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異世界戦争(仮題)  作者: 原子牛
序章
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第五話「原子生成」

 目を覚ますと陽はすっかり登っていて、あと少しで天辺に差し掛かりそうだった。


「腹……減ったな」


 もうかれこれ半日以上は何も口にしてない。

 実際はまだ食わなくても平気なのかもしれないが、キツイもんはキツイ。


「フィルト。ほら、起きろ」


 俺の胸でスヤスヤと眠っているフィルトの身体を揺らす。


「ん……?」


 ふわぁ……と大きな欠伸をしたフィルトは俺の顔を見て「おはよカイト……」と呟いたきり、またすぅー、すぅー、と寝息を立て始めた。

 明け方の恩もあるし、そっとしといてやるか。


「おっ?」


 緩やかな傾斜を描く草原に、偶然草食動物の群れを発見した。

 昨日の件があるからか、慌てて立ち上がって「な、なにっ?」と慌てた声を上げるフィルトを他所に……俺は右手を伸ばし――数百メートル先で草を食べているステゴサウルスみたいな草食動物の一匹に狙いを定める。

 心を落ち着かせ、冷静に紫電を放つ。

 キィィィンッッ! と音を上げてうねる紫の閃光が一匹を貫くと、どさっ。

 一匹が倒れ、驚いた群れは一目散に逃げて行った。


「まだ感覚が掴めねえけど……一応は成功か」

「……ねぇ」


 一人でガッツポーズをかましていると、フィルトにブレザーの裾を引っ張られた。


「何だ……ああ、これの事か」


 この右腕の話をするとなると、明け方の事から話さないとな。さて、どう話したものか。


「それってもしかして昨日の? というか今のって……」

「おはようございます。カイトさん、フィルトさん」


 アイルも起きたか。丁度良い。


「実はな……」


 俺は昨日夢の中であった事と、朝方にフィルトが寝た後アイルに聞いた内容を、自分でも咀嚼しながらフィルトに話した。


 それを纏めると……『偽雷帝』とはこの世界に伝わる有名な伝説の英雄たちの一人で、『偽雷帝』を含めた十三人の英雄達を――『十三英傑』と、そう呼ぶらしい。

 『十三英傑』はその誰もが強大な力を有し、かつての戦争で大いに活躍したのだとか……。今も、彼等の力は時代を超えて伝わっているらしく、それが偶然、俺に宿ったというわけだ。

 ちなみに、やはり『偽雷帝』は悪名高い伝説が盛りだくさんあることからこの世界で異様に嫌われているらしく、あまり名前は出さない方が良いとのこと。


「でも心配しないで下さいカイトさん。私はカイトさんが偽雷帝だからといって迫害したりしませんから」


 待て。それって普通なら迫害されるってことか?

 なんて厄介な力を押し付けられんたんだ……可哀想な俺。


「ふぅん……この世界って色々と興味深い話が多いのね。まあ、私はカイトが無事なら後はなんでもいいけど……」

「え、最後なんて言った?」

「なんでもないわ。お腹空いたでしょ、さあ行くわよ」

「そだな」


 まあ聞こえてたけど。

 ちょっとからかうつもりだったんだが、スルーされたか。


 倒れた草食動物の下に行くと、アイルが見事な剣捌きで解体し、フィルトが炎を出して焼き始めた。

 そうか。原子生成クオリアでも焼けるんだな。便利なもんだ。


「なあ、これって原子生成クオリアなのか?」

「そうです。『十三英傑』は全員が強力な原子生成を使えますから」

「へー……」


 なんか修行もなしに一気に強くなった感じだな。

 これが噂の異世界チートってやつか?

