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5章ー閑話 「気まぐれによる滅び」


「『魔剣星』グリシラ・リーヴァイン及び『聖女』、入室します」


 素とはだいぶ違う柔らかくそして丁寧な口調でそう伝えると、中から「入れ」と老年の男の声が届く。

 その声を聞き届けてから、『聖女』とグリシラが王城の大広間――つまり今回二人が呼び出された場所へと、大きな扉を開けて足を踏み入れた。


 中に入ってまず目に飛び込んでくるのは、左右に配置された甲冑に身を包んだ兵たち。

 彼らは皆、王城の守護のみを職務とした兵士であるが、その数は街一つに配置されている王国兵の数とさして変わりはない。

 

 その兵士たちの先には数段の階段。そしてその上には平均年齢がかなり高い豪奢な衣類や装飾品を身に着けた数人の老年に差し掛かった男性たち。

 彼らは王国の中枢を担う古くから続く由緒正しき貴族の家出身の上役たちだ。その中には少し前の『五勇星会議』の進行を務めた宰相の姿もあった。

 

 そんな彼らの中央――そこにあるのは王のみが座ることを許されている玉座が一つ。そして、そこにその男は座していた。

 サリスタン王国の近代の国王であり、ウィリアスやシャーリーの父親――ラリー・サリスタン。

 言うまでもなくこの王国における最高権力者である。


 そんな彼は二人を見下ろす様に一瞥すると、「よくぞ参った」と小さな笑みを浮かべた。

 そこでその言葉の後を引き継ぐように、


「――さて、ここに呼び出された理由はわかっているな」


 宰相が厳格な声音で二人にそう確認を投げかける。

 それに対し、


「――――」


 入室前に出された指示通りにグリシラは口を閉じ、『聖女』だけが「ええ、重々承知しております」と頷いた。

 『五勇星会議』のときとはまるで違うその態度に「?」と宰相の顔が少し不信感の様なものを帯びるが、すぐに王の御前であるから流石に『聖女』も弁えているのだろうと納得する。そしてそれにより宰相の顔に自信が漲り始めた。


「よかろう、では単刀直入に伝える。お前たち二人は王国の最高戦力、そして王国の守護者である『五勇星』の地位にある。しかしながら魔族の襲撃のその現場に居合わせたにも関わらず多数の犠牲者を出した。これは許されざる怠慢にして失態だ!」


「「――――」」


「一応聞いてやろう、このことについて何か申し開きはあるか?」


「――――」


 再び無言のグリシラ。

 そして二人分の意思を伝えるかのように、「一切ございません。全ては私たちの力不足、いかなる罰も受ける所存です」と『聖女』が頷く。

 その言葉に王国兵や重役たちの間にも微かなざわつきが広がる。そんな中、


「よかろう!」


 どこか勝ち誇ったような声で宰相が声を上げた。

 そして、


「お前たち二人には――」


 そう『五勇星』二人に罰を言い渡そうとした時だった。

 「ただし」、そこで宰相の言葉を遮る様に『聖女』が再び口を開いた。そして続けざまに「僭越ながら、罰の宣告は国王様より言い与えられたく思います」と国王をまっすぐに見て、そう発言した。


