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2章ー9話  「急襲の雨」


 シャーリーの前でかっこつけたアイリスだったが、このまますぐさま攻撃…というわけにはいかなかった。

 理由は目の前で気を失っている男が先程発した言葉。


『団員は大体100人だ。――あとは女が何人かいる』


 この女というのは女の盗賊という意味ではないだろう。おそらくはこの広い森林で襲われ、連れ去られている人たち。

 彼女たちの安全をまず確保しなくてはいけない。

 おそらくは建物のどこかにいるのだろがその場所を見つけるのには苦労しそうだ、とアイリスが頭を悩ませていると。


 ヒラヒラと小さな丸めた紙が頭上からアイリスの前に落ちてきた。

 メモ用紙ほどの大きさ、広げてみるとそのには『女――正面の小屋』と綺麗な字で簡潔に書いてあった。

 木の上からアイリスにだけわかるような合図。おそらくシェルからだろう。


 なんでその場所が分かったのかは不明だが、シェルがシャーリーを危険に合わせることはするはずがないためアイリスはこの情報を信じ、ひとまずシャーリーを伴い森林からでて目の前の小屋まで進む。


「…なるほど」


 森林を出てみれば、シェルからの情報に確信を持てる根拠が得られた。

 その小屋も住処の一部で辺りには他にも根城が展開しているものだと思っていたが、その小屋は孤立していた。正確には、小屋から少し離れたところに密集したテントや同じような小屋が見える。

 あちらが盗賊たちの住処だろう。

 同じく森林からでたシャーリーもその光景を目にする。


「結構大規模ですね。小さな村みたい」


「だね」


 なにはともあれ、優先されるべきはとらわれているかの女性たち。

 アイリスとシャーリーはこっそりと小屋の前まで移動する。


「うわ、大きな鍵ですね。どうするんですか」


 シャーリーの言うように、ドアは金属製の鍵でがっちりと封がされていた。

 これだけでも女性たちがよく扱われていないことがわかる。


「離れてて、『ブラスト』」


 何のためらいもなく、アイリスは掌に火を生み出し鍵をあぶる。鍵は瞬く間にドロドロになりドアが開かれる。

 空いたドアから中を覗き込むアイリス。


 そこには10人に程の女性がいた。全員が若い女だった。

 全員着ている衣服は汚れており、所々破れていた。よく見ると肌にも切り傷やあざがあり、その痛々しい様子にシャーリーが顔を青くし、アイリスが眉をひそめる。


「…あなた達は新入り?」


 ドアの一番手前にいた長い黒髪の女が、アイリスとシャーリーの姿を眼にして突然の事態に顔を目を白黒させながら口を開く。

 疑問調になったのは、二人のそばに盗賊の男がいないからだろう。


「いえ、あなた達を助けに来ました。…私たちは王国が編成した盗賊討伐のために部隊の斥候です。いくつか質問してもいいですか?」


 悩んで、そう言ってのけるアイリス。

 この嘘は彼女たちを安心させるためでもあるが、何より少女二人だけがいきなり助けに来たと言っても信用してもらえないと思ったからだ。

 それにこの方が質問がしやすい。


 アイリスの言葉を聞いて女性たちの顔に希望が湧き、嬉し涙をこぼし始める者もいた。

 黒髪の女性も例外ではなく嬉しそうにホッとしたような顔をすると「何でも聞いて」と身を乗り出した。


「では2つ聞かせてください。まず、掴まっている女性はここにいる方だけですか?」


「そうよ、これで全員。今日は来客があるとかで、ずっとここに入れられたままよ」


「ということは、あの住処に今いるのは全員盗賊ですか?」


「わたしの知るかぎりでは」


 女性の返答にアイリスは安心したように息を吐く。


「あとは盗賊団のボスの容姿を教えてください」


 女性はその顔を思い出して眉を顰めるが、アイリスに言い聞かせるように語る。


「赤い髪を首まで伸ばしている背の高い男よ。あと腰に長めの剣をいつも差しているわ」


 女性の心底憎ましげな声。その声には涙がにじんでいた。

 それを聞き届けたアイリスはポンと女性の方に手を置き、


「わかりました、ありがとうございます。後は任せてください」


 そう言って、踵を返し小屋の外に出る。

 何も言わず黙っていたシャーリーもその後に続く。


「許せませんね」


「うん、許せないね」


 二人の顔には隠しきれない怒りの色があった。そして少し先に広がる盗賊たちの住処を睥睨する。

 それに呼応するようにアイリスの体から魔力が溢れ出す。


「上級はまだ発動に時間がかかるし、手加減も難しいけど…死なないくらいの加減が出来れば十分でしょ」


 近くにいるシャーリーにはアイリスの両手に魔力が集中しているのが分かった。そして次も瞬間、


「『シャルクリスフォール』」


 アイリスの詠唱と共に、盗賊団の住処の上空に巨大な水の塊が出現する。

 アイリスが右手の木剣を構え、足に力を入れる。


「シャーリーはここにいてね」


「はい!」


 ここで力になれないのは悔しいが、自分には戦闘面で協力できることがないのは十分に承知していたため、シャーリーはその言葉に頷くしかなかった。

 そして、それと同時に小屋の中から黒髪の女性がその様子を見て、出てきた。


「凄い…、えっ、でもあなた達は斥候なんじゃ?」


 驚きと困惑の入り交じった声。

 その声にアイリスは申し訳なさそうに頭をかきながら、


「えーっとすみません、1個嘘つきました。実は部隊の斥候じゃなくて個人の実働です。でも安心してください、あなた達を助けるっていうのは本当ですから」


 そう言うと女性に向かってニコッと笑った。そして、


「――落ちろ、雨の弾丸」


 そう言いながらアイリスが刀を振り降ろすと一斉に巨大な水の塊が分裂し、重力を伴って盗賊たちのアジトに落下する。

 シャーリーと黒髪の女性が唖然とするが、水が落下するとともにアイリスは足のばねを存分に生かし、


「そこで待っててください。五分ほどで片付けます」


 そんな声を残して、木剣を片手に前方へ飛び出した。 

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