、住処に突っ込んだ。多数の盗賊が水で濡れた地面に倒れ伏している。

 しかし、アイリスの予想は的中。

 運よく、建物の中にいた盗賊の一人が顔を出した。


「なんだ、おまっ――」


 眼があった瞬間に、驚き声を上げそうになる男だったが、アイリスは男の腹を素早く木剣で打ち付けて意識を刈り取る。

 

「ムムッ、結構残ってるかな」


 男が倒れたのを確認すると周囲を見渡すアイリス。

 流石…というべきだろうか、意識を失っておらず立ち上がる盗賊たちがアイリスの予想より多かった。

 それらの盗賊たちの位置を一瞬で確認すると、木剣を握り直し一番近くの男のもとへ移動。アイリスの存在を認識する前に一振りで意識を奪う。


 圧巻だった。 

 倒したらすぐに次、さらに次と、身軽に素早く移動。アイリスの流れるような剣は止まらない。

 そして一分もかからないうちに確認した意識ある盗賊の全てを制圧した。

 

 フーッと息を吐くアイリス。しかしまだ、気がかりが一つ。

 女性から聞いた特徴の男――盗賊団のボスの姿をまだ捉えていない。

 辺りを確認して、移動する。中入ってみると外から見るよりも更に広く感じられた。


 曲がり角を曲がろうとしたとき、それはアイリスの目に映った。

 赤い髪に長身、腰には剣を指している男。女性の情報と一致した。盗賊団のボスだ。

 その眼は赤く血走り、表情は怒り一色に染まっている。そして、誰かを探すように辺りを睨んでいた。

 

 確実にあの男の標的は自分だろうと、アイリスは確信する。

 しかし、男はアイリスに気づいてはいない。そして、一瞬で詰められる距離だ。

 

 先手必勝。アイリスは男に向かって飛び出した。

 狙いは首筋。一撃で意識を奪うつもりの一撃だった。しかし、男はいきなり出てきたアイリスに驚くが、素早く腰にしている剣を抜き、アイリスの木剣が体に当たる前にその剣をぶつける。


 バンッと木剣と鋼の剣がぶつかる。


「やばっ!」 


 予想外の男の剣の手ごたえにアイリスが力を受け流し、再び距離をとる。

 男の剣には魔力が込められていた。あのままならば気絶を狙い、魔力を付加していなかったアイリスの木剣は折れていただろう。


「純剣…いや、聖剣かな?」


「ガキだと!?」


 男の剣の魔力に首を傾げるアイリス。

 対する男もアイリスの容姿を見て驚きの声を上げる。しかしその驚きも一瞬で怒りが凌駕したようで、憤怒の形相になる。


「さっきの水の魔術もてめぇの仲間か!?」


「いや、あれもあたしだよ」


「はぁ!? いきなり魔法ぶち込んだ上に剣を片手に殴りこんできやがって、てめぇの目的はなんだ!?」


 激高し、叫ぶように問いを吐く男。

 

「いや目的って、あなた達の盗賊団を壊滅させることだけど」


「だから、それは何か理由があるだろうが! なんだ、英雄気取りか、それとも俺たちに懸賞金でもかかってその金目当てか!?」


 アイリスは、さらりと答える。だが、男は納得しないようにさらに問い詰める。

 その男の言動にアイリスは鬱陶しそうにすると、


「いやだから、ただ単にあなた達を潰すことが目的だって。――そもそも、盗賊なんかやって民間人に手を出してる時点であなた達がやられるのに理由なんていらないでしょ」


 あっけらかんと言ってのけたその言葉に、男が肩を震わせる。

 そして、怒りが限界を突破したのか男の顔に笑みが浮かぶ。


「あー、そうかよくわかった。つまりてめぇ存分に痛ぶって殺してほしいってことだな!!」


 男が手に持った聖剣をアイリスに向けて振り降ろす。

 アイリスも今度は、


「盗賊が聖剣使うってのも変な話だよね。――『サフリウス』」


 付加呪文で剣に魔力を付加させる。今回は七属性ではなく水属性だけ。

 剣が透き通るような水色の魔力で包まれた。

 二人の剣が交差した。が、そしてそれは一瞬。

 

「バカな!?」

 

 次の瞬間、男の聖剣が脆く砕け散る。

 そして、唖然とした男の首筋に魔力を解いたアイリスの木剣が打ち付けられ、呆気なく男の意識は沈んだ。


「うっし、制圧完了。…ハァー、歯ごたえなさすぎ」


 戦闘態勢を解き、腰に木剣をしまいながら一人つぶやく。

 アイリスの魔法が住処を急襲し、今に至るまで五分間の決着劇だった。

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