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1章ー13話 「母の心配事」


「ふー、ごちそうさま。料理上手になったね、アイリス」


「はい、お粗末さまでした」


 温めた夕飯の残りのスープを飲み干したシオンが満足そうに手を合わせたところで、アイリスがその皿を洗面台まで片づける。

 こんな状況になっているのは、再開一番にシオンの腹の虫が家中に鳴り響いたのが原因だった。どうやら今日は朝から何も食べていなかったらしい。

 

「で、お前はこんな夜更けにどうしたんだ?」


「あーそれね。実はちょっと前まで王都に用事があって出かけててね、そのついでに『グリシラとアイリスの様子見てきて』って母さんから言われてたの」


「ババアが?」


 王都での用事というのも気にかかったが、グリシラの関心は後半の言葉に向く。それをシオンはアイリスが入れた食後のお茶を飲みながら、


「うん。まあ一応半年に一回は兄ちゃんから手紙をもらってるから大体の状況は分かってるんだけど、やっぱり気になってたんだと思うよ。母さん結構心配性だからね」


「たしかに、ああ見えてそういうとこあるな」


 お互いに育ての母のそんな一面を頭に思い描き笑う。

 そんな二人の会話へ皿を洗い終えたアイリスも参加する。


「で、なんでシオン姉さんは朝から何も食べてなかったんですか?」


「ん、迷った」


 シンプルな回答に呆れ顔をするグリシラ。

 思えば昔からこの妹は方向音痴の気があったことを思い出す。

 そんな残念なものを見る目で見られたシオンは話題転換を図る。


「でもまぁ、実際に仲良くやってるの見て安心したよ。母さんも安心するだろうしね」


 そこまで言うと、シオンは口大きく空けて欠伸をひとつ。そして、


「今日は結構動いて疲れちゃったから眠いや。寝るから兄ちゃんの部屋教えて」


「……前半は概ね納得だが、後半が何を言っているかわからんな。なんで寝るのに俺の部屋を知る必要があるんだ」


 グリシラの指摘にシオンはわざとらしく頬を朱に染めて顔を手で隠す。


「もー、乙女にそれを言わせちゃうの。兄ちゃんのエッチ」


 ノリノリで体をクネクネさせながらそんなことを口走り、今度はアイリスの方へ視線を向ける。


「それとアイリス、今日の夜はお父さんの部屋から甲高い声が聞こえてきちゃうだろうけど気にしないでゆっくり休んでね」


 「えぇ!?」と素っ頓狂な声を上げ、顔を真っ赤にするアイリス。

 そんな様子を微笑ましそうに見つめるシオンに布の塊がぶつかった。


「痛い!? ん、なにこれ」


「寝袋だ。さすがに何も持たず野宿じゃ風邪ひきそうだしな」


 寝袋をぶつけたグリシラが平然と言ってのける。


「いやいやいや、何でこんなでかい家があるのに私が外で寝ることが決定事項みたいになってんの!?」


「お前の存在がアイリスの健全な成長にとてつもなく悪影響だと判断したからな。寝袋が嫌ならおとなしくそこの部屋使え、布団持ってきてやっから」


 シッシと手を振るグリシラにシオンが「ムーッ」と物理的に声に出し唸る。しかしグリシラのその反応はなんやかんや予想通りだったのか「はいはい」と言って部屋に向かっていく。

 どうやら眠いのも本当らしい。

 しかし部屋に入る寸前でシオンは何かを思い出したように首だけを回して振り返った。


「あ、そうだ忘れるところだった。ねぇ、アイリス」


「はいー。なんですか?」


 こちらも普段は日付が変わるころには眠っているため、眠気がつもり目を擦っている。

 そんな様子にまだ13歳の子どもであることを再確認しシオンの頬が緩む。


「私が母さんから頼まれたことは2つあるの。一つはさっきも言った二人がちゃんと仲良く暮らしているのかの確認。これはさっき私の目で見させてもらったよ」


 そこまで言ってシオンは少しめんどくさそうに頭をかいて、


「そしてもう一つはこの三年でアイリスがどれくらい強くなってるかの確認。だから明日私と本気で模擬戦しよっか」


 そう言って、ニッコリと笑った。

 

*****―――


「おーい、布団持ってきたぞ」


 ノックをしっかりして両手で使っていない布団を抱えたグリシラがシオンの寝室に入る。

 アイリスは疲れもあってかシオンと同様に自分の部屋に入って眠ってしまっていた。


「ん、ありがと兄ちゃん」


 中に置かれた椅子に腰かけているシオンがニコッと笑う。

 さっきまでとは異なり黒と白を基調とした修道服のような寝間着姿に着替えており、その姿にグリシラは単純にシオン自身の美貌と合わさって綺麗だと感じた。

 そしてその感情の起伏をシオンは目ざとく感じ取りニヤッと笑う。


「ほーほーほー、さては一瞬私に見とれたな、仕方のない兄ちゃんめ。やっぱ一緒に寝る?」


「アホ言ってねーで寝なさい!」


 グリシラが乱暴に布団を投げるがそれをシオンがヒョイっとキャッチする。

 

「おっとと、危ないなー」


「……なあ、さっき言った模擬戦ホントにやるのか?」


 シオンのニヤニヤ顔が収まらないため強引に話題を変える。


「話を変えられた気がするけどまあいいや。――うん、さっきも言ったけど母さんに頼まれたしね」


「……魔剣の扱いはまだ教えてないとはいえ、魔法と剣術だけでもアイリスは相当強いぞ。たぶん今の時点でも下手な大人の騎士や魔法使いより上。はっきり言って天才だ」


「ハハッ、噂通り親バカ化してるね。でも大丈夫、まだ私には及ばないよ」


 そう、はっきりと言い切るシオン。

 

 正直グリシラはシオンの戦闘力については詳しく知らなかった。何度か傭兵団にいるときにフラッとシオンが現れたがその時に聞いたのは魔法を少々学んでいることぐらいだ。

 しかし三年前に孤児院で会ったとき、そして今日再び会ったときグリシラの中である一つの予感があった。それは、


「――その自信はおまえの容姿がまだ正直20前半くらいにしかみえないことに関係あるのか?」


 グリシラの言葉に意味深にニコッと笑うシオン。

 その様子にグリシラは自身の疑問が正しいことを確信する。「そっか、なるほどな!」と納得し、部屋に置いてある椅子に座る。


「おまえも色々と俺の知らないことしてんだな。……ん、ちょっと待て。さっき俺が親バカの噂がどうとか言ってたよな、それどういうこと?」


「あーそれね。いや王都に行ったとき私の師匠が言ってたの。師匠はセシュリアさんから聞いたって言ってたよ。まあ手紙のべた褒めで私も母さんも薄々感じてたけどね」


 「王都でも結構知ってる人いるかもね」と付け加えニヤニヤしながら話すシオン。その衝撃の発言に、


「何つーこと言いふらしてんだ、あのヤローは!」


 そんな叫びが家に響き渡った。

 

 こうして夜は更けていく。

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