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2章ー8話  「化かし合い」


「……本気で言ってるの?」


 アイリスの言葉を聞いた女が目を丸くして問いかける。

 しかし、アイリスは冷静だ。


「うん、正直襲われるまでは普通にこの森林通過しようと思ってたんだけど…あの手慣れた感じだと毎日何人かの犠牲者が出てるだろうし、それにあいつらはシャーリーから聞いた話によるとこの森林の中に拠点があるらしいしね」


 アイリスは夕飯の時にシャーリーからその情報を教えてもらっていた。

 アイリスの顔を見て、もう決心していることを悟ると女はハァーっとため息をついた。


「一応言っとくけど、もしピンチになっても私はシャーリー様を優先して助けるからね」


「そりゃ当然だよ、それがあなたの役割だもんね。それにたぶんそんな事態にはならないよ」


 そう言って自信満々にニコッと笑うアイリス。

 女はその頼もしい態度に苦笑する。そして、


「あなたじゃ呼びにくいでしょ、シェルでいいわ。よく考えたら私もアイリスちゃんとは王都まで一緒だしね」


 さすがに本名を教えるのはどうかと思い、同僚に呼ばれている愛称を名乗る。


「わかった、よろしくね。シェル」


「うん、改めてよろしく。っと、そういえば肝心の盗賊の住処はどこだかわかるの?」


 女――シェルのその質問にアイリスは悪戯心のこもった悪い笑みを浮かべながら、


「大丈夫、道案内役はもう準備できてるから」


 そう不敵に言って見せた。


*****―――


 日が昇り、朝がやってきた。

 すでにシェルの姿はなく、森林を歩くアイリスの後ろをシャーリーが付いて来ている。

 アイリスは勿論のこと、シャーリーも朝には強かったようで目覚めもばっちりだった。


 シャーリーにはこれから盗賊団を倒しに行くと伝えてある。聞いた瞬間はビックリしていたが、アイリスが理由を説明すると『確かに野放しにしておけませんよね』と拳を握りしめ賛同してくれた。

 シャーリーは正義感の強い子だった。

 ちなみに戦闘時は隠れてみているようにと約束して、シャーリーも自分に戦闘力がないことを理解しているのかすぐに頷いた。


 そんなやり取りを経て、二人は話しながらある場所まで移動した。

 そこは昨日三人の盗賊と戦った場所。そして、必然的にそこにはアイリスが魔力で作った檻があった。


「おっ、やっと目を覚ましたみたいだね。調子はどう?」


 まるで気負いなく挨拶のように語りかけるアイリス。

 しかし、その姿を眼にした男たちは烈火の様に怒りを表し、土でできた格子に手を食い込ませる。


「よくもやってくれたな、てめぇ! もうただじゃすまさねーぞ」


「…この状況でそんなセリフが吐けるのは逆に凄いね」


 リーダー格の男が目に怒りを溜めながら叫ぶが、アイリスは呆れたように肩を落とす。そして、


「まあ聞いてよ。ちょっと相談があるの」


「相談だぁ!? そんなの――」


「あなた達の住処へ案内してほしいの。もっと正確に言うとあなた達のボスがいるところまで」


 男の言葉に被せて自分の要求を突き付ける。


「…は? んなもん案内するわけねーだろ、ふざけてんのか!」


 男は一瞬キョトンとした顔をすると、再び逆上する。

 男の沸点の低さに一瞬いらっとするが、アイリスは男に目を向けると考えていた方法をとる。


「まあ、話だけでも聞いてよ。これはあたしにとってもあんた達にとってもいい話なの」


「…おれたちにとっても?」


 何を言っているのかわからないといった顔でアイリスの言葉を繰り返す男。しかし、自分の利点を挙げられ少しは興味が湧いているようだ。

 その様子にアイリスは内心で上手くいきそうな気配を感じ取り、よしと拳を握る。


「まず、あんた達があたしの提案を断った場合、仕方ないからあたし達はこのままこの森を抜けることにするよ。――もちろん、この檻の魔法は解除しない」


 男たちがギョッとした顔をする。

 実はこの魔法は持って一日程なため完全なブラフである。しかし男たちに確認するすべはない。

 そしてそのままアイリスは続ける。


「でも、案内してくれるならすぐにこの魔法も解くし、あんた達は自由になれるわ。それにあんたたちの住処へ行けばあたしに勝ち目はないから昨日みたいにやられる心配もない。だって聞いたところによるとあなた達は結構大きな盗賊団なんでしょ」


