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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
7年前

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浮気と不倫

 なにもかもが上手く行き過ぎているこのごろ、絵里とは週に一度だけ僕の部屋に誘い込んで重なり合う。しかし絵里は初めのうちは我慢していたのか、あまり声を出さなかったけれど、二度目以降、馴れてきて僕の行為が激しくなると痛がったり嫌がったりが多くなっていた。


 休日、気分転換に近所の緑地や公園を散歩した帰り、住宅街を歩いていると、絵里のお母さんと出くわした。よく絵里の家に遊びに行くから彼女とも顔を合わすことはある。


「あら、勇一くん、こんにちは」


「どうも、こんにちは」


 互いに愛想良く挨拶を交わした。


「勇一くん、いま絵里も未砂記もいないけど、良ければうちに寄ってかない?」


「あ、はい、じゃあお言葉に甘えて」


 帰宅したところで僕を待っているのは参考書の山。いつもしっかり勉強しているからきょうはもう少しくらい堕落しても良いだろうと、家に上げてもらうことにした。


 絵里のお母さんの年齢は見た目と子どもの年齢から推測しておそらく三十代半ばくらい。しわ一つない、和服の似合いそうな大和撫子だ。きっと娘である絵里や未砂記ちゃんも将来はこんな美人になるであろう。


「アイスティーでいいかしら?」


「あ、はい、ありがとうございます」


 リビングのソファーに腰掛け、芝生の庭をぼんやり眺めながら、絵里のお母さんとアイスティーを待つ。


 しかし、なんと言うのだろう、気まずいとも違うし、緊張とも違う、どこかそわそわする、絵里のお母さんと二人だけの空間。


「勇一くん、絵里とは上手くやってる?」


「はい、いつもお世話になってます」


「あらあら、そんなにかしこまらなくていいのよ」


「いえ、なんというか、こういう言葉遣いのほうが楽なんです」


「そう、なら仕方ないわね」


 すると彼女は立ち上がり、部屋を出て階段を上がった。暫くすると少し重たそうな段ボール箱を抱えて戻って来た。それを開けると中にはB5サイズのアルバムが二列に行儀良く平積みされていた。


「これ、絵里が生まれた次の日に撮った写真よ」


 それは病院のベッドで絵里のお母さんが絵里を抱っこをしている写真だった。


「絵里ね、生まれてすぐには泣かなかったの。だからやっと初産ういざんが終わったのに、不安と恐怖でどうしようもなかったわ」


 アルバムのページをめくりながら産後から現在に至るまでを語る絵里のお母さん。母として、娘への愛情が伺える。


「勇一くん、何か悩みごとはない?」


 あらゆることが上手く行き過ぎている中での悩みといえば、絵里との肉体関係だ。しかしそんなこと、本人の母親に打ち明けて良いものだろうか。


「なんでもいいのよ?」


 なんでもいいと言われても抵抗あるのが一般的であり、僕もその例外ではないのだけど……。いや、そもそもそんなこと、バレてはならないのであって、うん、言えないな。


「いえ、ホントに大丈夫です。いまのところは」


 これが妥当な答えだ。きっと。


 それからというものの、絵里のお母さんには同年代とは話しにくい大人だからこそできる話や悩みを聞いてもらったり、時々は僕が聞いたり、そういった相談相手としての関係となり、絵里のお母さんではなく、一個人のよし江さんとして接するようになった。ちなみによし江さんは自分の名前が気に入らないらしい。


 この名前は彼女の父親の名前『義一よしかず』を引き継いだもので、女子に『義』の字は付けにくいという理由で『よし江』となったそうだ。もしかしたら父親と不仲なのだろうか。そこまで聞き出すのは癪に障るだろうからやめておこう。


 彼女と接していると、僕の日常とは少し違った上質な世界を垣間見れて、それが楽しかった。僕はそんな彼女をもっとよく知りたいと思うようになり、恋人の絵里よりよし江さんといる時間のほうが日増しに長くなっていた。


 ある雨上がりの午後、僕は絵里とのデートの後、よし江さんと二人で横浜の元町を中心に散策することとなった。


 この近辺は中華街やブランド品の店が建ち並んでいるのだが、横浜地方気象台の横を通る階段状の坂、コクリコ坂を下ると、一日20杯限定の鶏肉が入ったラーメンを出している店がある。この鶏肉が正に頬が落ちる美味しさなのだ。本当に美味しいものを食べると自然と笑顔になるのは本当だ。僕は横浜にはあまり詳しくないのでこの隠れた名店を案内した。


 ラーメン店以外は全てよし江さんのリードで終わった横浜巡り。気が付けば終電間近の時間だ。公園からベイブリッジを初めとする夜景を少し眺めこの場を去る。


 この時間がずっと続けば良いのに。


「きょうは楽しかったわ。ありがとう」


 僕に微笑みかけるよし江さんの表情はどこか絵里を思わせる。絵里のあの笑顔は母親譲りなのか。


「いえ、僕のほうこそ」


「良かったらうちに泊まっていかない? 勇一くん、家に帰っても誰もいないのよね?」


 迷惑ではと恐縮しつつ、結局泊めてもらう事になった。仙石原家の姉妹は2階の子供部屋ですっかり寝静まったと思われるころだった。周囲に騒音は無く、家の中に響くのは僕ら二人の、夜中だから忍ぶような足音だけだった。


 それからはリビングで白ワインと高級ぶどうジュースを一本ずつ開けた。


 場酔いか、ジュースでも飲んでいるうちにどんどん気分が軽くなっていく。右隣にはよし江さんがどこか寂しそうな表情で、ソファーの向かいにある窓を見つめていた。軽くなった僕の心を、彼女の切ない瞳が引き寄せる。



 ◇◇◇



 娘、絵里の彼氏である勇一くんとワインを飲んでいたらいつの間にか眠ってしまい、気が付けば朝になっていた。


「あれ?」


 寝ぼけていた気を確かにすると、私と勇一くんの着衣が乱れていた。


「うそ、これって……」


 なんてことをしてしまったの。娘の彼氏とそんなことを? けれど記憶がない。酔ってしまった勢いでしてしまったのか。私はとりあえず乱れた着衣を正し、眠っている勇一くんを起こす。



 ◇◇◇



 朝、よし江さんが慌てた様子で僕を起こした。


「勇一くん、早く服着て!」


 見ると僕の着衣は乱れていて、昨夜のままだった。そう、僕は酔った勢いでよし江さんを襲った。彼女も酔っていたらしく最初は抵抗したが、こちらの流れに引き込むのは容易だった。


 服を着てよし江さんと話してみると、どうも昨夜のことを覚えていないようだった。僕も記憶がところどころ抜けている。だが絵里が嫌がるので欲求不満だった僕にはとても幸せな時間だった。これもビーズの効力なのだろうか。


 だがさすがに恋人の母親とそのような関係を持つのはまずい。だから次の恋人を探そう。きっとこれまで有り得ないほどのミラクルを起こしたこのビーズが、また幸運を引き寄せてくれる。


 そして次の恋人、いや、そう呼ぶには語弊があるが交際相手はすぐに見つかった。まだ絵里との別れ話は切り出していない。


 高校に入学して間もない頃から好きだった絵里と別れるのが惜しいというのもあるけれど、よし江さんとも会えなくなるからだ。それに絵里の妹の未砂記ちゃんともいっしょに遊んであげられなくなるのはやはり惜しい。とりあえずしばらく黙っておこう。

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