俺はもう俺のガンビアと言うのはやめよう
俺はテリー。晴れたいい日なのに何もすることがなく、ぶらぶらと散歩していた。ほかのやつらに遊ぼうって言っても何故かみんな断りやがる。今日なんかあったっけか。そういうわけで、こうして適当に河辺を歩いていた。
すると、なんか騒がしい声がした。近くに行ってみると遊びを断った連中がぞろぞろ。
「お、なんかやってんじゃん。てかなんで教えてくんないんだよ。俺だけはぶりかよ!」
俺はぶつぶつ不満を漏らしながら下りていった。
「なんだなんだお前ら負けてんじゃねぇか」
それは何か複数やる遊びだった。ボードには2-0という文字。なんの遊びかは分からなかったが勝負事なら何でも興味が湧く性格だ。
「あ、テリー。一緒に野球やる?」
俺のガンビアが声を掛けてきた。こいつは俺の四倍以上の大きさがある。友達じゃなかったら絶対に関わりたくない。だが、こいつは俺の友達だ。さらに言えば、俺が従えている――はずなんだが今日は断られた。ちょっと生意気だなこいつ。
「いいぜ、俺のかっこいいとこ見せてやるよ。で、野球ってなんだ」
なんだよ。こいつら新しい遊び楽しんでんのかよ。俺は初耳だぞ。なんで教えてくんないんだよ。はぶるなよ、くそっ。
「バット持って打ち返せばいいんだよ」
バットってなんだ。辺りを見渡すと、近くに棒があった。これがバットか。
「ん、これか?」
「それそれ。それ持って僕がこのボールを投げるから打ち返すんだ」
「なるほどな。へへっ、楽勝だぜ」
「んじゃ、いくよー」
びしゅっ――
俺は思いっきりバットを振り切った。
どすっ――
ん。なんか鈍い音がしたぞ。俺は振りかぶった体を戻し、前を向いた。俺のバットが俺のガンビアの足元にあった。
「なんか飛んだぞ。これでいいのか?」
案外飛ばなかったな。もうちょっと勢いをつけるべきか。
「テリー、バット投げちゃダメだよ。ボールに当てなきゃ」
俺のガンビアが足元に転がっているバットを拾った。
「ああ、そうだな。わりぃわりぃ」
やっぱ違うのか。んじゃ、ボールどこいったんだ? まぁいいか。俺のガンビアからバットを受け取る。
「にしても大丈夫か? おもっきり腹に当たったけど」
実はちょっと見えていた。俺のバットが俺のガンビアの腹に吸い込まれていく光景を。ちょっとあれは見てててやばかった。えぐい音したしな。
「ちょっと痛かった」
俺のガンビアが腹をさすって答える。
「まじかよ。これでちょっと痛いだけってすげえな」
やべえな。こいつ化物かよ。バット握った時、結構硬かったぞ。それに加えてあのスピード。俺なら確実に死んでる。こいつ桁違いだな。さすが俺のガンビア。
「このバット結構硬いぞ」
どすどす。俺のガンビアは頑丈だ。どれだけ殴っても痒い程度しかない。やべえこいつ。まじの化物じゃん。俺はぶんぶんガンビアの腹にスイングする。
「頑丈なんだな」
俺は自分のことのようにどや顔でガンビアを見た。
「痛い痛いよ! 」
めっちゃ涙目になってた。やべえ調子乗りすぎた。
ガァアアー!!!
俺のガンビアが吠えた。あ、やべえ、やらかした。
「おっと、悪い悪い。そう怒んなよ。大丈夫か? 腹」
俺はガンビアの腹を撫でながら言った。心臓はバクバクしてる。今すぐ距離を置きたいがここで逃げたら後々やばいことになる。今は落ち着かせないと。
「もういい。次投げるよ」
ガンビアはなんとか正気に戻った。ちょっとムスッとしてるけど。
「怒ってる?」
完全に鎮まってもらわないと困る。今後制御するのが難しくなるからな。俺はどうしても聞くしかなかった。
「怒ってない。早く打席つけ」
俺のガンビアはもう手遅れだった。抑えられないくらい怒っている。俺は早々に諦めた。
「おいおいまじかよ……嫌な予感しかしねえぞ」
打席へと戻った俺が前を向いたときには、俺のガンビアが野獣化していた。嘘だろ、こんなの死ぬだろ。おいなんとかしろ。俺は他のやつらにそう言おうとしたが、誰もいなかった。
「まじかよ。お前ら逃げるのはええよ!!!」
「お前が怒らせたんだろ!! 責任取ってくたばれ!」
「なっ、俺たち友達だろ! 見捨てんなよ!!」
「お前は友達じゃねえよ!!! ガンビアに言われてたから仕方なく付き合ってたけどお前なんかクズだ! やられろ!」
グォォオオアア!!!
ガンビアが吠えている。暴走してんじゃねえのこいつ。もう仕方ねえ。ここで逃げ出したりなんかしたらまじで終わる。俺は震える体に鞭を打ちバットを握りしめた。俺どうすんのこれ。
グォォオオアア!!!!
ガンビアが再び雄叫びを上げ足を振りかざした。終わったな、これは。
刹那――ドゴォォォォオオオオオオン!!!!
ばかでかい音が鳴り響いた。草木が揺れ小鳥が慌てて羽ばたいていく。
ボールは俺の眼前を通りすぎた。一歩も動けなかった。耳がじんじんする。俺はその場に座りこんだ。
な、なんだ今の。俺はこんなやつを今まで従えていたのかよ。
ガンビアがここまで怒ったのはこれで二回目だ。前は他のやつらと一緒に必死で鎮めた。だが今回は違う。味方が誰もいない。
もうガンビアをからかうのは止めよう。俺は心に誓った。
ガンビアは怒りが切れたのかその場に倒れ込んだ。遠くで見ていた連中がガンビアの元へ駆け寄る。
今度あいつの好きな物買ってやろう。
俺はガンビアの元へ歩み寄り、みんなに土下座した。謝りに謝った。俺が偉そうにすることはもう当分の間ないだろう。てか、次したら集団でボコボコにされるだろう。だから絶対調子に乗らない。
――数日後、俺は再び野球に誘われた。
ガンビアも許してくれ、今度はちゃんと遊んだ。友達と遊ぶのって楽しいな。めっちゃ標的にされるけど。