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1章ー11話 「成長し続ける強さ」


「『アクリス』!」


 凛とした少女の声が平地に響いた。

 少女の前方に水の塊が出現し、少女の指先が水の塊を撫でるように触れる。すると今度は水の塊はぐにゃっと流れるようにその形を変え、七つの水の球に分かれた。

 狙いを前方の標的に定める。


「いけ!」


 七つの水球はその掛け声と共に前方へ飛翔する。そのまま一直線に進み一番最初の水球が標的に当たる直前、標的はその大柄の体をひらりと回し回避。そしてそのまま前方に加速する。

 二弾目、三段目も同じように躱され、そのまま接近を許す。しかし、


―――これが当たらないのは想定内だっての。


「『ファルアクリス』」


 少女は冷静に次の魔法を唱える。魔力が少女の両手から溢れ出し周囲に少女を中心とした円状の水の輪が出現。水の輪は少女を覆い標的から少女の姿を隠す。


「お、新しいな」


 七つ全ての水球を躱し終えた標的の男は楽しそうに笑う。

 男の右手には木剣が握られていた。そして男は躊躇いなく少女を覆う水のドームへと突き進む。そこで、

 

「――かかった!」


 少女は嬉しそうにつぶやいた。次の瞬間、少女を覆っていたはずの水のドームが弾け大量の水球に分かれる。

 少女は水が自分を覆う瞬間にばれないようにすでに後方へ退いていた。

 男がその行動を不信に思い足を止める。そして気づく。自らの後方にも同じようにいつでも打てるように水球が準備されていたことに。

 男が最初に回避した水球は、そこでただの水に変わることなくそのまま少女の魔力で空中に浮いたままだったのだ。


「ハハッ、やるな。最初の水は俺が避けやすいようにわざとでかく分裂させてたのか」


「無駄話はなし。今度こそ当てる!」


 少女がそう言って男の前後方から魔力でコントロールした水球を打ち込む。

 

「っと、こういう場合は速攻で術者を叩くのが一番だな」

 

 それに対して男は足に力を込め、一気に少女のいる前方へ加速。そこに向かって水球が殺到する。

 しかし男はこれを驚くべき反射で避け、避けきれない水球は右手の木刀で撃ち落としながら前進するスピードを緩めない。


「もー、なんで当たんないのよ!」


 少女の声に焦りと困惑が混じる。

 すでに男はすぐ前方まで迫って来ていた。男が木剣を振りかぶる。


「ヤバッ!? 『アクシス』」


 少女が苦し紛れに唱えた魔法で前方に男の攻撃を防御するように水の膜が広がる。しかし、その一瞬で男は少女の視界から消え、


「はい、俺の勝ち」


 後方から優しく振り降ろされた木剣が少女の頭にコツンと当たり、そんな呑気な声が降ってくる。

 対する少女は「あー」と力尽きた様に地面にへたれ込む。


「いやぁ、今回は良い線いってたんじゃねーか。ちょっと焦ったぜ」


「どこが!? 簡単にひょいひょいと避けるし、叩き落とすし余裕だったでしょ」


「ハハッ、まあ水魔法だけって縛りがあんだからそれに俺がやられちゃまずいだろ。ほれ」


 男が出した手に少女がつかまりグイッと引き上げられる。少女は頭の後ろで結んでいる金髪を揺らしながら起き上がる。


「まあ、でも十分なレベルで使えてると思うぜ。お前には他にも剣や他属性の魔法があるしな。じゃあ、今日はここまでにして帰って飯にするか」


 その言葉に少女――アイリスは気持ちと表情を切り替え「うん!」と嬉しそうに頷いた。


 グリシラとアイリスが二人で暮らし始めてから三年の月日が流れていた。


*****―――


 三年前、セシュリアに魔法を教えてもらった次の日から午後の時間は魔法の授業にあてられた。セシュリアの言った通り、アイリスは凄まじいセンスを見せつけ七属性全てを短期間で実戦でそこそこ使えるまでにしてみせた。

 『魔法星』であるセシュリアが直々に教えていたのも大きいが、アイリスが毎日真面目に取り組み夕食後などにもセシュリアにわからない点などを質問しに行ったりしたのが上達を早めた。

 その上達の早さもあり、セシュリアがこの家に滞在したのも一か月ほどだった。


 その後は引き続き、午前中はグリシラとの剣術稽古。そして午後はグリシラを相手取った魔法の稽古になった。

 もちろんグリシラに魔法を教えることはできないため、魔法の稽古では一日交替で使う属性を変えてより細かくコントロールするのが目的の実戦勝負。しかし、未だにどの属性でも木剣一本のグリシラに勝ててはいない。

 しかしこの時点でアイリスは相当なレベルの魔法使いとなっていた。



「おまえ背もかなり伸びたよな」


 その日の夕食後、リビングで椅子にゆったり座りながらくつろぐグリシラが不意にそんなことを言い出した。同じくソファーで横になりくつろいでいるアイリスは首を傾げる。


「そうかな? あんまり自分では気づかないけど」


「剣術稽古の時もリーチが伸びてきてるしな」


「ほー、なるほど」


 自分の両手を伸ばし確認するアイリス。

 そんなとき、突然グリシラが「よし!」といって椅子から立ち上がった。


「アイリス、俺が三年前に言ったこと憶えてるか?」


「いや、漠然としすぎでしょ。いつのこと?」


 アイリスがツッコミを入れつつも真面目な顔をする。


「おまえが剣術を極めたらって言ったときのこと」


「あー憶えてる憶えてる、たしか魔剣くれるって……え、ホントに?」


 答えながら驚きにアイリスが疑問調になる。それに対してグリシラは真面目な顔で「おう」と頷いた。


「最近は剣術は俺の教えることは全部教えたといってもいい。おまえももう13歳になった。そこで、」


 言葉を切りグリシラはいつも持ち歩いている腰の布袋をテーブルの上に置いた。


「いまからおまえの魔剣の適性検査を行う。適性出たやつをお前にやるよ」


 そこまで言ってグリシラはいつも通りハハッと笑った。

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