放課後、倉庫での共同作業
倉庫前で仙石原と遭遇し、俺は自分の片付けを済ませ、仙石原の手伝いを始めた。彼女はありがとうと、いつものようにニコニコと礼を言った。
「いやぁ、クールな宮下のお友だちはすこぶるファンキーですなあ!」
いやぁ、クソ重いアンプも台車を使って運べば息切れもせずこんな元気に喋れるんですなあ! 俺は息切れしそうだハァハァううう動悸がっ……。
「もしかして、見ちゃった?」
鷲宮のスティックを。
「ううん、私は見てないよ」
「そうか。無事で良かった」
「ふふっ、心配してくれるんだぁ♪」
「そりゃ、露出狂に遭ったとなれば」
会話しながら、お互いにアンプを定位置に片付けて倉庫を出た。扉は外開きの鋼鉄製で重く、新緑のように鮮やかなグリーンに塗装されている。
「お友だちを露出狂呼ばわりとは毒舌だねぇ」
校舎と一体になった倉庫の外は屋根がなく、ニスを塗っていない木製の床は水捌けが良い。倉庫の向かい側は商業科の教室が3室並んでいる。
「あんだけのことをすれば仕方ないだろ」
「てか、宮下も一緒にやれば良かったじゃん」
おいおいっ! こいつナニを言い出しやがる!? 猥褻物陳列罪だぞ!
「いやいや、有り得ないだろ」
「まあそこまでしなくたって、少しくらいオープンにしたっていいんじゃないかな、なんて」
仙石原はにっこりしながら言った。なに考えてるかわかんなくて気持ち悪いから塞ぎ込まないで明るく振る舞ってみたら? ってことか。
「あまりうるさくするのは俺の性に合ってない」
「別にうるさくなんなくったっていいじゃん。ただ私には、宮下が心の奥に何かを溜め込んでるように見えるから、そう言ってみただけ。他の人たちもたまに宮下のこと心配して声かけてるの見るけど、マジで見るからにお疲れオーラ出てるから私も心配なんだよ」
ニコニコしながら鋭いな。返す言葉が見つからない俺は俯いて黙り込んでしまう。
「あぁ、ごめんごめん! 別に無理に心を開けとか言ってるんじゃないから! もし何か悩み事とかあったら言って欲しいなって思っただけ! ほら私、ヒタッチの親友だし、類は友を呼ぶって言うし、ヒタッチには色々ぶっちゃけてるって聞いたから!」
妙に慌てているが、つまり、浸地だけじゃなくて私とも仲良くてねってこと? こんな根暗と仲良くしたって運気が下がるだけだぞ。無理な気は遣わないほうが身のためだ。だが断るのが苦手な俺は「ありがとう」と礼を言うのだった 。事実、仙石原が心配してくれているのはちょっと嬉しい 。
それと浸地のヤツ、まさか俺の事情について喋ったりしてないよな? まぁ、浸地に限ってそれはないだろう。ここは浸地を信用するとして、俺には仙石原に訊かなければならないことがある。件のビーズにどんなものなのかは教えてくれないだろうが。
「なぁ、あのビーズって、テグスに一日二粒以上通すとどうなるんだ? なんで一日一粒なの?」
「おぉ、ちゃんとビーズやってくれてるんだね! わかった、そんくらいなら教えたげる! 但し、条件がある!」
仙石原は腕と人差し指を前に突き出して言った。B級ドラマや映画にある取引のシーンを再現しているつもりだろうか 。
「条件?」
「うん! 一緒に帰ってうちでディナーしよう! 私、家で一人ぼっちだから寂しいんだ」
親の共働きか単身赴任、もしくは離婚して親のどちらかがいないのだろうか。俺自身、家庭の事情については口外したくないので、仙石原の事情も探らないでおこう。
「じゃあ、ごちそうになります」
正直、ちょっと照れ臭いし緊張する。慣れない女子の家で二人きりでディナーとは。浸地とは訳が違う。ともあれ 、寂しいからと誘ってくれた人に対して断るのは気が引けるし、ビーズについても知りたい。よって、俺は仙石原にディナーを御馳走してもらうことにした。