「なにぃ?」


 その願いに宰相が眉をひそめる。

 だが、「うむっ」とそんな彼の横で国王は納得を示す様に頷いた。


「間違いを犯したとはいえ、相手は王国が任命した誇り高き『五勇星』。ならばその裁定は余が与えるのが筋というもの。『聖女』、そなたの願い聞き届けよう」


「ありがとうござい…くくっ、…ます」


「どうした?」


「いえ、感激してしまいまして」


「ははっ、大げさであるぞ」


 鷹揚に笑う国王からは頭を軽く伏せる『聖女』の顔は見て取れない。

 だからこそ彼はそのまま、


「では改めて伝える。お前たち二人には罰として――」


 ***―――――


「おーっす。来てやったぞ、婆さん!」


 イーリアの大きな声と共に『聖道院』内で一番大きな神殿の扉が開かれ東西南北を司る四人が入室する。

 神殿の内部にはすでに室内には四人の人物が集まっていた。


 内部の造りはシンプルだった。

 扉を開けた先には真ん中に一本通路があり、その左右には席がずっと前まで並んでいる。その先には一つの大きめの段差があり、その上に椅子と机が一つだけ置かれている。

 そしてそこには修道服姿の気品にあふれた一人の老婆が座っていた。


 彼女こそが、四人を呼び出した張本人にしてこの『聖道院』における第二権力者――『筆頭神官』ローラ・ストーリーだ。

 そんな彼女は四人を見ると「ああ、よく来た」と片手を上げて応えた。


 しかし、逆に四人の方は中の状況に大なり小なり困惑顔を浮かべていた。

 ローラがここにいることに…ではない。ローラは呼び出した当人、ここにいるのは至って自然だ。予想外だったのは、その他に三人もの修道女がここにいた事である。


「やっほ~。遅かったね、姉さん方」

「ご無沙汰しております」

「お久しぶりです、皆さん!」


 その三人からも四人に挨拶が飛ぶ。


「スタラにファルセ、それにミリアンですか」


「なるほどね、それ絡みなわけ」


 そんな三人の共通点をいち早く見抜き、ウェルビーとサウネリアが呟く。

 対してイーリアは「あ? どういう三人だ?」とポカン顔だ。そんな彼女に、


「この前にあった学校の襲撃関係の三人だよ~。スタラとファルセは当時常駐してて、お嬢はその学校に通っていたからね」


 ノーラがそう補足説明をした。

 そこでようやく「ああ、なるほど」とイーリアもまた理解したらしい。


「さてと、全員揃ったし始めるか。あんたらもさっさと適当なとこに腰を下ろしな。


 そして出席者全員が今回呼び出された理由を何となく察したところで、ローラが「コホン」と咳払いを一つして説明を始めた。


「知っての通り、うちの馬鹿が現在進行形で王城に呼び出されている。理由は先日の学院襲撃事件の責任追及のためだ。――でだ、昨日の夜に私はその馬鹿から手紙を一通預かってる」


 そう言いながら一枚に紙をローラは全員に見える様に掲げた。

 「お、遺書か?」「そんな殊勝な人なわけがないでしょう…」「だよなぁ~」、意外にも隣同士で席についていたウェルビーとイーリアがそれを見てそんな会話をする。

 他の者も同様な反応だ。それは一重に『聖女』という人物を少なからず知っているが故の確信。ウェルビーの言葉通り彼女はそんな殊勝なことをする人間では断じてないのだ。


「ちなみに私もまだ読んでいない。このメンバーを集めて読めって指示があったからね。だがしかし、私はもう歳だから長文をでかい声で読むのは億劫おっくうだ」


「あ、なら代読しましょうか?」


 そこでサウネリアが手を上げるが、「いや」とローラは首を横に振った。

 そして、


「それは無駄飯食らいにやってもらうさね。というわけで」


「はい、ご指名入りました~」


 そこで指をパチンと鳴らした音と共にローラの横に一人の女性が現れた。

 陰結界で隠れていたのだろう。その女性の登場に「おお~…」と微妙な盛り上がりが神殿内に溢れる。具体的には大きめのリアクションをしたのはスタラとミリアンだけだ。

 

「こらこら皆さん、みんな大好きシオンさんの突然のサプライズ登場なんだからもう少し盛り上げる優しさは必要だと思いますよ」


 そのいまいちな反応に当人――シオンは苦笑を浮かべたのだが、


「いや、お前今もそこそこの頻度で『聖道院』に来てるだろうが。新鮮味も意外性も全くねぇよ」


「貴女が当時学院にいたことも伝わってますしね。むしろこの三人がいるのに何で貴女がいないのかと思ってました」


「さっさと読みなさい」


 イーリアとウェルビーからのド正論と簡潔な言葉と共にローラから差し出された手紙に「はぁ~い」と少し凹んだような声で素直にシオンが代読に移る。

 が、


「………えぇ?」


 読むより前に目に映った最初の文章を見ただけでつい数秒前に浮かべた苦笑よりもだいぶ困ったような苦笑をシオンは浮かべていた。

 それを見ただけでそこにいた大半がその手紙の内容がろくでもないことを察して「はぁ~」と小さくため息を吐く。

 そして、


「え~、では読みます」


 シオンは今度こそ手紙の代読を始めた。


「『最初に言っておく。もしかしたら今日サリスタン王国は五百余年の歴史をもって滅びるかもしれない、――俺の手によって』」


 ***―――――


「では改めて伝える。お前たち二人には罰として――」


 そこで国王の声が止まったのは誰かがその声を遮ったからでもない。誰かが乱入してきたからでもない。

 ただ自発的に国王が言葉を止めたのだ。

 それを不審に思い、宰相が国王の方へと顔を向ける。そしてそこで彼は目を見開いた。


「っ……!? はぁ…、はっ……!」


 国王は顔色を青ざめさせて、苦悶の表情を浮かべていたのだ。

 まるで息を吸いたくても吸えない様なそんな表情だ。そして数秒の苦痛の末に、国王は白目をむいて椅子から前へと崩れ落ちた。


「「「「!?!?!?」」」」


 その突然国王を襲った悲劇に大広間中を動揺が支配する。

 上役たちは国王へと駆け寄り、兵たちは何をすればいいのかわからず動けずにいる。

 そんな中、


「――おやおや、これは大変。国王様が私たちに裁定を下す前に気を失ってしまいましたね」


 どこか楽しそうに『聖女』はこの場に不釣り合いな良く通る落ち着いた声でそう口にした。


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