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2章ー5話  「家出王女の目的」

「えーと、シャーリーって呼べばいいのかな?」


 互いの名前を教えあったところでアイリスはシャーリーに尋ねた。

 王城では身内にしか呼び捨てで呼んでもらうことのなかったシャーリーは、なんだかその提案が嬉しく「はい」と頷いた。

 

「私はアイリスさんって呼んでいいですかね? たぶん私より年齢は上でしょうし」


 今度は少し不安げな様子でシャーリーがそう尋ねる。


「…うん、それでいいよ、ちなみに私は十五歳。シャーリーは十三歳ぐらいかな?」


「はい! おっしゃる通り十三歳です」


 元気よく答えるシャーリー。そしてそんな様子を微笑ましそうに見つめるアイリス。

 自然とその手がシャーリーの頭まで伸びて、白銀の髪を撫でた。

 なでなで、と頭の上を行き来するアイリスの手は何故かとても気持ち良かったが、それよりも困惑が勝った。


「…え、ちょ、あの、アイリスさん?」


「あ、ごめんつい。なんか無性に撫でたくなっちゃって」


「いえ、別に嫌というわけではないんですけど。恥ずかしいというか…」


 シャーリーがもじもじしながら恥ずかしそうに頬をかく。

 しかしこの言葉に嘘はなく、全くといっていいほどアイリスの手には不快感を感じなかった。

 

 そんなシャーリーの様子に微笑んで、アイリスは視線を別の者に向ける。対象は先程のした盗賊たち。


「色々聞きたいこともあるけど、まずはこっちをどうにかしないとね」


 そう言うとアイリスは、まずは目の前のリーダー格の男とは別の一人の男の前まで移動する。そしておもむろに男の片足を掴むとそのまま引きずってリーダー格の男と同じ場所に置く。同じくもう一人も引きずって移動させる。

 これほど雑な扱いをしても一向に目を覚ます気配はない。


 そんな様子をキョトンとした様子で黙って見ているシャーリー。


「…もしかして一か所に集めて燃やすんですか?」


「いや、なにさらりと怖いこと言ってんの! ちがいます!」


 どんなふうに見られてんのかな、と心配になるアイリスだったが「まあ見てて」と一言言うと右手で地面に触れる。そして、


「『フォルバリム』」


 詠唱と共にアイリスの魔力が地面に干渉。

 周辺の大地が揺らぎ盗賊三人組の周辺に檻のような格子状の土壁が出現する。それは高さは三メートルほどまで伸びると頭上にも蓋をするように展開した。


「うん、上出来!」


 初めて作った即席の土魔法の檻だったが中々の出来に頷くアイリス。


「す、凄い」

 

 そしてそれをシャーリーは輝きと驚きの同居したような双眸で眺めていた。王城にも魔法の講師などはいるがここまで緻密な魔力のコントロールは見たことがなかった。

 シャーリーの胸中にある考えが生まれる。


「これで逃げられる心配は無しと。じゃあ、ちょっと場所でも移動しよっか。なんか水が流れてるっぽい音が聞こえるし」


 アイリスはヒョイヒョイと手招きをすると耳に手を当てながら歩きだした。

 それに倣いシャーリーはその後を付いていく。

 頭の中にある先程思いついた考えを秘めながら。



 10分程歩いただろうか、アイリスとシャーリーの目の前に小さめの川が現れた。

 アイリスが少し覗き込んでみると、水は驚くほど透き通っており水中には泳ぐ魚の姿も見て取れた。

 「やった」と拳を握るアイリス。


「この魚って多分食べれるよね」


「どうですかね…すみません、あまり魚には明るくなくて」


 アイリスの問い、というよりも確認にシャーリーは真面目に顎に手を当てて考えるが、首を振り自信なさげにそう言うとしょんぼりしてしまう。

 シャーリーは中々の豆腐メンタルだった。


 そんな様子に居た堪れなくなったアイリスは、すぐさま明るく、


「あー、そうだ! よく見たら親父と釣りしたときにこの魚見たことある。うん、大丈夫食べれるよ」


 そう返す。

 そして、話題を変える。


「えっとさ、単刀直入に聞くけどシャーリーはなんであんな所に一人で襲われてたの? そもそもこの森林までは一人で来たの?」


 いきなりの話題転機。

 そして、それで自分の愚かさを再び思い出して少し憂鬱になるシャーリーだったが、その問いに答える。


「はい、一人です。今日の朝にアクリエルから出てこの森に入った所をあの盗賊たちに襲われました。…正直アイリスさんに偶然助けられなかったらと思うとぞっとします、あらためてありがとうございました」


「アクリエルかー。じゃあ来た方向は反対だね、あたしはシャンゼン方面からだし。それとさっきも言ったけど気にしなくていいよ、それにあたしが助けなくても何とかなったと思うしね」


「え…?」


「で、シャーリーはどこを目指してんの?」


 最後の言葉に困惑するシャーリーだったが、アイリスはそれはそのままに言葉を続ける。

 シャーリーも冗談だと認識し、


「えっと、シャンゼンです。と言ってもあのシャンゼン自体に行くことが目的なんじゃなくてですね…」


 シャーリーの言葉は歯切れが悪く、言い淀んでしまう。

 ここで一つの葛藤があった。しかし、自分のこれから目に前の少女に頼むことを考えれば話しておくべきだと決断し、続きの言葉を紡ぐ。


「私の目的は、シャンゼンから旅をして無事に王都まで辿り着くことです」


 シャーリーはアイリスの目を見ながらそう告げた。

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