兄のプレゼント前編
よろしくお願いします。
「本当に楽しくないくだらない人生だ」
俺は独り暮らしのアパートの一室でそう言った。
「僕の部屋に来るなり人生否定の極致を言葉にするのはやめなよ」
この部屋に住んでいる仕事の相棒である佐木琴は軽く肩をすくめて言い返してきた。
「だってそうだろ? 俺は24歳なわけだが変な事件を追ってばかりの探偵なんて職業をしてる。浮気調査してえよ。後は身辺調査。なんで金にならねえ依頼ばっかくるんだよ」
その言葉に俺は返答する。
「むしろロマン求める男の子が想像する探偵はあんたみたいな奴だと思うけど」
「ロマンや夢だけじゃ食っていけねえよ。夢を食って生きるって書いて無職。職無しだ。金が入って来ねえから無職と変わらねえよ。今の俺は。だから今月ヤバイから金を貸してくれや」
そして俺は恥も何もかもをかなぐり捨てて相棒に土下座した。
「十六の女の子に土下座する二十四歳を見る人生もろくなものではないと思ったな。僕は」
「分かった一万でいい。五万に簡単に増やす方法があるんだ」
「銀の玉を金に変える錬金術は失敗するよ? だから貸さない」
プライドを賭けた交渉は決裂した。
「じゃあ、飯を食わせろ。酒を買ってこい」
だったら次の交渉を始めればいい。
中学時代に部活動やってた時、顧問教師に帰れと言われて帰ったのだが、大激怒されて殴られた思い出がある。
貸さないと言われてそのまま帰るのは駄目だ。あきらめては駄目だ。何事も諦めたらそこで終わってしまう。俺は最後まで諦めない!
「土下座したまま命令口調なのは笑えた。じゃあ探偵さん。僕の依頼を受けてよ。そしたら貸すじゃなくてあげる」
「受けた」
もう塩をふりかけるだけのパスタと水道水にはおさらばだ。
「じゃあ、今度の誕生日に兄からプレゼントがあると思うんだけど、そのプレゼントをブランド物のバックにしてきて」
「探偵の仕事じゃねえ……」
「受けたって言ったよね? お願いね」
契約書に何も書かずにサインして後でひどい目に遭うのと同じ匂いがほのかにした。