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1章ー15話 「虹色の剣士」


「ってことはシオン姉さんはその聖道ってやつを使ってるってこと?」


 グリシラの説明にアイリスが首を傾げる。


「ああ確定だな。聖道院で治癒術を修めたやつは体中に治癒のエネルギーが循環して老化が通常よりも遅くなるし」


「ああ、なるほど! 確かにシオン姉さんやけに外見が変わってないなと思ってたんだよね」


 補足説明で合点がいったかのように頷くアイリス。その眼には自分のまだ知らない世界を見たことで好奇心が渦巻いていた。

 そこへ結界の中で一人放置されているシオンの声が届く。


「こらー、私をこのまま一人にしておいて話してるんじゃない!」


「ハハッ、そうだな。シオンのあの結界破れそうか?」


「やってみる。実は奥の手もあるし」


「奥の手?」


 グリシラの疑問をよそにアイリスは視線を前方のシオンへと戻し、

 

「でもまずはいろいろ試す。『フォルアクリル』、『フォルリファル』!」


 眼前に水と風の魔力でできた大剣を生み出し、結界に向かって打ち込む。

 そして再び模擬戦が再開された。


 

「しかしこんだけ連続で魔法撃って魔力がきれないんだからホント凄い魔力量してるよね」


 感心したようなどこか呑気なシオンの声が聞こえる。その周囲には相変わらず結界が張り廻らされていた。

 対するアイリスは少し息を乱し始めている。

 あれから手を変え品を変えながら魔法を撃ちこんだことによる疲労が伝わってくる。それでもシオンの結界はびくともしない。


 これまでかな、とシオンは思う。

 両手を口に添え、


「これで終わりにする?」


 と前方にいるアイリスへ聞こえるように声を出す。

 しかし、その声を聞いたアイリスは首を横に振る。そして再び木剣を手に取った。


「シオン姉さん強いですね、なので奥の手を使わせてもらいます。あたしは魔法使いじゃなくて剣士ですから」


 そう言ってアイリスはニコッと笑う。

 中級魔法でも壊せない結界をただの木剣で壊せるわけがない。だとすればアイリスが何をするかシオンにはなんとなく予想がついた。


「『サフリウス』!」


 そしてその予想は当たる。

 アイリスが唱えたのは付加魔法。自らの木剣に魔力を込めるこの戦い方は純剣士に分類される戦闘方法だ。

 しかしここでシオンの予想外のことが起こる。

 

 熟練した魔法使いなら属性を選ぶこともできるが、本来付加魔法で剣に魔力を纏わせた場合はその剣士の一番の適性の魔力に準ずる色の光を剣は帯びることになる。火属性なら赤、水属性なら青といった感じだ。

 しかしアイリスが手にしている木剣は、


「……すごい、虹色に輝いてる」


 シオンの口から自然と感嘆の声が漏れる。

 そして次の瞬間、アイリスが小細工なしにシオンへと向かって走り出す。魔法の使用を考えていないためか最初よりも速度が速い。

 一気に結界の手前まで到達し、勢いそのまま木剣を振りかぶる。

 

 バキッっという激突の音が響き、シオンの顔が初めて純粋な驚きに染まる。

 木剣は虹色の光を放ったまま結界にヒビが入っていた。

 アイリスは好機と思い、二撃目のため振りかぶる。


 ――これは次で砕けちゃうわね。


 瞬時の判断。シオンは結界を解きアイリスへ肉薄する。剣の間合いよりさらに内へ。


「え!?」


 予想外の行動に驚き一瞬動きが止まったアイリスの手首を掴み、放り投げる。

 更にアイリスへ追撃を加えようとした瞬間、空中で安定しない姿勢のままアイリスが木剣を持った右腕を振るう。

 木剣は届かない距離。ならば、


「あぶなっ!」


 瞬時に自分の眼前に結界を生成。そこにアイリスの刀から放たれた虹色の斬撃が衝突する。木剣に付加した魔力の一部を瞬時に飛ばしたのだ。

 そしてアイリスは着地したと同時に再び前方へ飛び出す。斬撃と結界の激突で視界を遮れた、そう判断し最短距離でシオンに向かう。


「今度こそ決める」


 呟くように自分に向けた言葉。先程の一撃で結界の強度は把握でき、そして全力で魔力を込めた木剣を振るえば破れると確信した。

 近接でのシオンの動きも脅威だが、やはり素手と剣。素早い動きを考慮に入れた上なら戦えると踏んでいた。


「『フォルアクリス』」


 アイリスの耳に詠唱が届き、進行方向に水の盾が出現する。予想外の魔法だがすぐさま木剣を振るって対処する。

 当然だが結界より硬度は低く、水の盾は破られた。

 その先にはシオンの顔が見える。

 しかし、その表情には一切の焦りは浮かんでいなかった。


 「いやー強いね。これにさらに兄ちゃんから受け継いだ魔剣を扱えるようになったら私勝てないかも。でもね、」


 シオンが右手を前に出す。


「今回はまだ姉ちゃんの勝ちね」


 次の瞬間、先程木剣で砕いた水が一気にその質量を増やし、アイリスを飲み込んだ。水がシオンによってコントロールされ球体状に変化する。

 何が起こったかアイリスには理解できない。しかし考えるより先に体が動く。口が封じられたため魔法は使えない。しかし、右手の木剣は虹色の輝きを保ったままだ。


 ――これで水全体を弾き飛ば、


「フフッ、させないよ」


 アイリスが右手の木剣を振るうより速く水の表面へシオンが結界を張った。これで水の逃げ場がなくなり、アイリスは水の球体に閉じ込められる。

 これで詰みだった。木剣から放たれた魔力が水をはじくがそれは結界によって阻まれる。


「ぷはっ」


 シオンはアイリスが息をするため、しっかり球体上部に空気がある空間をつくっていた。

 そこからアイリスがちょこんと顔を出す。もはや反撃はできない。

 しかしそのびしょ濡れの顔には疑問符が浮かんでいた。

 

「……最後のあれ。なんで急に水が増えたんですか」


「フフ、気になるよね。簡潔に言うとアイリスが剣で私の魔法を破った瞬間に、魔法自体に治癒術をかけたの。それも結構な純度でね」


 アイリスが「ほー」と納得したような、いまいち分からないような顔をする。

 そこへさっきまで静観していたグリシラがやってくる。


「中々シュールな光景だな」


 グリシラの言うように結界で覆われた水の球体の中で、上部の空間に顔だけ出しているアイリスは中々奇怪な光景だった。


「うるさい! それとシオン姉さんもこれ解いてください。降参です」


「あっと、ごめんごめん」


 両手を上げるアイリスにシオンが呑気に謝りながら、指をパチンと鳴らす。すると結界が解除され水と一緒にシオンが地面に着地し座り込む。そして、


「いやー、予想してたよりはるかに強かった。これは十五歳になる頃には私勝てないよ」


 そう言ってシオンはアイリスに向かってニコッと笑い、手を差し伸べる。その手をアイリスも同じくニコッと笑い握った。


「ありがとうございます。……というか強すぎませんか、シオン姉さん。奥の手だった虹色の付加魔法使っても勝てないって地味にショックなんですけど」

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