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1章ー12話 「魔剣 フォー ユー」


 魔剣。

 それが初めてこの世に出現したのは今から500年近く昔。

 つまりサリスタン王国が誕生した頃、同じく魔剣は誕生した。


 500年前より以前――サリスタン王国が生まれる前まで人と魔族の戦いは激しく、日々戦場では多くの血が流れ幾千幾万もの命が散って行った。

 その争いは、後に初代王国五勇星と呼ばれることになる五人の勇者により魔族の長である魔神が討伐されたことにより終焉を迎える。


 ではなぜ、その後魔剣と呼ばれる剣が誕生したのか。それは魔剣が生まれるまでの過程に理由がある。

 魔剣の原料は聖剣や純剣のように鉄や鋼ではない。聖剣や純剣そのものが魔剣の材料となるのだ。

 

 500年前の戦いで各地の戦場には魔族の死骸や死んだ人間が装備していた剣がそのまま打ち捨てられていた。

 そして、その魔族の体が朽ちる際に体内の魔力がそのまま近くにある剣に宿ったことで魔剣が生まれたのだ。

 その証拠として実際に生け捕りにした魔物を剣の近くで殺して作った人工魔剣なるものが王都の魔道士の手で作られている。それでも、実際に戦場で生まれた天然魔剣にはどうしてもその魔力は劣ってしまう。


 しかし、500年前に魔剣が生まれてから日の目を見るまでにはこれから長い時間がかかった。その理由はその魔剣と適合した剣士が持たない限りはそれはそこらの剣と変わらないから、そして適合する人間が極少数しかいないからだった。

 

*****―――


「適性見る方法はすごく簡単だ」


 そう言って布袋を逆さまに向けるグリシラ。テーブルの上に小さな巻物が散乱する。そしてその中から何個かがグリシラの手によって除外される。


「今とったのを除いたこれが、計47振りのグリシラ・リーヴァイン天然魔剣シリーズ、その転移術式が書かれた巻物な。そしてお前はこの巻物の上を手で撫でればいい。適合したら手に巻物がくっつくようになってる。こんなふうにな」


 そう言うとグリシラは自分の右手で巻物の上を撫でる。全ての通過し終えたグリシラの手にはテーブル上の47の巻物全てが磁石のようにくっついていた。


「凄っ! 全部くっついちゃった!」


「おう、俺は魔剣の適合率だけはダントツで世界一な自信があるからな。俺が今まで適合しなかった魔剣は1振りだけだ」


「その魔剣はどうしたの?」


「あー、知り合いに誰か適合するやつ見つかったらあげてくれって渡したきりだな。そういや適合者見つかったのかな?」


 そんなふうに不意に物思いにふけるグリシラとは対象に、アイリスは表には出さないが緊張で心臓がバクバク脈打っていた。その理由は、


「ねぇ、普通の人はこの47の内どれくらい適合するものなの?」


「んー、たぶんほとんどのやつは0だな。運良くて魔力保有度Cランクが1個適合するくらいだな。あ、魔力保有度ってのはそれぞれの魔剣の内部の魔力のことでこの47振りは全部C~Aだな」


「ほ、ほとんど0……」


 グリシラが魔剣についての補足説明をするが、アイリスの耳には入ってこない。そんなアイリスを不審に思ってかグリシラの声がかかる。


「まー、そんな深く考えんな。適合しなくてもお前には剣術や魔法があるんだから別に大丈夫だよ」


「……それじゃ意味ないんだよ」


 そんな声がアイリスから洩れる。


「あたしが一番なりたいと憧れたのは魔剣士なんだ。だから私は適合しなきゃ大丈夫じゃない!」


 そうアイリスとってここで一つも自分に適合する魔剣が無かったらその時点で憧れがついえてしまうのと同じだ。

 そんなアイリスの言葉に一瞬呆気にとられたグリシラだったが、その表情が次第に緩み「フッ」と笑みを浮かべる。そして先程とは違う言葉をアイリスにかける。


「心配する必要はねーよ、おまえは必ず適合する。なぜなら『魔剣星』の娘だからな!」


 そう言って笑う。グリシラのその言葉に不安そうだったアイリスは「うん!」と頷き、覚悟を決めて右手を振りかぶる。

 アイリスの右手がテーブルの巻物を上を撫でる。そして振り切った掌には、


「ハハッ。ほらな、言っただろ」


 2つの巻物がピッタリと張り付いていた。



「よ、よかったー」


 自分の掌にくっついている2つの巻物を見て安心したアイリスがソファーに倒れ込み、その様子をグリシラは微笑ましそうに眺める。


「しかも、2つもある。やったー!」


 2つの巻物を手にしてはしゃぐアイリス。魔法の適性があると判明した時より喜んでいるその様子にグリシラの胸が熱くなる。


「うんうん、そこまで喜んでくれるならこっちとしてもあげたかいがあるってもんだ」


「ねぇ、これ転移魔法使って魔剣出してみてもいい」


「ん、いーぞ」


 この巻物に書かれた転移魔法術式は、魔剣の適合者であればだれでも発動できるように書かれていたためアイリスでも魔剣を実際に出すことは可能だった。ちなみにこの巻物全てに術式をかいたのはグリシラに依頼されたセシュリアだった。


「中に書かれている術式に指で触れれば自動的に呼び出せる」


 その言葉に従いアイリスが人差し指で2つそれぞれの術式に触れる。次の瞬間、ボンっという音と共にテーブルの上に2つの魔剣が出現する。


 一つは独特の曲線のような刃の形状をしたナイフのような魔剣。デザインが個性的で刀身に透明な宝石が埋め込まれている。

 もう一つはアイリスが扱うには少し大きめの細い長刀。こちらはシンプルな作りで柄と鞘は光沢のある茶色をしており鍔は丸型。鞘の部分には黒と赤の紐が巻き付き、少し見える刀身は美しい銀色の光を放っている。


「おー、これはどっちもお前にぴったりだな」


 2つの魔剣をまじまじと見つめていたアイリスへグリシラの声がかかる。


「え、ホント!? どんな魔剣なの?」


「それは明日のお楽しみだ。明日から午前中は魔剣の稽古にすっから」


 「えー」と不満顔をするアイリスだったが夜遅いこともあり納得し、魔剣2つを巻物の中に戻す。そんなとき、ふいに『ピンポーン』と玄関のインターホンが来客を告げた。


「……こんな遅い時間に誰だろうね」


「んー、俺が出てみるな」


 すでに日付が変わる時間帯。普段なら来客などあり得ない時間帯なため不審がる二人。グリシラが玄関まで歩いていき、アイリスがその後ろを付いていく。


 そして玄関の扉を開けた瞬間、人影がグリシラに向かって飛び掛かってきた。一瞬反射的に攻撃を加えようとしたグリシラだったが、その人物の顔をみて拳を止め、空中の体の脇の部分を支えて持ち上げる。

 そしてその人影は3年前にも体感したこの体勢で楽しそうに笑って、


「久しぶり! グリシラ兄ちゃん、アイリス」


「……おまえ何やってんだ、シオン」

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