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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
7年前

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幸せのコツ

 ビーズが引き起こした悪い結末。それは石神井さやかの従兄弟である川越勇一がビーズの力を悪用した結果、未砂記の母親である仙石原よし江と、未砂記の姉である絵里の死亡。もっとも、よし江の死亡は確認されていないが、あれから約8年経過した現在も消息不明なのだからそう見るのが自然だろう。


 さやかは従兄弟のビーズの悪用によって家族を亡くした未砂記にそれを伝えるべく、その前に博文に相談を持ち掛け全てを打ち明けた。


 さやかは未砂記に対する罪悪感を小5から高校卒業間近の現在までずっと背負っている。


 話が重く、今どうすれば良いのかわからなくなったオタちゃんは取り敢えずさやかを慰めた。


「よく打ち明けてくれたね。もう大丈夫だよ、これからも辛いことがあったらいつでも僕に言ってよ。力になれるか自信ないけど」


 それを聞いたさやかは一気に緊張が解けたようで肩を下ろし、深刻そうな表情が柔和になった。


「ありがとう、小田くん、決めた、私、明日仙石原さんに打ち明けてみる」


「わかった。じゃあ僕もいっしょに行こうか?」


「ううん、これは私の問題だから、最後は自分で決着つけるよ、けど、ありがとう、小田くん」



 ◇◇◇



 翌日は卒業式の前日で登校日だった。さやかは未砂記を校舎の屋上に呼び出した。この学校の屋上には小さな池があり、鴨の親子が列を成してぺたぺたと散歩していた。


「さやかちゃんが私と二人きりでお話なんて珍しいね」


 さやかは笑顔が絶えない未砂記にあんな話をする抵抗があった。しかしもう自分の中で後戻りはできなかった。


「はい、とても大切なお話です」


 二人は近くの木のベンチに腰掛け、テーブルを挟み対面する。


 さやかは春の風が吹く青空の下で、昨日オタちゃんに話したようにすべてを打ち明けた。それを聞いた未砂記がどんな反応をするか、さやかはそれがとても不安だった。


「本当に、申し訳ありません、とてもお詫びしきれません」


「そっか、そうだったんだね。でも大丈夫、さやかちゃんはなにも悪くないよ。だからもう気負わなくていいよ」


 未砂記の反応は、驚きを見せたものの落ち着いていた。


「でも、私が勇一にビーズを渡さなければ」


「それは仕方ないよ。勇一だって本当はいい人なんだから。私だって信頼してたもん。きっと彼も反省してるし、姉貴だって許してくれてるんじゃないかな? それよりさやかちゃんと勇一が従兄弟だったなんて知らなかったよ! あとビーズがさやかちゃんから渡って来てたなんて。その、う〜んとね、私はビーズのおかげで幸せになれたよ! 中学のときから好きな人とも付き合ってるし。だから結果オーライってことで! ねっ?」


「本当に、良いんですか?」


「う〜ん、じゃあ一つ課題を差し上げましょう」


 未砂記は何か思い付いたかのように左手の人差し指の腹で自分の顎を押しながら言った。


「はい、なんでも言って下さい」


「私ね、まだ期末試験の追試課題が終わってなくて、このままじゃ卒業できないんだ。本当は提出期限過ぎてるんだけど、なんとか頼み込んできょうまで待って貰えることになったんだ」


「はい?」


 追試など受けたことのないさやかにとっては、その意味がよく理解できなかった。というよりそんな状況が実在するなど信じられなかった。


「だから、それ、手伝ってくれない? 最初は優成に手伝って貰おうと思ったんだけどアイツもできないらしくて」


「は、はぁ……」


 その日の夕方、必死でレポート用紙15枚の課題を終わらせた(さやかの助力大半で終わらせてもらった)。


 ちなみに未砂記の追試課題の教科は化学で、内容は一年次に習った化学式の計算が主だった。さやかならそのくらい容易いが、未砂記の能力では到底及ばぬものだった。未砂記はバッサバッサした課題のレポートを持って職員室へ急いだ。


「しつれーしまーす!! せんせーっ、課題できたよー!!」


 定年近い講師はどこか間抜けな顔付きで円形脱毛が激しく、加齢臭が漂っていた。


「はぁ、あのですね、ここは職員室なんですね。もうちょっと静かな登場はできないですかねぇ」


 すると未砂記は講師にそっとささやいた。


「これ以上文句言うと先生がソープ通ってることばらすよ?」


 講師は手の平反したようににっこりした。


「はい、文句なしの素晴らしい出来です。これで無事に卒業ですね」


 また未砂記は囁いた。


「うん、だって、さやかちゃんが答え教えてくれたからねっ!」


「……」


 未砂記は黙り込む講師を覗いた。


「どうしたの? せんせ?」


「やはり卒業は考え直したほうが」


「そっか! じゃあばらすよ?」


 無事に(?)課題を提出し、肩の荷が降りた未砂記は揚々と教室に戻った。


「仙石原さん、どうでした?」


 他に優成と浸地ひたち、博文が残る教室で南側の自分の席に座っているさやかが未砂記に問い掛けた。


「バッチリ! さやかちゃんが手伝ってくれなかったら留年だったよ! 本当にありがとね!」


「いえ、こちらこそ、そんなことで済ましてくれて、本当にありがとうございます」


 こうして、さやかの長年の悩みは意味を失った。幸福を入手できるビーズには、その容易さ故のリスクが伴い、使いかたを誤れば誰かの命を奪う。未砂記はビーズの影響で二人の家族を失った。


 オイシイ話には必ずと言って良いほど裏があるのだ。だから幸福を感じたときは調子に乗らず、それに感謝する気持ちが大切で、それが幸福を全うコツでもあったりする。


 勇一は、その効果を実感して調子に乗り、人を巻き込み間接的に二人の命を奪った。


 一方の未砂記は何かを意識しながらビーズを紡いだわけではないが、効果として好きな人、つまり優成と交際でき、それだけで十分に幸福を感じている。そしてビーズを分けてくれた姉の絵里に感謝してきた。


 明日は卒業式。それが終わると進学や就職など、みなそれぞれの道へ旅立ってゆく。

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