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5章ー閑話 「カードの使い道」

 

 王都西部にある一軒家。

 その家の廊下にて妙齢の夫婦二人が一つのドアの前にてゴソゴソと密談を繰り広げていた。


「しかし初めての経験よね、あの子が学校のお友達を家に連れてくるなんて」


「そうだな、珍しいこともあるもんだ。…まぁ娘が学校の友達を家に連れてくることが珍しいことがそもそも珍しいんだが」


「いいのよっ、細かいことは。あの子本当に同年代のお友達なんてロックちゃんくらいしかいなかったんだから。私は大歓迎よ」


「そんなこと言い出したら俺だって大歓迎だっての」


「やっぱり末永くうちの娘と仲良くしてやってくださいって挨拶するべきよね。パイとか焼いてご馳走してあげたいわ」


「まぁ、その気持ちはわかるが二人で話したいって言われただろ」


 二人は王都の中流貴族――モスクーダ家の当主とその夫人。

 そして彼らが聞き耳を立てながら小声で話していたそのドアの中には、モスクーダ家の長女とそんな彼女を訪ねてきた学院の後輩の姿があった。


「いやっ、なんつーか…ご両親は全然あんたと似てないな」


 微かに外から聞こえる夫婦二人の話し声とその雰囲気に意外そうにしながら、テーブルの椅子に腰かけている訪ねてきた後輩――フェリアがそう口にする。

 そしてそんな言葉に「ですよね~」と陽気に笑いながらモスクーダ家の長女――キャロンは彼女の前に淹れたての紅茶の入ったカップを置くと、その対面の席へと腰を下ろした。


「よく言われますよ。というか我が家は私以外けっこうみんな普通なんですよね。私だけが変わり者で有名です」


「奇遇だな。こっちも似た様なもんだ」


 そう言ってフェリアが紅茶に口をつける。

 そして扉の方をチラリと見ながら、


「…そういや、あんたんのとこはご家族は無事だったんだな」


「? …ああ、参観祭ですか。ええ、来る予定だったのが二日目でしてね。運良く被害は免れました」


「そりゃなによりだ。うちは一日目に来る予定だったんだが運悪く…いやこの場合は運良くかな、妹の一人が風邪ひいて熱を出して来れなかったんだ。そのおかげでこっちも被害ゼロだ」


「それはまた強運ですね。――でも、そっか妹さんがいるんですね~」


 そこでキャロンが考える様に宙へと視線を漂わせる。その表情には微かな好奇心が浮かんでいた。


「失礼ですが、妹さんたちにはちゃんと魔力が?」


 そして、その好奇心を抑えきれずにそうキャロンは疑問を口にした。

 その率直な問いにファリアは苦笑すると、


「ああ、普通の子達だよ」


「ご両親は? それと近しい血縁者も同様ですか?」


「同じだ。だいたいみんな、平均レベルくらいじゃねぇかな」


「そうですかぁ…」


 フェリアの答えに再びキャロンが考え込むように頬に手を当てる。


「随分ご執心だな、そんなに『魔力絶無体質』に興味があるのか?」


「もちろんです。と言っても、何もそれだけに限ったことじゃありません。私は未だ解明されていない多くの謎が残るもの、未知のもの未踏のものに凄く興味があるんですよ。いいですよ~、謎と言うものは。わくわくが止まりません」


 とても楽しそうに語るキャロンに「そうか」とフェリアがニヤリと笑みを浮かべた。

 そして、


「なら、今回はお互いに利がある話になりそうだ」


 そう言いながらポケットからあるものを取り出してテーブルの上に置く。

 「――ほぉ」、それを見てキャロンが興味深そうに声をもらした。


「『キャロン・モスクーダに何でもお願いできるカード』ですか」


 テーブルの上に置かれたカードの名前を読み上げる。

 そう、これは少し前に身体を研究のために一日調べさせてもらう話の対価としてキャロンが差し出した見返り。その肝心の研究は『参観祭』の後に予定していたためまだ行われてはいないが、あのときキャロンは報酬として前払いで支払っていたためそれ自体はいつでも使用可能となっていたのだ。


「なるほどなるほど。休日にわざわざ私を訪ねてくるなんて何事かと思いましたが…、そういうことですか。う~ん、困ったなぁ♪ こんなに可愛い私に何でもお願いできるってことは…、はっ、私は何をお願いされてしまうのでしょう♪」


「………」


「冗談ですよ~。で、どんな愉快なお願いをお持ち頂けたんですか?」


「こんな愉快なお願いさ」


 そう言うと、持ってきたバックからフェリアが何かを掴んで取り出す。

 そしてテーブルのカードの上にそれを置いた。


「――――!」


 置かれたそれを見たキャロンの表情が驚きに染まる。今度は感心の吐息をもらす余裕はない。それほどの衝撃だった。

 その表情を嬉しそうに見つめながら「流石だな。気付いたか?」とフェリアが問いかける。

 新たにテーブルの上に置かれたのは一振りのそこそこの刃渡りを持つ小刀。しかし、その小刀が纏う特異な魔力を見逃すキャロンではなかった。


「これは――また凄いのを持ってきましたね。いったいどこで?」


「あの時の戦いで、私が『十柱』に勝ったのは知ってるだろ」


「ええ。………って、ええっ!? それはつまりまさかこれって――!」


「ああ、その『十柱』の魔力が封じてあるはずだ。俺に勝った褒美とか言って、最後にくれたんだよ」


 そのフェリアの説明に「はっ、ははっ…」と信じられない様にキャロンは笑った。そして同時に彼女が何をお願いしたいかの想像もつき始めていた。


「『魔剣星』グリシラ・リーヴァインの台頭と同時に人工魔剣の開発が活発になった。しかし、人工魔剣は天然魔剣には遠く及んでいないのが現状だ。その理由は技術が未成熟なのも勿論あるが、それ以上に素材が不足しているのが大きい」


「…が、ここにあるのは多くの天然魔剣を凌ぐ素材。『十柱』クラスの魔族の魔力が封じられた武具」


「――ああ。つまり私があんたにお願いしたいのは、史上初の魔力保有度Aランクオーバーの人工魔剣の開発だ。極上の素材は用意した、あとはあんたに任せるよ。大丈夫だろ、なにせこれはあんたが大好きな未知未踏の領域だ」


 ニッと笑うフェリアに、同じくキャロンが少し遅れてニッと笑う。

 そして、


「いいですね~、史上初素晴らしい響きです。――いいでしょう、承りました。私がこれを最強の人工魔剣にして差し上げましょう♪」


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