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2章ー6話  「森林のガールズトーク」


「目的はシャンゼンから旅をして王都まで辿り着くね……えっと、どういうこと?」


 アイリスが首を傾げる。

 しかし、シャーリーはその反応を予想していた様で「はい」と一言頷くと、


「あのですね、詳しく説明したいんですけど…これから話すことは私の家の事情が絡むことになるので、所々要領を得ない説明になってしまうと思うのですけどそれでも大丈夫ですか?」


 何かを決意した様に顔を上げる。その様子から真剣な思いを感じ取りアイリスもしっかり聞きの体勢に入る。

 それを了承ととってシャーリーは口を開く。


「自分で言うのは本当にどうかと思うのですけど私の一族は王都でも由緒正しい高貴な家系なんです。そして私には3人の兄と一人の姉がいます。つまり、その中の一人が次の当主―つまり今の父の後を継ぐことになります」


「……」


「普通の家系ならば長男が家を継ぐのが一般的ですけど、私の家系は代々当主が自分の子の中から次の当主を指名する方法がとられてきました。おそらくこのままなら、次男である兄が指名されることになります」


「へぇー、なんでまた次男?」


「単純に長男の兄が当主の器に非ず、毎日遊び呆けているというのもあります。でもそれを差し引いても次男の兄は小さいころから剣の才に優れていて、その上一族に代々伝わる聖剣を扱うことができたため、小さいころから父に愛されていたと聞きます」


 そこまで言って、シャーリーは話を区切る。兄のことや聖剣のことなどしゃべりすぎたか、とも思ったが前にいるアイリスは顎に手を当て真面目な顔で話を聞いていたため、話を再開する。


「でも、父が指名したからと言ってすぐそのものが当主になるわけではありません。…詳しくは話せませんが、もしその指名が無効になった際には、ある条件を満たした父の血を引く全員に当主になる権利が与えられるのです」


「んー、そうなったら子どもみんなで選挙でもするの?」


「――近いです。そうなった場合、とある魔道具を使って一定の期間内で誰が一番当主にふさわしいのかを選ぶことになります。そして、選ばれる条件が『当主にふさわしい力・強い意思・様々な経験』を一定以上満たしていることです」


「……えっと、つまりシャーリーはその基準を満たすためにわざわざ王都からここらまで来て。それからまた王都まで旅をするってこと?」


 アイリスが唖然とした様子で問う。

 そして、その質問に真剣な顔で「はい」と答えるシャーリー。

 

 正直話しすぎたかもしれないという思いはあった。王家の継承制度はそこまで秘匿されているわけでもないうえに、姓は名乗っていないが名は本名のままだ。

 王城に詳しいものならばシャーリーの正体がシャーリー・サリスタン第二王女だと気づくだろう。しかし、目の前にいる少女はそんな素振りはない。

 シャーリーはほっと胸をなでおろす。


 そして、シャーリーは畳み掛けるようについ少し前に芽生えた考えを打ち明けようとする。


「あの、アイリスさんはシャンゼンから来たって言いましたよね? 目的地はどこなんですか?」


「ん、王都だよ」


 アイリスの返答に内心でグッと拳を握る。

 

