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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
7年前

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ようやく辿り着けました

 高校卒業が間近に迫った2008年2月下旬、帰宅した優成は自室のベッドでグダグダゴロゴロしながら考えごとをしていた。枕元には腕輪やネコ、ゴキブリなど、様々な形をしたビーズ細工が所狭しと置いてある。


 優成はその中からゴキブリ形のビーズを手に取り思考を始めた。


 ビーズは本当に幸せを呼んだのか? いや、ビーズを始めてから俺の生活がいくらかマシになったのは事実だ。でもそれは偶然か? いや偶然なんかじゃない、俺だけが幸せになったならともかく、未砂記やオタちゃん、浸地も石神井しゃくじいさんも、結果的には良い方向へ進んでいるじゃないか。


 間違いない、これは必然だ。やはりあのビーズには幸福を引き寄せる力がある。


 だがその一方で、図に乗ってなんでも自分の思い通りにしようとすると悲惨な結末が待っているという話も聞いた。


 緑と赤の透き通ったビーズを交互に紡いだゴキブリ形の細工を右の親指と人差し指でつまみ、ときどきその人差し指で長い触覚をちょんちょんしながら真剣に考える優成。


 なら、どん底だった昨春から現在に至るまで、俺になにがあっただろう? なにをしてきたのだろう?


 未砂記からビーズを貰って、未砂記に告られて、付き合い始めた矢先に未砂記がアイツに刺されて、未砂記を見舞いに行って、俺は泣き叫んで自分の無力さと未熟さを痛感……。


「やはりどう考えてもこの一年間、未砂記に絡んで俺の人生は転機を迎えたという結論に至る」


 そのとき、部屋の扉がカチャンと開いた。


「う〜ん、それはどうかな?」


「うわっ!? なんでここに!? 勝手に人んに上がり込みやがって!! ってかどうやって入った!?」



 優成の部屋に突如現れたのは、未砂記だった。


「大丈夫だよ。ネコちゃんから許可は取ったから。縁側からいっしょに入ったんだよにゃ〜?」


「ぉああん!」


 未砂記の後ろからネコが付いてきていた。宮下家に住むペットのネコの名前は『ネコ』だ。


 ネコはそのまま部屋に入り、絨毯にバタンと倒れるように横たわった。未砂記もそれを真似て絨毯に寝転びネコの頭を右手で撫で「可愛いにゃ〜」と話しかけた。ネコは目を閉じてとても嬉しそうだ。その証拠に人間で言えば前足を地に着けた正座の体勢になり、足踏みを始めた。優成もネコの背中を撫でてみた。


「フシャーッ!!」


ネコは閉じていた目を急に見開き立ち上がって牙を剥き出しにしながら優成を威嚇した。


「なんだその態度の違いは。俺が猫嫌いだってならわかる。だが俺は猫好きだ。いままで俺に懐かなかった猫はお前以外にいないぞ」


 優成は心底落ち込んだ。


「ネコちゃんは女の子のほうが好きなんだよね〜」


「だからって5年近くいっしょに暮らしてる、尚且つ命の恩人である俺を威嚇しなくたって」


 優成がネコと出会ったのは中2の秋、妹と山の中を歩いていると突然骨と皮しかないくらいに痩せ細った生まれて何週間も経っていない子猫がフヒャ〜、といまにも死にそうな声とともに現れた。二人はその子猫の全身を撫でて立ち去ると、なにやら後ろから付いてきていた。それを振り払うなど善良な中学生と小学生にはできなかった。結局、山から約5キロ離れた海岸地域の宮下家まで付いて来た。


 白い毛なのに汚れて黄色くなっている子猫を、とりあえず小学校低学年のときにカブトムシを飼っていた大きめの虫籠むしかごに入れ、市内の動物愛護病院に連れて行き里親探しを依頼したが、2週間は預かってくれというので預かった。


 いっしょに暮らしていれば愛着が湧く。ましてや母親、優成、妹は猫好きだ。ということでそのまま家で引き取り、現在に至る。


 最初は食べる気力もなくミルクしか飲まなかったネコも、いまではすっかり余分な肉が腹に垂れ下がり、特別贅沢ではないが、思うに幸せな生活を送っているのだろう。懐いてないとはいえ、5年前は死にそうだったネコがこうして日常の生活を送って、走り回ったり眠っている姿を見られるだけで、こちらも幸せな気分になる


 優成はそれを熱心に未砂記に語った。


「あっ! あのビーズの力って、もしかしてそういうことか!」


 優成はようやくビーズの本質に辿り着けたようだ。未砂記は「やっと気付いた?」と言わんばかりにフフッと微笑んだ。

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