 まあ、それで驕ったりするほど俺もバカじゃないが。


「はい、出来たわよ!」

「おっ。いい感じだな」


 香ばしい匂いが辺りに漂う。

 隣のアイルが、ワクワクした顔で肉を見ている。涎垂れてんぞ。


「「いただきます!」」

「いた……なんですか? それ」

「いただきます。俺らの故郷の作法みたいなもんで、食に感謝する意味があるんだ」

「それは……とても素晴らしいと思います! 私もやってみたいです!」

「分かった。いただきます、だぞ」

「いただきます!」


 そのあと、やけに味が薄いわりに肉汁が滴る焼き肉を食べ、俺は思わずこみ上げた涙を堪えるのだった。



 腹を膨らませた俺達は、湖へ向けて歩みを再開する。

 草原を迂回し、昨日崖上から見えた下の草原まで降りたので、後は一直線に進むのみだ。

 既に、ここからでも遠くに湖は視認できる。


「はー、それにしても食った食ったー」

「苦かった部分もあったけど、そこそこいけたわよね」

「ああ。あれは当たりだ」


 俺とフィルトが批評している傍ら、一人、恍惚の表情を浮かべている少女が。


「あんな美味しい食べ物は初めて食べました……」

「……そんなに美味かったか?」


 実際、元の世界で食べていた肉の方が数段は上だった。

 まあ食用でも無いし、調味料を持っていないのでそれは仕方がない事かもしれんが。


「はい! それはもう! 『天』では毎日、簡素で似たような物しか食べていませんでしたから。思い出すだけで涎が……」

「毎日おんなじような物ってそれめっちゃキツくない? 『地』のご飯の味を知っちゃったらもう『天』の食べ物は受け付けないんじゃない」


 フィルトが苦笑しながら言うと、アイルは甲冑の上からお腹を撫でた。


「確かに食べ物は『地』の方が断然良いですぅ……うふふ」


 ……なんかアイルって大人びたイメージだったけど、割と子供っぽいとこもあるのな。

 純粋というか素直というか……不思議な子だ。


 ともあれ――広い草原を森沿いに進み続けると、湖が近付いて来た。

 湖は、ここから見てもかなりの大きさで、幅数百メートルはくだらない。


「という訳で、カイト。私達が先に水浴びするから、あんたはどっか行ってなさい」

「えー? いーじゃん一緒に入ろペスッ!」


 フィルトに殴られ、倒れ伏す。


「フ、フィルトさん、何もそこまでしなくても……」


 おお、さすがは天使……その心遣いだけで癒される。


「大丈夫よ。こいつ体だけは異様に強いから」


 昨日生死を彷徨った人に対して酷い奴だな……。


「まあいい、じゃあ三十分くらいしたら戻ってくるよ」

「うん。あ、でもあまり遠くまで行かないでよ? 迷子になったら大変なんだから」


 お前は俺のおかんか。


「分かってるよ」

「お二人とも、私お先に行ってもいいですか?」


 待ちきれないといった顔のアイルが尋ねてきた。

 見れば、だいぶ湖の近くに来ていた。


「分かった。なら俺は――」


 アイルが目の前から消えていた。


「え?」


 バッ、と湖の方を見ると、岸辺からかなり離れた地点から跳躍するアイルがいた。

 アイルは空中で甲冑を脱衣(パージ)し、上着と下着を脱ぎ捨てた生まれたままの姿で湖に飛び込んだ。


「どんな身体能力だよ……」

「あの甲冑回収するのは私かしらね……じゃ、またあとで」


 フィルトと別れ、何処か行く当てを探した俺は……横でと葉擦れの音を響かせる崖沿いの森へと足を向けた。



 森に入ると、ざぁぁぁぁ……。

 ゲームのエリア移動みたく、BGMが変わった。


「静かだな……」


 こういう時って、独り言とか言っちゃうよな。

 やや奥に進み、辺りを見渡す。

 鬱蒼とした木々の緑葉が風に煽られ、時折その隙間から陽光と抜ける様な青空が顔を出している。動物の姿は愚か、虫一匹も居ない不思議な空間だ。


「ここなら誰も居ないか。ここなら……」


 森なら食材があるかもと注意深く周囲を観察してみたところ、一つのキノコを見付けた。

 木の根元に直接生えたそれは、赤と青を基調とした禍々しい色合いをしていた。


「森で食べ物を探すのはやめようねー」


 さて、修行をしよう。

 まずは紫電の操作確認。やはりまだ難しい……慣れが必要だな。

 次に射程距離の測定。

 腕を伸ばして真っ直ぐに紫電を放つと、どんどん飛距離を伸ばしていき――木を貫いてもなお伸び続けている。

 少しして、何処まで続くんだこれ――と思った時、突然右腕に鋭い痛みが走った。


「!? 痛ッ!」


 集中が途切れ、紫電がパッと消える。


「今のは……」


 推測だが……ゲームで言う所のMP(マジックポイント)切れなどに近い気がする。俺の中のそれが減ったから、痛みが生じて紫電が消えたと。

 そう思って試しに紫電を生み出そうとすると……普通に作れた。MPじゃなかったみたいだ。

 それなら……単に射程距離が限界だったのか、もしくは俺が一度に作れる原子生成(クオリア)の限界量に達していたのか。

 取り敢えず色々と試してみると、二つの事が分かった。


 1、原子生成クオリアには、生産限界がある(距離は関係ない)。

 2、原子生成クオリアは、体から離れると消える。


「なるほどな……」


 原子生成クオリアにも、ルールがあるようだ。


「あっ!」


 そこで俺はある事を思い出し、慌ててポケットに手を入れスマホを取り出すが……点かねえや。


「俺のバカバカバカ!」


 地面に転がってジタバタ。

 幾ら防水とはいえ、紫電使ったら壊れるに決まってんじゃん!

 ……あ、待てよ? それなら昨日雷に打たれた時点で壊れてるじゃねーか、おい。今度夢で黒騎士に会ったら弁償代請求してやる。

 まあ、この世界でスマホに用途ないから別に壊れてもいいんだけどね!


「スマホなんていらねぇんだよ! こうしてやる――ん?」


 遠くで誰かが俺の名前を呼んでるような。

 この声は……フィルトか。

 今回の修行で解った事を反芻しつつ――ついでにスマホをポイ捨てしつつ、俺はスッキリとした気分で森を出た。

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