「あのお邪魔じゃなかったら一緒に王都まで旅をしませんか? そして…あの、どれだけ図々しいんだという話なんですけど、私に魔法を教えてくれませんか!」


「うん、いいよ」


「ええええ!?」


 全く予想外の即答に目を驚きの声を上げるシャーリー。

 自分で考えても図々しすぎる提案、というかお願いだった。それを目の前の少女は二つ返事で受け入れたのだ。

 その反応に苦笑しながらアイリスは、


「一緒に旅をするのはこっちからお願いしたいくらいだよ、大歓迎。でもね、」


 言葉を区切るアイリス。そして、今までとは違い少し厳しい顔をして、


「でもさ、こんな危険な森に自分の身を守れる術なく迂闊に一人で入ったのはしっかり反省してね。いつでも誰かが助けてくれるわけじゃないんだから」


「すみません…」


 たしなめるような言葉。

 その言葉にシャーリーは三度自分の危険極まりない行動を思い起こし深く反省する。

 その様子を確認してアイリスは優しい笑顔に戻り、


「うん、分かればよろしい! だから、身を守る術として旅の途中、あたしでよければよろこんで魔法を教えるよ」


 ニコっと笑った。

 その言葉にシャーリーはパッと顔明るくする。

 断られる可能性の方がはるかに高いと思っていた手前、その喜びは凄まじかった。そして、それと同時に目の前の自分と二つしか違わないのに、自分よりはるかに大人に見える少女へ羨望と感謝の念が生まれる。


「あ、ありがとうございます!」


「いいよいいよ、そんなにブンブン頭下げないで。――最後に一つだけ聞いていい?」


「私に答えられることなら何でも!」


「シャーリーはその当主にどうしてもなりたいの?」


 森林を一瞬の沈黙が支配し、風で木が草が揺れる音が大きく聞こえる。

 そして、その静寂を打ち破るように――


「はい、どうしてもなりたいんです!」

 

 少女の声が響いた。

 アイリスにはその言葉に詰まった決意までは読み取れない。しかし、目の前の少女の夢を応援する十分な力と動機があった。

 

 ふと懐かしい光景が頭にフラッシュバックする。

 この状況はまるでグリシラと初めて会った屋上のようだ。しかし、今度は自分が教える側。

 運命の巡り会わせにアイリスは「ハハッ」と笑って、


「わかった、責任もって教えるよ」


「はい、よろしくお願いします!」


 旅の相棒が見つかった。


*****―――


 二人はその後もシャーリーが王都からこの森林に来るまでのことなどを話したり、川に入って魚を捕った魚をアイリスの火属性魔法で焼いて食べたりして時間を過ごし、そして気が付けば空が黒く染まっていた。

 そのため、捕まえた盗賊たちのことや町までの距離を考えて、今夜はここで一夜を過ごすということになった。


「すみません、何から何まで」


 比較的平らな地面に引いた毛布に包まってシャーリーが申し訳なさそうにする。ちなみに毛布は家を出るときにグリシラから渡された転移魔法術式の巻物に封じてあったものをアイリスが取り出したものだ。

 ウトウトしており、すぐにでも寝てしまいそうな様子。あんなに怖い経験をして森林を走り回ったのだから無理もない。


「眠っていいよ、あたしもすぐ横になるから」


 そう言いながら優しくシャーリーの頭を撫でるアイリス。シャーリーはもう気恥ずかしさはだいぶ薄れたのか気持ちよさそうに撫でられているとすぐに規則正しい寝息をたて始めた。

 

 しっかり眠ったシャーリーの様子を確認し、慈愛の籠った優しい笑みを浮かべる。

そして――


「おーい、シャーリーぐっすりだよ。もうばれないから下りてくれば」


 そう暗闇に向かってすこし大きな声で問いかけた。

 しかし、帰ってくる声はない。アイリスは構わず続ける。


「最初は盗賊の仲間かと思ったんだけど、なーんか狙ってるっていうより見守ってるって感じなんだよね。だから、下りてきて話聞かせてよ」


 再びの沈黙。

 アイリスの額に青筋が浮かび、顔がムッとする。


「――人に話しかけられたら無視するなって親父から習わなかったのかな、『アクリス』」


 右手の前に小さな水球が出現。もちろん殺傷力はない。

 それを右後ろの木、その葉っぱが密集している辺りへ打ち込む。

 「うぎゃー」と小さな悲鳴が聞こえると、その人影は地面に落ちる。悲鳴とは裏腹にしっかり受け身も取れており完璧な着地だった。


 そして、その人影はアイリスを指差し、


「危ないでしょ! いきなり魔法を人に向かってうっちゃダメって主から習わなかったの!?」


 そう少し高い女性の声で言い放った。

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