しあわせになる方法
俺がようやく辿り着いた答え。あぁ、そうだ、至極単純で、いちばんしっくりくる。
石神井さんが小学生のころ、謎の老婆からビーズをもらったことから始まり、未砂記のお姉さんや未砂記を介して俺やオタちゃんに渡ってきた『幸せになれるビーズ』。
では敢えて『本当の幸福』を定義するなら、どのような条件で成り立つのか。
俺は未砂記をはじめ、周囲の人々とのコミュニケーションをとるうち、思わぬヒントを得られた。その他の人物も、ときに反面教師もいたが、ヒントは至るところに散らばっていた。
幸せを呼ぶビーズで本当に幸せになる方法。
それは、自分『だけ』が幸せになろうとしない。
たったそれだけだ。
本当の幸せ、それは決して一人では手に入れられないもの。昔から言われているが、人は一人では生きられない。自分を支えている人の数は知れず、人だけではない。ペットや食べものにだって支えられている。
自分というたった一人が、数えきれない、把握しきれないほどの誰かやなにかに支えられ、生きていられる。自分も誰かを幸せにする要素の一つでありたい。
自分だけが、または自分の仲間内だけが幸せになろうとして外部に不愉快を与えると、どこかで必ず不幸が降りかかる。
あのビーズをつくった人は、それを伝えたいのだろう。
2008年2月29日、俺、宮下優成は以上の結論を導き出した。
社会人になるまで残り一ヶ月。きっと未来は楽なことばかりではない。泣きたいほどに辛いこともある。でも俺は一人じゃない。恋人、友だち、僅かな数でも味方がいる。
「優成、涙目になってるよ?」
昼下がりの俺の部屋、ネコと共にここへ入ってきた未砂記が俺に微笑んで言った。
「あぁ、ビーズの真意に辿り着いたのはいいけど、やっぱり不安で心淋しいんだ、社会人になるのってさ」
そんなこと、これまで誰にも言わなかった。自分がそこそこ幸せなのはわかっている。だがどうにも割り切れないのだ。悔しいけれど、それが、まだ未熟で弱っちい俺の心情だ。
「そうだよね、私は進学だから社会人になる不安はまだいまいちわからないけど、ときには『悪魔』にも立ち向かったり、いっしょに仕事したりしなきゃいけないんだもんね。でも、私はいつでも優成の天使だから」
「へっ?」
未砂記の最後の一言に、ちょっとドキッとした。やばい、素直に嬉しい。
「なんてねっ!」
また未砂記に安心させられてしまった。俺は女の子に守られるくらい無力なのか。
「サンキュー。なぁ、俺にもなにかできること、ないか?」
問いに、未砂記は即答した。
「私ね、実は優成と付き合い始めるまで、ずっと淋しった。姉貴は死んじゃったし、お父さんは単身赴任、母親もきっと死んじゃった。友だちはいるけどなにか物足りなかった。でも優成はそんな物足りなさを埋めてくれるし、いっしょにいると安心するんだ。私の淋しさだって癒してくれた。だからもう十分、私にしてくれてるんだよ。こんどは私が優成を支える番」
そうか、こんな俺でも誰かの役に立ててたんだ。本当に必要とされてたんだ。
やべ、涙出てきた。
「どうした?」
「い、ひゃ、なんでも……」
俺をこんなにも良く言ってくれる人は初めてで、十年以上の苦労が報われたようで、どうしても涙を堪えられなくて、過呼吸になりそうなくらい苦しくて、嬉しい。