 男はアイリスの話を聞き終えると後ろの男たちと何かコソコソ話し出す。そして結論が出たのか男はアイリスの方を振り向く。


「――ひとつ聞かせろ、なんでボスの所に行きたがる?」


 昨日その盗賊に襲われたばかりなのになぜわざわざその拠点に行きたがるのか。

 それは当然の疑問。それゆえその返答も当然決まっていた。 

 アイリスはニコッと弾けるような笑みを浮かべ、


「実はあたし達、あなた達の仲間に――盗賊団に入りたいんです」


 そう純度100%の嘘を吐いた。


*****―――


 数分後、森林を三人の男たちが歩きその後ろをアイリスとシャーリーが歩いていた。

 アイリスの返答を聞いてから男たちは再び話し合いをし、そしてアイリスの要求を飲んだ。

 そして、現在アイリスたちは男たちの案内のもと盗賊団のボスがいる住処へと向かっていた。

 

 男たちは余裕が戻ったのか、再び初めて会った時のようなニヤニヤ笑いで、たびたびアイリスたちの方を見てくる。

 理由は盗賊団に美しい新入りが二人はいるから…ではないだろう。おそらく先程アイリスが言ったことを真に受け、住処に着いたら数で逆襲するつもりだろう。

 まあ、アイリスも大嘘を吐いているため何とも言えないが。


「だ、大丈夫ですかね?」


「大丈夫、安心してて。シャーリーはあたしが守るから」


 不安げな顔でアイリスにだけ聞こえるように呟くシャーリー。

 その頭をアイリスはゆっくり撫で安心させるようにそう言った。その言葉が行動がシャーリーを不安から解放する。


「人数は全員でどれくらいいるんですか?」


「団員は大体100人だ。――あとは女が何人かいる。まあ、新たな団員として仲良くしてやってくれよ」


 男が下卑た視線を送る。思ってもないことを口走っているのがバレバレだった。

 アイリスはハァーと男たちにばれないように小さなため息を吐く。そして、


「ほら、着いたぞ。あそこだ」


 少しし視界が開けて、家のような人工物が見える。

 おそらく、見えている住処の端の方だろう、確かに人が暮らしている場所だ。それも住処全体でそこそこの広さがありそうだ。

 それを眼にした瞬間のアイリスの行動は一瞬だった。


 素早く腰の木剣を手に取り、前を歩く男三人の首元に打ちつける。

 パンッ、パンッ、パンッと三つの小さな音が連続して響く。そして、


「道案内、ご苦労様」


 そう聞こえているのか聞こえていないのかわからない男たちに囁くと、同時に三人が地面に倒れ伏した。

 

 その様子に、アイリスのすぐ後ろにいたシャーリーは絶句していた。

 初めてアイリスに会ってから、さぞ高名な魔法使いの弟子か何かなのではと思っていた。確かに腰に木剣を差していたのは気になったが、それも魔法に使うのではと考えていた。しかし、


――太刀筋が速すぎる。


 目の前で振るわれた剣の速度は、おそらく自分の兄の一人――剣の才に恵まれ、王家に伝わるとある聖剣を扱うことが唯一可能な第二王子に肉薄していると感じた。

 尋常ではない剣の腕だ。


「……アイリスさんは何者なんですか?」


 ついそんな言葉が口から洩れる。失礼なことを言ってしまった、とハッとするシャーリーだったが、その質問にアイリスは一瞬意外そうな顔をすると、


「何者かかー、そうだな。とりあえず今のところは世界最強の親父に育てられた娘ってことにしといて」


 そうニコッと笑い、目の前の盗賊たちの住処に視線を戻すと、


「じゃあ、いっちょやりますか!」


 そう言って、グイッと背筋を伸ばし剣を構えた。 

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